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いつもの席に戻ったが、今日はもう勉強に身が入りそうにない。目の前で羽根ペンしきりに動かすバーティをちらちらと盗み見てしまう。彼がそんな人のはずがない。メグは彼を見ながら改めてそう感じたし、そう信じたかった。
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「...どういうこと?」
メグが尋ねると、ケイトはゆっくりと知っていることについて話し始めた。なんでも、彼には悪い噂が絶えないらしい。闇の魔術に興味があるだとか、怪しい呪文の練習をしているだとか、例のあの人を崇拝、尊敬しているらしいだとか。どれも根拠のない噂だ。証拠もないし、誰かが面白がって立てたに違いない。メグはそんなことを思いながらもぐっと反論するのを堪えた。違う、という確証もないのだ。
「彼、特別目立つようなタイプでもないし...言っちゃ悪いけど、あまり友達もいないみたい。一人でいることが多いみたいなの。それで悪い噂が絶えないものだから、本当だと思って近づく人なんて滅多にいないわ。いるとしたら、彼の家柄に目をつけたやらしい奴らだけよ」
メグが不思議そうな顔をしていると、そんなことも知らなかったの!?とケイトはまた驚いて叫んだ。
「名前を聞いた時ピンと来なかった?」
ケイトに教えられ、メグは初めてその事実を知り、開いた口が塞がらなかった。
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「メグ、今日はなんだかぼーっとしているみたいだけど大丈夫?」
声をかけられはっとしたメグは、今が恒例のお菓子の交換タイムだったことに気がついた。毎週金曜日の夜に恒例となったお菓子の交換は、お互い辛い勉強から励ますために始めたことだった。
「大丈夫、ちょっと考え事してただけ」
言いながら慌ててかぼちゃのパイを渡すと、凄く美味しそうだ、とバーティはにこにこと笑って受け取った。
「かぼちゃのパイはね、最初にバーティにお礼をしようと考えた時に渡そうとしたお菓子なの。そのあといきなり図書館に来なくなっちゃったから渡せず仕舞いだったけど...」
やっと渡せて良かったわと言うと、今度はバーティが包みを取り出しメグに渡した。
「可愛い!これ、本当に食べていいの?」
中身を取り出すと、カップケーキが入っていた。白いホイップがのったチョコレート生地のカップケーキは、カラースプレーとアラザンでデコレーションされていて、とても可愛らしく、美味しそうだった。
ありがとうと言って受け取ると、バーティはまた本当に嬉しそうににこりと笑ってくれた。こんなに素敵な笑顔をする彼につきまとう噂が益々信じられない。
お互いのお菓子を食べ終えると、並んで星空を見上げる。これも毎週この時間のお決まりになっていた。2人で並んでベンチに腰をかけて、星空を静かに眺めたり、時々話をしたり。この時間が、メグはたまらなく好きだった。
「バーティ、私ね、あなたと友達になれて良かったと思ってる」
気がついたら、考えていた言葉が口から漏れていた。メグも予想だにしていなかったので慌てていると、そんなメグを見てバーティはくすくすと笑いながら僕もだよ、と優しく言った。
だからあなたのことが知りたいの
メグはその一言がずっと言えないでいた。話すようになって、友達になって、打ち解けたと思っても、今ひとつバーティがどんな人なのか捉えきれない。メグがバーティについて知っていることと言えば、甘いものが好きなことと勉強熱心なこと、あと優しいこと。メグが普段学校であった出来事を話しても、バーティはいつも楽しそうに聞いてくれるだけだし、メグの家族の話をしても、バーティの家族の話は聞いたことがない。一度だけ尋ねたことはあったが、それはまた今度にしようとはぐらかされてしまった。バーティがいつも一人でいることも知らなかった。
あなたのことをもっとちゃんとわかっていたら、ケイトにだってすぐに反論出来たのに。彼はそんなことをするような人じゃないんだって。でも私は臆病だから、あなたの深いところまで踏み込めない。今の関係が崩れてしまうならいっそのことずっと触れなくていいとさえ思ってしまう。噂の真相なんか確かめなくていい。
「メグと友達になれて良かった」
このままでいい、と微笑むバーティを見ながらそう思った。