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彼とメグが出会ったのは図書館だった。OWL試験本番に向け、皆が追い込みをかけている。メグもよく図書館に通いつめるようになった。5年生と思われる学生達が席を埋め尽くす中、彼もよく図書館に足を運んでいるようで、いつも決まった時間に、決まった席で熱心に羽根ペンを走らせていた。メグも重い教科書を積み上げながら席に着く。はじめは空いていたから、と彼の向かいの席に何の気なしに座ったが、いつしかメグもそこがお決まりの席になっていたのだ。
彼と目が合うことは何度もあった。特別意識しているわけではない。ただなんとなく、相手が来たら広げすぎていた羊皮紙を畳んだり、教科書や本を片してスペースを作ったりした。お互い静かな図書館で、小さな気遣いに対して返事をする時は目礼しか方法が思い浮かばなかった。
「そこ、年号が間違ってる」
へ?と間の抜けたような声が出た。少し前から動きを止めていた羽根ペンの先からはぽたぽたとインクが落ち、羊皮紙に黒い染みを作っている。閉じかけていた瞼は、突然かけられた声で大きく見開かれた。教科書と見比べながら指摘された箇所を確認すると、本当だ。確かに1年ずれている。ありがとう、と声をかけようと彼の方を見ると、もう既に自分の勉強に戻っているようだった。
彼に声をかけられてから数時間、メグはあんなに襲いかかってきた眠気は何処へ行ってしまったのか、ひたすら机に向かい勉強に集中した。というより、彼が声をかけてきたことに驚き、それ以来目が覚めたのだ。おおよそ目の前でうとうとしている私を見て気が散ったとか、まあ深い意味はないだろうと思ったが、同時に彼の邪魔をしてしまった気がして申し訳なくなった。
目の前で帰り支度を始めた彼に、何か一声かけよう、と顔を上げようとした途端、意外な言葉が降ってきた。先に声をかけたのは、また彼の方からだった。
「寝不足ならちゃんと寝た方が効率が良いと思う」
驚いてぱっと顔を上げると、彼は気まずそうに目を逸らしながらも何かを机の上に置いた。
「勉強には甘いものが良いよ」
そう言って彼はそそくさとその場をあとにした。目の前に置かれた蛙チョコをあ然としながら眺めているうちに、また声をかけそびれたことに気づいた。一瞬目があった時の、彼の透き通った茶色い瞳を思い出す。この日以来、メグは彼のことがもっと知りたくなった。
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しかし、メグは中々行動に移せないでいた。彼がほとんど毎日図書館にいることは確実なので、会うことには会える。それに、話しかけるきっかけは、蛙チョコのお礼という口実があるし、あとはメグにほんの少し、自分から話しかける勇気が足りないだけだ。あの日は何の考えもなしに声をかけようとしたのに、いざ決心すると中々自分から声をかけづらい。また明日頑張れば良いと先延ばしにしているうちに、お返しに買ったお菓子の賞味期限が切れてしまいそうだった。
そんなある日、メグの背中を押してくれるような出来事が起こった。
「バーティ・クラウチ...?」
寮の部屋に戻り明日の授業の準備をしていると、誰かの教科書が混じっていた。教科書に丁寧に書かれた名前は馴染みのないもので、同じ寮の子ではないだろうと考えていると、1人思い当たる人物が浮かんだ。そういえば彼の名前を聞いたことがないので確信は持てない。あの日初めて声を聞いたぐらいだから当たり前なのだが、でも、多分彼の物だ。
「与えられたチャンスは無駄にしちゃいけないわ」
頭の中の自分自身が囁く。メグは教科書を見つめながら決心した。新しいお菓子を用意しなくちゃ。メグは彼は何が好きなんだろうと考えながら眠りについた。