▽ ▲ ▽


「あら、メグじゃない!偶然ね!」
「本当、こんなところで会うなんて!」

甲高い声がメグの耳の中で響いた。この場所に一番足を踏み入れて欲しくなかったものが目の前にあった。

少女はすぐにこの二人とメグが知り合い、どころか"友人"関係であることに気がついたらしく、信じられないといった顔でメグを見つめた。

「もしかして、待ち伏せしてくれてたの?」
「まあ、やるじゃない。やっぱり持つべきものは友達ね」

さあ、と言って差し出された彼女たちの手は、その子を渡せとも、自分たちに加われとも言っているように見えた。メグは自分の弱さを痛感した。彼女たちの"友達"だという言葉を否定したいのに出来ない。どうすればいいの?きっとこの手を跳ね返したら、私はこの先一人になるだろう。今までも心の中ではひとりぼっちだったが、文字通りあの蛇の巣窟の中で私は一人になる。この先あと何年も独りでいるの?それに耐えられるほど私は強くない。

身動き一つ取れない私の手を握り、少女はそっと囁いた。

「大丈夫よ、ありがとう」

そう言って彼女は走って湖をあとにした。慌てて彼女を追いかけて行った二人がこの先メグに話しかける事は二度となかった。あの子が、私の唯一の友人が湖に来る事も二度となかった。私は彼女たちの手を取ることも、あの子の手を握り返すことも出来なかった。



「全部見てた」

メグ腕を掴んでいた青年の力が少し緩んだ。振りほどく事を諦めたメグはそう、と短く返した。

「逃げたのよ。卑怯者の私は選ぶことから逃げたの。どちらの手も取れなかった。だから、今の私が独りでいるのは、その時の罰なの。当たり前よね。でも最近はもう、一人でいることにも慣れたわ。」

メグは話しながら、自分に言い聞かせているように感じた。確かに、一人でいることには慣れたかもしれない。昔と違って、上級生になって、一人で居ることに怖さを感じなくなったかもしれない。他のスリザリンの生徒とは違うんだという証明になるからと変な意地も張っていた。しかし、どこか強がっている自分がいる。今でも独りは怖い。

そんな思いとは裏腹に、何事もなかったかのように淡々と話すメグに青年は信じられない一言を短く返した。

「俺、その子と知り合いなんだ」

ばっと勢いよく青年の方を振り向くと、向こうもメグの勢いに驚いたのか目を丸くさせていた。君の名前も彼女から聞いたという彼に、どういうことなの!?何故?いつから?と質問責めのメグを落ち着けよ、と言うように手で制すと青年は続けた。

「あの後、あの子が走って逃げて行った後、俺も追いかけた。何故かってそりゃあ捕まればあの子がされる酷い事が目に見えてたからさ。追いかけるのは当たり前だろ?」

二人のしつこいスリザリン生を追い払ったあと、少女はみるみるうちに泣き出したらしい。でもそれは酷いいじめのせいじゃないー

「私のせいだって泣いたんだ、あの子を独りにしちゃったらどうしようって」

返す言葉が見つからなかった。私は選ぶ事をから逃げたが、それは彼女を見捨てたも同然だった。彼女を助ける気があったなら、あの時差し出された手を払いのけることも出来たし、彼女の手を取って一緒に逃げる事も出来た。私はそれをしなかったのに。むしろ彼女を独りにしてしまったのは私だったのに。

「ちゃんと伝わってたんだよ。君の優しさも、勿論、辛さも葛藤もさ。全部あの子はわかってたんだ。それでも一緒にいたかったはずなのに、逃げたのは自分だとも言ってた。私が立ち向かえば良かったんだってー」

全く、参ったよ。二人して同じ事を言うもんだから驚いた。と青年は笑って言うと、最後にこう付け加えた。

「この時間は多分、図書館の"特等席"にいるぜ」

居ても立っても居られなくなったメグはお礼をいうのも忘れて駆け出した。



ALICE+