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「フレッド?どうかした?」
メグの質問に答えられずしばらく彼女の目を見つめることしか出来なかったが、もう一度かけられたメグの声でフレッドはテーブルから乗り出して答えた。
「なんでって、メグ、ビルのことが好きなんだよな?」
今度はメグがぴたりと止まって動かなくなった、と思うとみるみるうちに顔が赤くなっていく。はあ?と叫ぶと、同じようにテーブルから乗り出して答えた。
「なんでそういうことになるの!?私、ビルのことが好きだなんて言ったことあった!?」
フレッドもはあ?と顔をしかめるしかなかった。メグは暑いのか恥ずかしさからなのか、手でぱたぱたと顔を仰ぎながら、わけがわからないといったような顔をしている。じゃあ今までのビルに対する態度はなんなのか。それこそわけがわからない。
「現にほら、ビルの名前を出した途端赤くなってるし」
「それはフレッドがいきなり変なこというから...」
視線を落としたメグは、椅子に深く座りなおし、自分を落ち着かせるように息を吐いた。
「ビルは...私の憧れみたいなものよ。確かに...小さい頃は好きだったかもしれないわ。あんなに完璧な人、他にいないもの。それにあの頃の歳の女の子は、年上の男の人が何倍も格好良く見えるものなの。もちろんビルは今でも格好良いわ。でもそれとこれとは別よ」
男の子にはわからないかもしれないけど、と付け加えるとメグは紅茶を一口すすった。メグは自分の答えに満足したようだが、フレッドには未だにわけがわからないままだった。憧れ?それだけの感情であんな態度になるのか?メグはあの日からずっとビルについてまわっていたし、ビルに向けるあのはにかんだようで、どこか嬉しそうな笑顔を向けられたことなんて一度もない。
「なんか、納得出来ないんだけど」
「それでいいのよ。フレッドがさらっとわかった、なんて言ったらそれこそ明日雪が降るかもしれないし」
冷めちゃうわ、とメグが紅茶を勧めてくれたが飲む気になれない。すると、しばらく腕を組んで考え込んでいたフレッドは、頭の中に浮かんだ疑問を知らないうちに口に出していた。
「じゃあメグは、今誰が好きなんだ?」
ガシャン、とカップが勢い良く置かれる音がした。驚いて前を見ると、先ほどよりももっと赤い顔をしたメグがフレッドの目に映った。目を合わせようとしても、逸らされてしまう。メグは唇を震えさせながら、気づいてなかったの?とこぼした。
「えっと、ごめん。誰か教えてくくれば、また相談に乗るけど?」
ビルの時みたいにさ、とフレッドは軽い気持ちで返した。その言葉を聞いて、メグはさらに顔を強張らせた思うと、深いため息をついた。
「私、フレッドなら言わなくても気づいてくれるって勝手に勘違いしてたみたい。あなた、自分のこととなると鈍いのね」
顔をまだ赤らめたまま、メグはテーブルに溢れた紅茶を拭きながら話す。流石のフレッドもその言葉と表情で気がつかないほど鈍感ではない。メグの顔の赤さと熱がそのまま移ってしまいそうだった。
「メグ、本気で言ってる...?」
布巾を持ったメグの手首をとっさに掴むと、確かめるように顔を覗き込んだ。その視線は相変わらず合わないままだが、ぎゅっと結ばれていた口は、本気よと小さく動いた。
「俺の勘違いだったってことには」
ならないわ、とメグの言葉が続いた。瞳に映るメグはあの日よりもずっと大人っぽく見えたけれど、メグ自身は昔と変わらないままだ。
「メグは俺の気持ちがわからないほど鈍感じゃないよな?」
いたずらっぽく話すと、メグもつられたようにくすくすと笑う。やっと合った視線の先のメグの瞳はとても綺麗だった。自分の元から離れて行ってしまったと思ったのに、メグの気持ちはこんなに近くにあったのかと今更気がついた。メグに言われた通り俺って案外鈍いのかも。
「手、握っていい?」
尋ねると、メグは小さく頷いた。自分から言いだした割に案外緊張する。メグの小さい手を優しく握るとさっき話していたことを思い出す。彼女にとって"素敵"な思い出になるだろうか。
「俺もメグのことが好きだ。昔からずっと」
2人の鼓動が聞こえそうな程静かな昼下がり、メグの耳にそっと顔を寄せて囁いた。