43 実際に、写真の中で吉良の父親が近くに居たタンスを見るが、当然ながら誰もいない。 だが確かに、写真には老人が写っているのだ。 部屋の近くにも老人はいない。 「やべ〜っスよッ!これは幽霊って事っスか!?この屋敷には『死んだ吉良の父親』が居るって事スか!?」 「知ってる。こういうの、『成仏出来ずに地縛霊になった』って言うんだよね」 「…そうだな。『杉本鈴美』の例もあるからな…吉良の父親もあの世に行かずに、魂のエネルギーとなってこの家に居着いているって事は有り得るぜ」 写真に写る老人の姿を指差しながら、承太郎は続ける。 「見ろ、この表情。『とっとと帰れ』って言いたそうな面してるな」 ──その時、部屋にあった電話が突然鳴り出した。 「………」 この家の住人ではない承太郎達は、鳴り続ける電話を静観する。 だが、しばらくすると電話のコードレス受話器が宙を浮いた。 「!」 『早く電話に出んかッ、ウスノロがッ!!鳴らしてんだぞッ!』 受話器からは、しわがれた男の怒鳴り声が聴こえる。 「あれ、こういうのが…電話にでんわ?」 「やれやれ、上手い事を言ってる場合か」 首を傾げて呟く九龍に、承太郎は空気を読めと呆れる。 すると、宙を浮く受話器が3人の方を目がけて飛び、仗助の顔面にぶつかった。 「うぐっ」 「仗助!」 「この幽霊、物を動かせるのかーッ、チクショーッ!全然痛かねーけどよォーッ」 口から血を流しながら、仗助は強がる。 「おーい、そっちでどーかしたかよ?」 騒ぎを聞きつけ、向こうの部屋の廊下に続く襖から億泰と康一が顔を覗かせた。 承太郎は彼らに無言で手で制止の合図を送る。 『このワシが『帰れ』って言いたそうな面だとォ〜?誰も"帰れ"などとは思っていないぞ…』 宙を浮く受話器に億泰達も驚き、ようやく向こうの部屋で起きている異変を知った。 『逆だッ!マヌケッ!そのワシの顔はお前らをこの屋敷から絶対に"帰さない"という決意だッ!"息子"を追う者は死んでもらう!』 「てめーっ、自分の息子の犯罪を知っていたのか〜ッ!」 吉良の父親の言葉を聴き、仗助は怒りを露わにする。 『愛する息子は…ワシが守ってきた。幽霊となって、ずっと守ってきた…』 「………」 一方で、幼い頃に死に別れ、成長してから己の父親の所業と残忍な本性を知ってしまい、記憶に残る父の優しさを愛と信じきれないでいる九龍は、吉良の父親の言葉に戸惑う。 父親だから、息子が殺人鬼だと知りながら息子を守り続けていたのか。 父親の愛とは、そういうモノなのだろうか。 『そう、いい子だ。我が息子よ』 九龍は胸のペンダントを片手で握り締める。 「どこに隠れてる!?姿現せッ!コラァ──ッ」 電話を使って会話をしてくるという事は、何処かに吉良の父親が居る。 仗助は辺りを見回しながら見えない敵に呼びかける。 だが、承太郎は手に持つ写真から目を逸らさないまま、口を開いた。 「仗助、コイツは隠れていない。既に吉良の父親は現れていたらしい…最初から」 「えっ、じゃあ何処にいるの?」 そして、九龍と仗助に写真を見せる。 「見ろ、この写真を…」 ただの、普通の写真だ。 そう、3人がポラロイドカメラから出てきた直後の写真を見ていなければ──… 「え!?なんで!?」 写真に写る吉良の父親の動きが変わり、手にはコードレスの受話器を持っている。 「『写真』の中で動いているんだ。コイツ、写真の中から電話しているぜ…」 受話器が再び、仗助を狙う。 今度はぶつかる前に、仗助がクレイジーダイヤモンドで受話器を破壊するが、何故か後頭部に何か硬い物体がぶつかる痛みが走った。 「イッテー!何だ?何で命中すんだ?さっきからスゲェいいコントロールしてるじゃねーかよ〜」 「違う、コントロールでは無い…攻撃しているのは『写真』の中だ」 ずっと写真の様子を見ていた承太郎が仗助の疑問に答える。 