46 「この人が、吉良吉影…」 顔を変え、今までの人生を捨て、他人に成り代わった男を、ようやく見つけた… 「下がって!ガス漏れ爆発の危険がありますので、危ないから下がって!」 辺りを囲む救急隊が野次馬を制止する。 「あそこに怪我人が倒れています!担架を運んで下さい!」 彼らの一員である1人の女医が吉良に駆け寄る。 怪我を負っている吉良を事故に巻き込まれたと勘違いしているのだ。 確かに何も知らない人々から見れば、これは事故であり、怪我をしている人間は被害者なのだ。 「聴こえますか?今、救急車が来ます。もう大丈夫ですからね」 女医は吉良の身体を触診しながら、優しく励ます。 だが、その様子を見て尋常じゃなく焦り出したのは、川尻早人だった。 「その人を吉良に近付けちゃあ駄目だぁーッ!」 早人の叫びの意味を、間もなく承太郎達は知る事になる。 「しっかりして下さい、すぐに病院で手当てしてもらえますからね」 女医の手を握る吉良。 『君、男の子だけど綺麗な手をしているね』 以前にも、こうして『手』に異常な執着を見せていた。 しかし、承太郎達にはそれだけではない光景が『視えて』いる。 彼の背後でスタンド、キラークイーンが不気味な顔で女医を見つめている姿が… 「た、大変だ!あの女の人が…爆弾に変えられてしまったぞ!」 「えっ?」 スタンド使いでは無いはずなのに、吉良の行動を断言した早人に九龍は驚く。 九龍達は知らない。 今日の朝が、何度も繰り返されてきた事を。 「爆弾に変えて人質だと〜、やるならやってみろッ!早人を爆破した時の様に、またオレがその女を治してやるぜーッ!」 「ち、違うんだ!」 言葉足らずで自身の意図と違う解釈をされ、早人は慌てて仗助達に自分が知っている吉良の力について話し始めた。 「人質なんてなまっちょろいもんじゃあない!僕は知っている!ば、爆弾は爆弾でも…今まで説明する暇が無かったけど、アイツには隠された『能力』があるんだ!」 偽りの親子として過ごした期間に、早人だけが知ってしまった情報を──… 「『バイツァ・ダスト』っていう時間をぶっ飛ばす能力なんだーッ!」 一同は驚きのあまり、絶句する。 以前、邂逅した時はそんな能力など持っていなかった。 手を抜いていた? いや、確かに吉良は全力を出していた。 「前の時もそうだったけど、きっと…それは、僕やあの女の人の様なスタンド能力の無い無力な人間にだけ発揮して、吉良がどうしようもなく追い詰められた時だけ偶然的に産み出す事の出来る能力なんだ」 吉良は新たに得た能力を自由に使う事が出来ない。 それは、九龍が最近手に入れた時間を巻き戻す能力をまだ自由に使いこなせていないのと同じだ。 最強のスタンド、スタープラチナを持つ承太郎も、スタンドを得た当初はスタープラチナが暴走し、承太郎の命令無しに勝手に動き回っていたという。 そして、闘いの本能を持つ本体が無意識の状態で発動させるスタンドの能力には共通点がある。 生物にとっての闘争本能とは、生き残る・子孫を残す為に存在する、生存本能そのもの。 すなわち、本体の生命を守る為に発動する事だ。 「つまり、今の様にアイツがとことん絶望した状況に発動出来る、時間を1時間程だけ戻す爆弾なんだ!」 「ひっ、なっ何をするんですかッ!」 女医が悲鳴を上げる。 手に頬擦りし、挙句の果てに舐められては、いくら医療従事者でも感情を表に出してしまうだろう。 「………」 だが、今感じている恐怖以上の危機が目前に迫っている事を女医は知らない。 承太郎達だけが、知っている。 「私の名は吉良吉影…貴女だけだ!私の正体を知る者は貴女だけになる!」 「たっ、大変だ!バイツァ・ダストが始まるぞ!今、ヤツをやっつけないと、『あの女の人以外』ここにいる全員が吹っ飛んでしまうんだ──ッ!」 吉良吉影が川尻浩作に化けている事を知った時間が消されてしまう… 今、バイツァ・ダストの発動を阻止しなければ、吉良探しが振り出しに戻ってしまう。 