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僕は、自分の何から何まで大嫌いだった。
臆病で、弱虫で、何の取り柄もない自分のことなんて好きになれるはずがない。

昔は、俗に言う優等生だった。
父親が厳しかったこともあるが、確かに勉強は好きだった。今まで生きてきて何かに打ち込んできたことがあるとすれば、多分それぐらいしかない。小さい頃から内気で友達のいなかった僕には、本の世界が全てだった。新しい知識に、毎日ワクワクしながら分厚い本を開いて胸を躍らせた。自分と同い年の子達が、当時何をして遊んでいたのか、何が流行っていたかなんてちっとも知らなかった。ただ一人机に向かっていた。そして、それが唯一の取り柄になった。両親は喜んでくれた。他人より良い成績をとる自分の子供が誇らしかったのかもしれない。僕のことを褒めてくれる人もいた。友達の少なかった頃が嘘のように、沢山の人に囲まれることもあってどこか得意気だった。でも、取り柄はいつしか"当たり前"になった。珍しく風邪で寝込んで、悪い点を取った日には叱られた。当たり前になった僕には、誰も見向きもしなくなった。僕はまたひとりになった。毎日ただ椅子に縛り付けられて、そのうち本を開くことすら嫌いになった。好きだったことをするのが苦しくなった。それでも必死に頑張るしかない。僕にはそれしかない。必死に優等生を演じてしがみついた。

けれど僕は、両親の大き過ぎる期待に耐えられなかった。父親の偉大さに、この名前の重さに耐えられなかった僕は逃げ出した。向き合うことが怖かった。

その反動で、僕は別の物に夢中になった。きっかけは些細なことだった。自分の気持ちに、興味や好奇心に素直になっただけだ。先生や、父親からも嫌という程言いつけられていたが、やめられなかった。興味本位で手を出してはいけないという、新しい世界に踏み込んだ。そして、ひとりだった僕は、ただある1人に尽くそうと心に決めた。

でも今思えば、誰かに気づいて欲しかっただけかもしれない。僕のことを忘れないでいて欲しかった。ただそれだけだった。ただそれだけのために、僕は道を踏み外した。

誰かに見ていて欲しかった。
僕は間違ってると教えて欲しかった。腕を、手を引いて引き止めて欲しかった。

ずっとひとりだった。ひとりで生きてきたはずだったのに、孤独に耐えられた訳じゃなかった。もう誰かの側にいる資格も、誰かを想う資格も、僕にはないことなんてとっくにわかっている。

優等生という肩書きを失った僕は、今度は君に縋り付いた。君は真っ直ぐな目で僕を見ていてくれていた。人付き合いに慣れていない僕は、上手く笑えていなかったかもしれない。それでも君といると、自分の存在や価値を認められているような気にさえなれた。でも、あの時、大広間に足を踏み入れた瞬間に気がついた。僕と一緒に怪訝な目を向けられている君を見て、心に決めた。君を巻き込んではいけない。

本当は、本音を言うと一緒に居たい。側にいたかった。慣れていたはずのひとりに戻った途端、それは前よりもずっと苦しかったから。だから、僕はずっと後悔している。あの日、弱虫な僕が君に声をかけなければ、君と出会わなければ良かったのに。



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