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「そこまで!各自ペンを置くように」

監督の先生の声が響いた瞬間、メグは肩の荷がどっと下りたようなそんな気がした。回収されたテスト用紙を横目にちらりとあたりを見渡すと、他の生徒もメグと同じ様にほっとした顔をしていたり、中には真っ青な顔をした子もいたりと様々だ。解放感に包まれてはいるものの、メグ自身も不安で胸がいっぱいだった。あの問題の答えは本当に正しかったのかとか、変に書き間違えたり、つまらないケアレスミスをしているんじゃないかとか。考え出したらキリがない。

「最後の問題、ケイトは何番にした?」
「...メグ、終わったんだから少しは試験の話をするのやめない?」

広い教室を出て、同じ試験を受けていたケイトと合流すると、メグはそわそわと話し始めた。そんなメグを見てケイトは顔をしかめたが、その気持ちもわかるけど、と一言付け加えた。

「終わったことにこだわってても仕方ないわ。今は試験が終わったことを喜びましょ!」

ケイトはそう言うと、メグの手を握ってぶんぶんと勢いよく振った。彼女の本当に楽しそうな笑顔につられてメグも笑顔になり、ようやく試験の終わった実感が湧いてきた。本当に長かった。1年間色々なことを我慢した。試験が終わったらまず何がしたいか、そんなことを何度もケイトと話していた日々がまるで昨日のようにも感じられる。いざ終わってしまうと何をしたらいいか迷う、とケイトは言っていたが、メグは真っ先に思い浮かぶことがあった。

「あのね、ケイト」
「...もう、言わなくてもわかってるわ。私は先に部屋に戻って夕食まで寝ることに決めてたから。気にしなくて大丈夫よ」

メグがぽかんとした顔をしていると、彼と会うんでしょ?とケイトは得意気な顔で答えた。

「メグと何年一緒にいると思ってるのよ。見くびってもらっちゃ困るわ」
「...ケイトには一生敵わない気がする」

メグがそう言うと、ケイトはまあねと腰に手を当てて、にやりと口の端を上げた。その様子がどこかおかしくて、メグはぷっ、と吹き出してしまった。何よ、と言うケイトが幼馴染で良かったと思った。

「試験が終わったら休暇に入っちゃうし、今の内に沢山話しておいたほうがいいわ。私とはいつでも会えるもの」
「ありがとう。でもケイトとしたいことも沢山あるの。本当よ。1年間伊達にたっぷり"やりたいことリスト"を書き留めておいたわけじゃないし」
「私だって、箇条書きにした項目の書き始めは全部"メグと"って書いてあるんだから」

そんなやりとりをしながらメグはまた笑ってしまった。確かにケイトとはいつでも会えるかもしれない。学校にいても同じ寮で同じ部屋で、夜遅くまでおしゃべりも出来る。休暇に入っても家は近所だし、ほとんど毎日お互いの家に通って課題をしたこともあった。それでもケイトとやりたいことは尽きないし、彼女といると時間も忘れてしまう。彼女の隣にいることはメグにとってごく当たり前なことで、メグの居場所だった。これからもそうであって欲しいと思う。

「あ、噂をすれば」

ケイトの視線の先を見ると、そこには懐かしい彼の姿があった。あれから1ヶ月程度しか経っていないのに、雰囲気がどこか大人っぽくなったような、そんな気がした。それでも少し頼りない背中に細く伸びた手足と、整えられた薄茶色の髪が彼であることを物語っている。

「邪魔しちゃ悪いし、私も眠くなってきたしそろそろ行くわ。また夕食のときにね」

去り際にもう一押しよ、と言ったケイトのウインクの意味がメグにはよくわからなかったが、彼女にもう一度お礼告げるとメグは駆け出した。長い脚のせいか、先を行く彼との距離は思いのほか長かった。メグは少し息を切らしながら5年生で溢れる廊下を走る。試験が終わり、先ほどまでの静けさが嘘のように賑やかになった。人混みに流されてしまわないように走るのは大変だったが、疲れなんて微塵も感じない。彼の背中は確実に近づいてきた。ふとこの間見た夢を思い出した。でも今は、走れば走るほど、彼との距離は縮まる。彼に追いつくことが出来る。手を伸ばせば届くのだ。

「バーティ!」

名前を呼べば、彼は振り向いて立ち止まってくれる。
ほら、これは夢じゃない。



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