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カリカリと羽根ペンを走らせる音しか響かなくなった部屋で、メグはバーティのことを考えていた。もちろん、頭の片隅で。
「メグ、余計な考え事は今は禁物よ。頭がパンクして試験どころじゃなくなっちゃう」
隣で勉強しているケイトがちらりとメグを見てそう言うと、またすぐに自分の勉強に戻った。メグもケイトの言う通りだと思うのだが、いかんせんどうにも頭の中ではちらちらとバーティの顔が浮かぶことがある。彼は今どうしているだろうか、とか。もちろん彼も勉強しているに違いないけれど。
「だから来週からは会えなくなるの」
メグがそう言うと、バーティはわかった、とただ頷くだけだった。5月になり、いよいよ試験目前となった図書館には、切羽詰まったのか必死な形相の5年生が溢れかえっている。どうにもその様子に落ち着かず集中出来なくなったメグは、試験本番までは自分の部屋で勉強することにしたのだ。
「バーティは?図書館にいる?」
「どうしようかな、実はいつもの席が埋まってることもあってさ」
あそこじゃないと落ち着かないから、とバーティもどこか別の場所で勉強することにしたらしい。こうして2人は図書館で会うことはなくなった。また試験が終わって落ち着いた頃に会おうね、と約束して別れてから2週間が経とうとしている。彼も自分の部屋で勉強しているんだろうか。
「メグ、ちょっと大丈夫?」
あれ、私は今何をしていたんだっけ。
そう思うことが多くなった。頭の中は試験と時々バーティのことだけ。毎日授業と勉強の繰り返しで、常に羽根ペンを握っている感覚になる。最近では寝不足も祟ってか授業もあまり集中出来ていない。今の今までスープを口に運ぼうとしていたはずのスプーンで文字を書こうとしていた。すくったはずのコーンスープはぽたぽたと溢れ落ちて、テーブルの上に半纏を描いている。
「大丈夫よ、ちょっとぼーっとしてただけ」
「あなた毎日そんな感じよ。追い込む時期なのはわかるけど、ちゃんと寝れてないみたいだし、一回しっかり休んだ方が良いわ」
「5年生は毎年この時期に体調を崩す人が多いらしいから、メグも一回診てもらった方がいいよ」
心配そうに覗き込んでくるケイトや他の友達の顔はなんだがぼんやりとして見えた。駄目だ、なんだか目の前のごちそうを見てもげっそりとするだけだし、食欲が湧かない。スプーンを置いて、ケイト達の言う通り寮へ戻って寝よう。そう思って立ち上がった瞬間、ぐらりと視界が反転した。あれ、とバランスを崩した身体はそのまま床を目掛けて落ちていく。直後にごつんとどこかを強く打ったような鈍い音がして目を閉じた。星が綺麗だな。倒れる直前に目に入ってきた大広間の天井はいつも通りきらきらと外の景色を映し出していた。何故呑気にそんな事を思ったのかはわからない。誰かが名前を呼ぶ声が遠のく意識の中で聞こえた。