▽ ▲ ▽


※モブ(名前のみ)キャラクターの登場あり。



ぺたり、と自分の頬に貼りつく髪を払いながら体を起こす。今日もまた随分と暑い。フレッド・ウィーズリーは眠い目をこすりながら階段を降りた。長めのテーブルの周りに置かれた椅子にいつも通り腰をかけている彼女に声をかける。

「自分の歯をイヤリングにする方法でも調べてるのか?」

彼女は相変わらずお寝坊さんね、と振り向きフレッドの言葉をさらりと流すと、また持っている教科書に視線を戻した。

「今日は魔法薬学のレポートを手伝ってもらう約束よ」

流されてむっとしているフレッドとは反対に、うきうきと目を光らせている彼女は嬉しそうに話す。キッチンに置きっぱなしのマドレーヌをつまみ食いしながら、フレッドは彼女の隣に座った。

「よくもまあ毎日毎日あの暑苦しい赤毛を見て飽きないな」
「あら、あなただって綺麗な赤毛じゃない。フレッドこそ、そろそろ髪を切ったら?」

彼女はフレッドの目にかかる前髪を払いながら、私が切ろうか?と提案した。フレッドはその目をまじまじと見つめ冗談だろ?と言うと、昔ロンが彼女に髪を切られた後、しばらく部屋から出てこられなくなったことを思い出した。

「私、あの頃よりは上手くなったと思うけど」

このくらいの短さがいいかしら、と一人ぶつぶつ考えながら彼女はフレッドの髪をいじり続けている。可愛い。フレッドは前髪の隙間からちらりと除く彼女を見ながら素直にそう思った。でもこっちが意識してしまうから、あまり触らないで欲しい。

ガチャリ、という音と、彼女がぱっとフレッドの髪から手を離したのはほとんど同時に思えた。その反応の早さににフレッドがあ然としていると、あの"暑苦しい赤毛"が、やあ、と挨拶をしながら爽やかな笑顔で立っていた。

「メグ、今日はまた一段と早かったね」
「そう?約束の時間ぴったりよ。それより今日のレポートを片付けたら課題がひと段落するの。だからはやく終わらせちゃいましょ!」

まるで自分の家のように彼の手を引っ張って招き入れるメグの顔は、本当に嬉しそうだった。わかったわかったと、笑いながらメグに手を引かれる彼は、ウィーズリー家自慢の長男であり、フレッドの最大のライバルである。



「本当にフレッドのお兄さん?」

それが部屋に来たメグの第一声だった。小さい頃から家族ぐるみの付き合いをしていたペンバートン家のメグは、11歳の時、忙しくしている彼と初めて顔を合わせたのだ。

「本当の本当にフレッドのお兄さんなの?とっても素敵な人ね!」

部屋に入ってくるや否や、フレッドの返事もろくに聞かず、メグは延々とビルの魅力について語り出しだ。長い髪が綺麗だとか、とってもハンサムだとか、親切で素敵だとか....多すぎてフレッドもよく覚えていない。一つわかったことは、メグをビルに会わせたことが大失敗だったということだ。あまりにも興奮して話し続けるメグに、勉強の邪魔をしないでくれ!と部屋のドアを強く叩く音がした。ごめんなさいとドアに向かって謝まるメグを見て、歯止めをかけてくれたパーシーにその日だけ感謝した。



それから何年経ってもメグはビルに夢中だったが、フレッドも同じようにメグにずっと想いを寄せていた。どれだけあの日ビルに会わせたことを悔やんだか。幼い頃から1番近くにいたはずのメグは、一瞬にしてこちらを見向きもしなくなってしまったのだ。

今日は、パパは休日出勤、ママとジニーは服を買いに出掛けたし、ロンとジョージは、休暇の取れたビルも連れてクィディッチ用品を見に出掛けた。フレッドも一緒に行く予定だったが、メグが来るなら留守番しておいた方がいいだろうと言い出したのだ。なんでも、あのビルがメグとの約束のために一足早く家に帰るらしい。留守番というより、ビルとメグを二人きりにさせたくなかっただけだが。

隣で羊皮紙を広げ、うーんと唸っているメグは、ビルから度々的確なアドバイスが降ってくるらしく笑顔でありがとう、と言うとまた羽根ペンを動かす。そんなメグを眺めていただけなのに、不意にビルと目が合った。

"邪魔して悪いね"

そう思われるのも癪だが、だったらメグの誘いを断って欲しい、と目で訴えているとひと段落したらしいメグは伸びをした。

「そろそろお茶にしない?今日はママがスコーンを焼き過ぎちゃって大変だったの」

メグはお茶の準備のために右上の戸棚の扉を開けようと立ち上がる。ウィーズリー家の何処に何があるのか、もう随分と昔からメグは把握済みだった。

「僕はもうそろそろ行くよ」

スコーンはまたの機会に頂こうかな、とお茶を一杯飲み干したビルは、また別の用事があるのか支度をし始めた。鞄の中には、教科書が何冊か見てとれる。

「もしかしてまだ勉強してるのか?」

フレッドが不思議そうに尋ねると、人に教えるための勉強も、凄く自分のためになるからね、とビルはにっこり笑って出掛けて行った。

「今更英語の勉強なんてついに頭がおかしくなったのかと思ったよな」
「フレッドは今からでも遅くないわ」

メグもにっこりと笑いながら答えた。何か言い返そうと思ったが、機嫌を損ねてスコーンが貰えないのは困るのでやめておいた。サクサクとスコーンを齧りながらも最初は羊皮紙とにらめっこしていたメグだったが、集中力が切れたのか、途中からはペンを投げ出して話に花を咲かせていた。話は課題の話から始まり、あの教科の試験はここが出やすいだとか、スネイプ先生は相変わらずスリザリン生を贔屓しているとか。

「あとね、最近やっとイヴに彼氏が出来たの」
「へえ、そりゃめでたい。相手はどんな奴だ?」

メグと同室の子だったよな、とフレッドは思い出した。確か髪は短くて背が高い...あまり女の子っぽいとは言えない雰囲気だったが気がする。

「チャドっていうレイブンクロー生よ。優しそうな顔してたわ。それにね、ああ見えてイヴったら可愛いの!どうやったら目を見て話せるのかとか、あと手を握られた時の話とか!すごく素敵で羨ましいわ」

女の子はこの手の話題が好きなんだろう。目をきらきらさせて話すメグはとても楽しそうで、ぼんやりと見つめていたら話が頭に入ってこない。気づいたら頬杖をついていた。

「ちょっと、フレッド聞いてる?」

顔の前で手を振るメグに、聞いてる聞いてると適当に相槌を打つとふいっと顔を逸らされてしまった。拗ねてしまう前に話を合わせようと、適当に浮かんだ言葉を投げかける。

「メグも、ビルにそういうことされたいって思うわけ?」

あ、失敗した。と尋ねた瞬間に思った。やっぱりなんでもないと取り消したかった。少し考える素振りを見せた後、メグはすぐに答えた。

「そりゃあ私ぐらいの歳の女の子はみんな思うでしょう?勿論私も思うわよ」

"がっくり"、本当にそんな効果音が聞こえそうな程肩を落とした。馬鹿な自分にほとほとあきれる。自分で自分の痛いところを突くようなことをしなくてもいいのに。

しかし項垂れていたのもつかの間、その後のメグの一言で一瞬で我に返った。

「でも、なんでビルなの?」

その言葉に、フレッドは大きな瞬きをぱちぱちと繰り返すことしか出来なかった。



ALICE+