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「バーティ!」

前を歩く背中は見慣れないけれど、確かに彼のものだ。そう思ったメグは、迷わず大きな声で呼びかけた。案の定、彼は足を止めてこちらを振り返る。

「良かった!やっぱりバーティだった!」
「メグ、そんなに大きな声を出さなくても大丈夫だよ」

笑う彼に駆け寄ると、手伝うよ、と彼はメグの教科書を半分抱えてくれた。バーティは見た目はひょろっとしているのに力持ちだ。メグはそう思いながらありがとう、とお礼を言うと彼の隣に並んで歩き始めた。

「図書館以外で会えるなんて珍しくて思わず声をかけちゃったの。遠くから見かけただけだったから不安だったけど...人違いじゃなくて良かったわ」
「僕も、声をかけられるなんて滅多にないからびっくりした」

あれから、数ヶ月経った。友達になったものの二人の関係に特別変化があったわけではない。いつも通り二人は図書館で勉強漬けの毎日だし、そのせいもあって会うのは図書館だけだった。ただ一つだけ変わったことがある。二人には新しい習慣が加わったのだ。

「今日はとっておきの物を持ってきたわ」
「それは凄く楽しみだな。はやく今日の分の勉強を片付けないと」
「バーティは?何を持ってきたの?またチョコレート?」
「それも、勉強が終わってからのお楽しみ」

少し得意気な顔をするバーティを見て、なんだかメグも嬉しくなった。

「ところで今日は荷物が少ないのね」

メグの分の教科書も持ってくれているバーティを見て疑問に思い尋ねると、今日はレポートを片付けたいから、と言った。

「資料は全部図書館にあるしね。...逆にメグはなんで今日こんなに大荷物なの?」
「実は私の友達の教科書も行方不明らしくて、見つかるまでの間は私のを貸すことにしたの。今日は先に図書館にいるから持って行こうと思って」

教科書が無くなるのは流行りなのかしら、とメグがつぶやくと、僕は流行りを先取りしちゃったみたいだ、とバーティは笑った。

「大丈夫?重くない?」
「大丈夫よ。もう半分持ってもらっているし、これくらいなんてことないわ」

メグは持っている教科書の重さよりも、今日持ってきたかぼちゃのパイが潰れてしまわないか心配でそわそわしていた。図書館のいつもの席に着くなり、バーティにもう一度お礼を言うと、魔法史や魔法薬学やらの教科書を持ってきょろきょろと例の友人を探す。

「メグ、こっちよ」

そっと呼びかけられた方を見るとルームメイトのケイトが手招きをしていた。ケイトの席には既に羊皮紙と様々な教科書や資料と思われる本が散在している。

「この大事な時期に面倒なレポート課題を出すなんてどうかしてるわ。ただでさえ頭がパンクしそうなのに」

ケイトはメグから受け取った教科書をペラペラとめくりながら、ぶつぶつと文句を並べた。大変そうね、とメグが答えると、ケイトは羨ましそうな顔でいいわね、とメグの顔を見上げる。

「私も魔法史が得意だったら今更ちゃちゃっとレポートを書き上げて、試験に向けての勉強をしてるはずよ。あんな退屈な授業、そもそも受けても受けなくても同じようなものだわ。睡眠にはぴったりだけど」

そう言って思い切り顔をしかめるケイトを見て思わず吹き出すと、何よ、と言いながらケイトもつられて笑った。

「ところでメグ、薬草学のレポートは?あなたあんなに苦手だったのに、もしかしてもう終わったの?」

ケイトの質問に、一昨日書き上げたわ、と返すと、彼女の顔はみるみる絶望したようなショックな顔に変わっていった。その顔からは信じられない、どうして、といったようなことが見て取れる。

「実は、その、手伝ってもらったのよ。彼に」
「彼ってまさか例の彼!?メグの!?」

向けられた指の先にいる彼を見て、ケイトは目を丸くした。あまりにも大きな声で驚いたので、じろりと向けられた周りの生徒たちの視線が痛い。慌ててケイトの口を塞ぐと、しーっと彼女の口に人差し指をあてがった。彼女の向かいの席に座ると、ケイトはひそひそとした声で話し出す。

「どういうこと?なんで彼氏が出来たって教えてくれなかったのよ」

目をきらきらさせているケイトの一言に、今度はメグが驚いて言葉を返す。

「彼氏じゃないわ!ただの友達よ!いつもお互いあの席に座ってたから、あれから友達になれたの」

慌てて返すメグの言葉にふーんと、ケイトはにやにやした顔で頷いた。そんなケイトの顔を見て、良い友達よ、とメグはもう一度念を押す。わかったわよ、と言ったケイトは再び彼の方に視線を移し、目を細めた。

「遠くて顔はよく見えないけど...彼、名前は?なんて言うの?」
「バーティよ。バーティ・クラウチ」

彼の名前を言った直後、一瞬の沈黙が二人の間に訪れた。ケイトは目をぱちぱちとさせながら口を開けたままだ。

「...待って、なんて言った?聞き間違いじゃないわよね。バーティ・クラウチ?」
「...なによ、その顔」

名前を聞いた途端、ケイトは一瞬驚いた顔になったと思うと、今度は沈んだような気まずそうな顔になった。メグが問いただすように彼女を見つめると、ケイトは申し訳なさそうに目を伏せて言葉を溢した。

「...あのね、メグに男の子の友達が出来たことは私個人としては凄く嬉しいし喜びたいところなんだけど...」

もじもじと珍しく黙り込んだケイトに対して、メグは続きを急かすようにまたじっと目を見つめた。

「...その、彼とはもう関わらないほうが良いわ」

ケイトは悲しそうな声色でそう話した。一番聞きたくなかった類の言葉が、メグの耳の中に響いた。



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