▽ ▲ ▽


それからあっという間に数年が過ぎた。当時、彼の髪の色はとても珍しいものだと思っていたが、入学して早々他にもきらきらと眩しいプラチナブロンドの髪を持つ男の子や、ストロベリーブロンドの髪を結って可愛らしくセットした女の子がメグの横を通り過ぎていく。しかし、色々な髪色を目にしても、メグはビルの燃えるようなあの赤色が一番綺麗で、羨ましく思えて仕方なかった。彼の赤色を見つけるだけで「いいなあ」という言葉が溢れるのは今でも相変わらずだ。

二人は同じグリフィンドールに組み分けされた。メグはさっそく同じ寮の友達が出来たと思い嬉しかったが、彼はあっという間にメグの中で遠い存在になった。目を惹く容姿に加え、成績優秀、おまけに人も良いときて、人気者にならないはずがない。それなのに、どんどん遠くなる彼に段々と惹かれていってしまったのは何故だろう。彼を見かけても声をかけることをなんだか躊躇してしまっていた。彼を遠くから見つめて、一人ぽつんと残された気分になるが仕方ない。そんなメグとは反対に、ビルは変わらずメグを見かけると声をかけてくれた。

「メグ!」
「ビル!走ってきたら危ないってこの間も言ったでしょう?うんざりするぐらい雨が続いてて床が濡れてるんだから...ってそんなに慌ててどうしたの?」

途中一度転びそうになりながらメグに駆け寄った彼の呼吸はいつもより少し速い。何処からか追いかけてきてくれたのだろうか。なんだか申し訳ない気持ちだった。今この瞬間に限らず、ビルに会うたびにいたたまれない気持ちになってしまう。比べても意味がないことはわかっている。でもこんな地味な自分に、ただあの日同じコンパートメントで居合わせただけの自分に無理して付き合うことないのに。いくら彼に惹かれていると言っても見ているだけしか出来ないし、私はそれで充分だ。

「ごめんごめん。ずっと探してたからさ、嬉しくなっちゃって」
「え、っとそれで何か用?」

彼の一言に、大した意味が無いこともわかっているから、自惚れてはいけないと自分の頬を今すぐはたいてやりたい。彼の笑顔はあの日と変わらない。心にゆっくり溶け込んでいくその表情を、ぼうっと見つめていた。周りの女の子たちが騒いでいるのもよくわかる。ただでさえビル・ウィーズリーは格好良いのだ。彼のこんな表情を今この時独り占めしているんだと思うとまた申し訳ないような、でもやっぱりどこか嬉しい。

「うん、明日のホグズミード休暇、メグは誰かと行く予定ある?」
「そうね、いつもルームメイトと行っているんだけど...特に決まっているわけでもないし予定はないわ」

頭の中で彼女達の顔を思い浮かべてみる。明日はハニーデュークスのお菓子を買ってパーティーをしようだとかそんな話をしていた気がするけれど、多分、このチャンスを逃したらどうするんだとこっぴどく叱られるに違いない。

平静を装って答えたメグの唇は少し震えていた。手の震えも、誤魔化すように教科書をぎゅっと握った。目を合わせようと思ってもすぐに逸らしてしまう。彼が好きなことを、彼自身に悟られるのは一番避けたい。だから意識しないようにと思っているのに、その度に裏目に出てしまって、夜自己嫌悪に陥るのはいつものパターンだ。

「じゃあ明日、10時に談話室の暖炉の前でどう?」
「...それは明日あなたと一緒に出掛けるってこと?」

この状況からして、考えられるのはそれしかない。当たり前のことを口にしているのは重々承知していたけれど、信じられない気持ちで聞き返した。ぽかんとしているメグを目にしたビルは、今度は少し不安そうな顔になった。

「そうだけど...やっぱりいきなり過ぎたかな、メグの都合が悪かったならー」
「大丈夫!大丈夫よ、私も買いたい物があるし!10時ね!」

思わず前のめりになって答えた。確かにこんなチャンス、もう二度とないかもしれない。慌てたメグの様子がおかしかったのか、ビルは少し笑いながら「じゃあまた明日」と手を振り、来た道を戻っていった。彼の後姿を見送りながら、今起きたことを頭の中でようやく整理し始める。そもそも何故ビルは私なんかと?他にも友達は沢山いるはずだし、一緒に行く友達の都合でも悪くなったのだろうか。仮に埋め合わせの役割だとしても大いに結構だ。彼と久々にゆっくり話す機会が出来たことがとても嬉しかった。

この時ばかりは自惚れるのも少し許して欲しい。頭の中でさっきのやりとりを繰り返しながら歩いていたせいか、何度も廊下の水溜りに足を突っ込んだ。それでも、濡れてびちゃびちゃになった靴を見ても自然と笑みが溢れてしまう。メグは緩む口元を教科書で隠しながら自分の席に着いた。いつもはうとうとしてしまうビンズ先生の授業も、今日ばかりは目が冴えて眠れそうになかった。



ALICE+