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※歪なチョコレート ジョージ視点
「なあ、ヘンだと思わないか?」
「さあね。これといった心当たりもない。というよりなんの話だかさっぱりだ」
いつもの如く、隣でいたずら道具を開発中の相棒に話しかけてみた。全くこちらに振り返る気配も見せないまま答える様は、心底興味がないといった顔だ。その様子をただじっと見ていると、「手か頭を動かせよ」というぼやきだけが聞こえてくる。
「とぼけたって無駄だ!」と心の中で叫びそうになったのをぐっとこらえた。素知らぬ顔でいつも通り、のつもりなんだろうが俺だってそこまで鈍感じゃない。この目でハッキリと見た事実は覆らない。俺は見たんだ。相棒、もといフレッドがメグに話しかけられているところを。しかもその事実を隠すなんて、怪しいに決まってる!それに、やっぱり何かヘンだ。メグの様子がいつもとは違う。具体的に何かと聞かれれば答えられないが、俺の感覚がそう言っているような気がしていた。直感とか、第六感とかいうのはそんなものだ。そうだろ?
その違和感の正体に気がついたのは、その日から数日後のことだった。
*
「明日の放課後、夕食の前にいつもの場所に来てください」
さらさらと書かれているメグらしい丁寧に書かれた文字をまじまじと見つめた。なんで敬語なんだ?そんなことを思いつつ羊皮紙から綺麗なブロンドの髪に目を移す。その紙を渡してきた、今となってはメグの大親友であるだろう目の前の彼女はなんだか楽しそうに笑っていた。
「何も聞かないで。別に悪いことが起こるわけじゃないし...とにかくそこに書いてある通りにして」
俺の頭の中で浮かんだ沢山の疑問の答えを遮るように、彼女はそう言って自分の寮に戻っていった。確かに悪いこと...ではない気がする。けどだとしたら何なんだ?とてつもなく良いことでも起こるのか?どういう心持ちでいたら良いのかサッパリだ。そわそわと落ち着かない複雑な心境の中、その日は眠りについた。
*
「良かった!もしかしたら来ないんじゃないかと思ってた」
翌日、俺はその日が何の日か忘れていたことにようやく気がついた。カレンダーの日付は2月14日。メグの件が気になって俺としたことが、男としても大事な行事をすっかり忘れていた。そういえばフレッドがチョコを使ったいたずら道具を開発していたなあなんて一瞬呑気に思い出していた。が、やっぱり俺はそこまで鈍感じゃない。もしかしたらメグからの突然の呼び出しも、今日この日と関係あるのか?なんて疑ってみたがそうに決まってる。俺の勘はよく当たる。というかそうであって欲しい、そうだったらどうしよう。なんて一日中落ち着かない気持ちのまま過ごした俺は、結局メグにどんな顔をして会いに行けばいいのかわからなくなってしまった。
バレンタインから目を背けて気がつかないフリ?それとも、もう何かもらえる事を確信した様子の方が良いのか?うじうじと迷っていると、いつの間にか約束の時間だ。慌てていつもの場所に向かうと、メグも何だか落ち着かない様子で待っていた。
「遅くなってごめん!色々、うん、そうだな、個人的な用事があってさ...」
「そう。無事に用事が済んだみたいで良かったわ」
俺が来た時の、一瞬ほっとした様子のメグはどこに行ったんだ?さっきから急にまたそわそわとどこか落ち着かない。隣に腰を下ろしても、目もあまり合わせてくれない気がする。そんなに緊張されると、俺にも移りそうだ。そんなことを思いつつメグの顔を覗き込もうとした瞬間に、ずいっと目の前に綺麗にラッピングされた箱が差し出された。
「...えっと」
「今日が何の日か、流石に忘れてないわよね」
「ハッピーバレンタイン?」
「...そういうこと」
受け取って早速開けてみると、とんでもなく綺麗で可愛らしいチョコレートが詰められていた。お菓子作り、上手くなったんだなあ。初めはそう思った。けどなんだ?また俺の何かが違和感を訴えている。でも今度は違和感というより、既視感に近い...このチョコレート、どこかで見たような...
「...食べないの?」
物凄く不安そうな顔で、メグは尋ねてきた。いつも凛としている目元や眉が少し下がって、可愛い。不意に思ってしまって口元が緩む。そんなことしてる場合じゃない。またしばらくチョコレートを見つめて考えていたが、流石にこれ以上は申し訳ない。俺は一口サイズのチョコレートをポンと口に放り込んだ。
口どけの良いチョコレートの後に、キャラメルも入っているのだろう独特の甘さと香りがふわっと広がった。チョコレートはあっという間に口の中からなくなったが...待てよ。わかった。この味と、さっきの既視感の正体に。メグがなんだか、より不安そうな目で俺を見ている意味も、なんとなく予想がついた。あぁダメだ。俺ってば抜け目ない。メグももう少し工夫を凝らさなきゃ俺は騙せないぞ。わかった途端にいたずら心は更にくすぐられる。そういうものだ。
「うん、美味い」
だから俺は、一度は騙されることにした。