「承太郎さん!」 距離を詰める為、承太郎が走り出す。 「来るか、承太郎!…バイツァ・ダストはお前に出会いたくない一心で発現した能力だ!近付いて来いッ!時を止めてみろッ!何秒、止められる?この私をもっと追い詰めるがいい!そのギリギリの限界さがバイツァ・ダストを発現させるのだッ!」 まるで、手元にボタンがあるような動作。 あれがバイツァ・ダストを発動させる鍵なのだろう。 「承太郎!」 吉良の言葉を聴き、九龍は慌てて承太郎を止めようとする。 追い詰めたら、バイツァ・ダストが発動してしまう… だが──… 「………」 承太郎は足を止めず、一瞬だけ九龍達に視線を向けた。 「!」 何かを、伝えようとしていた。 承太郎には何か考えがある。 九龍達を信じ、走り出したのだ。 (でも、何を…?) いや、そんなの決まっている。 『馬鹿げた事だが…しかし、その馬鹿げた事が結構重要なのだな』 承太郎の取る行動なら、今まで何度も見てきた。 「承太郎さん、時を止めろッ!キラークイーンのスイッチを押させるなッ!」 仗助が叫ぶ。 「いいや、『限界』だッ!押すね!『今』だッ!」 スイッチを握る様な仕草だったキラークイーンが親指を拳に向けてググっと押し込もうとした、その時──… ズン… キラークイーンの右腕がアスファルトの地面に沈む。 『"ACT3 FREEZE"!射程距離に到達しました。S・H・I・T!』 「な…」 康一のエコーズの姿に吉良は驚愕する。 今の今まで承太郎の存在を意識し過ぎて、スタープラチナより射程距離が広いエコーズの存在を失念していたのだ。 承太郎の行動は康一がエコーズを向かわせる為の陽動…囮だ。 「このクソカスどもがァーッ!!」 激昂しながら再びスイッチを押そうとするが、急に体が思う様に動かなくなった。 (何だ、この遅さは…) ハッと顔を上げると、九龍の横にはスタンドが立っている。 そして、またも吉良は焦りで忘れていた。 一連の流れの隙に、距離を詰め、承太郎が自身のすぐ近くに居る事を… 「スタープラチナ・ザ・ワールド!」 エコーズも無垢なる皇子もまた、囮。 時が止まっている間にスタープラチナはラッシュを決め、キラークイーンの右手をへし折った。 「『時』は動き出す」 「うげあああああーっ!」 吹っ飛ぶ吉良の姿に、九龍達は勝利を確信する。 「勝った、の?」 「や…やったッ!承太郎さんッ!」 「間に合ったぞ!」 だが、道路のど真ん中に倒れる吉良は動けなくなってもまだ諦めていない。 「今…だ。『バイツァ・ダスト』は…作動するんだ。押すんだ…スイッチを、押すんだ」 そこに、予想打にしない事態が起こった。 「ストーップ、ストーップ!誰か倒れているぞーッ!」 新たにやって来た救急車がバック移動で吉良が倒れている場所に突っ込む。 仲間の言葉に、運転手が停車させようとブレーキを踏むが間に合わず、無惨にも吉良の頭部はタイヤの下敷きになったのだ。 「きゃああああ!」 「た、大変だ!男が救急車の下敷きになったぞ!」 「こんな偶然って、あるんだね…」 あまりに突然の出来事に、承太郎達もただ呆然とする。 「戻してッ!車を戻してッ!」 吉良を巻き込んだ状態で停まった救急車に女医が叫ぶ。 「あんた達、囲いのテープから外に出てッ!」 野次馬と思われ、承太郎達は職員達に追い出されそうになったが… 「アンタも怪我人か?」 職員の1人が怪我をしている仗助に気付き、応急手当を受ける事になった。 その近くで、救急車の下から吉良を救出した職員達が緊迫した様子で話し合っている。 危うく爆弾にされかけたあの女医も会話に参加していた。 「駄目です、死亡しています。即死です」 吉良が…死んだ。 呆気ない結末に、承太郎達は全員、何とも言えない気分になっていた。 >>吉良が死にましたで済ませても良かったのですが、早人きゅんの出番は削れません。 管理人がショタコン末期患者だからではなく主人公が影響受けそうな場面はカット出来ない… |