「吉良の父親は『写真の中』で『写真の中のお前』に受話器をぶつけた。写真の中のお前を攻撃したんだぜ、仗助!」 つまり、吉良の父親は写真の範囲内での行動に干渉を受けない。 やりたい放題…逆に写真に写る承太郎達は彼にされるがままという事だ。 「…ヤバイな」 写真の中の様子に、承太郎の顔色が変わる。 「『包丁』を出してるぞ、コイツ」 「包丁!?包丁なんてこっちにゃあ、何処にも無いっスよッ!」 写真では包丁を持った吉良の父親が承太郎達の所に近付いて来ているのだ。 「写真の中で刺されたら、さっきみたいに…?」 「仗助君!幽霊ならスタンドで攻撃出来るよ!露伴先生はヘブンズ・ドアーで鈴美さんの記憶を読んだんだものッ!」 向こうの部屋から康一が叫ぶ。 あの人、何て事してるんだ…と、露伴に記憶を読まれた経験を持つ九龍は呆れる。 「そうか!野郎、こうしてやるぜッ!」 助言を受けた仗助はスタンドで写真を破く。 だが、写真の亀裂に重なる部分に写る承太郎達と同じ場所に、本物の承太郎達の身体に亀裂が走る。 「わあぁぁぁ!仗助と承太郎がっ!」 「な…なにィ〜!?」 背が低い九龍は被害を免れ、髪が少し切れただけだが、眼前の衝撃的な光景にパニック状態に陥った。 「ヤ…ヤバイ…早く写真を直せ、仗助ッ!写真へのダメージは俺達自身に戻ってくる様だ!」 何とかクレイジーダイヤモンドで写真を修復し、惨事を回避したが、この写真が厄介である事に変わりは無い。 「億泰、オメーの出番だぜッ!オメーのザ・ハンドでこの写真の親父の所だけ削り取ってくれ!オレ達の所は間違っても触んねーでよー」 「おう、任せときな、仗助!」 仗助の提案に乗り、向こうにいる億泰が部屋にやって来る。 小走りでこちらに来る億泰。 …が、部屋をすり抜けて廊下の窓ガラスに激突したのだ。 「えっ!?」 「お、億泰!?」 窓ガラスに正面からぶつかった億泰は後ろを振り返る。 そこには、自分が辿り着こうとした部屋が存在した。 「な…なんだあ〜っ!!何でいきなり部屋飛び越して窓にブチ当たるんだァー?」 康一も承太郎達が居る部屋に恐る恐る腕だけを伸ばすが、部屋をすり抜けて腕だけが億泰の居る廊下側に出現する。 「まさか、この部屋…」 反対に仗助が部屋を出ようとするが、見えない壁に弾き飛ばされて出られない。 「ううん、この写真って、もしかして…」 『やっと気付いたのかね、フフフ…お前らはもう外に出る事は出来ない。その見えない壁は"写真の枠"だ!』 攻撃を防御する事も、写真の中を自由に動ける吉良の父親は承太郎達を盾にするので、彼だけを攻撃する事も出来ない。 このままでは、一方的に吉良の父親に攻撃されるだけだ。 「…親父を止めるのは、諦めた。しかし、この写真からコイツだけを引きずり出せばいい訳だな」 承太郎は写真を手に、机のポラロイドカメラに写真の表を向ける。 そんな承太郎の行動の意図を悟り、九龍は写真にスタンド能力を使い、吉良の父親の動きを鈍らせた。 …逃げられない様にする為に。 『な…?』 吉良の父親が写る部分にレンズを近付け、承太郎がシャッターを押す。 承太郎が手に持っていた写真からはレンズが当てられた部分だけが消失し、ポラロイドカメラから撮影された写真が出てきた。 用済みになった自分達の写る写真を放置し、承太郎は出てきた写真を手に取る。 「自分の写っている写真を支配するというのなら…コイツだけをもう一度カメラで撮って隔離すればいい、ってトコかな」 出てきた写真が徐々に鮮明になっていく。 そこには承太郎の予想通り、吉良の父親だけが写っていた。 『なにィ──っ』 「さてと…この家からゆっくりと吉良吉影のへの手掛かりを探すとするか」 「ゆっくり、って所に悪意を感じる…」 >>書ける余裕があったらこの話を書きたいと思っていました。 主人公はもう優しかったDIOを100%信じてる訳ではありません。 |