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「メグの様子が変だったから、ちょっとカマをかけてみた」
「な...じゃあ気づいてなかったの!?」
「まあね。そしたら大当たり!なんとなくそうかもしれないと思ったんだけど」
メグが最初に渡してくれたチョコレートを、実は見かけたこともあったし食べたこともあった。理由は何てことない。前にママが買っていて、置いてあったのを勝手につまみ食いしたような。そんな記憶があっただけだ。
それよりも、俺の"名演技"に見事に引っかかったメグは目をまん丸くした。俺も、まさか予想がここまで当たるとは驚きだ。
「ところで、例のチョコレートは?」
「チョコレートって、もう食べたじゃない」
「違う違う、メグの手作りチョコレートの方!食べないなんて勿体ないだろ?」
隠そうとしたってバレバレだ。さっきからずっと、もう一つの小さい箱の存在に気がついている。あからさまに視線をそらすメグには少し申し訳ないけれど。
「それ?」
「一応ある、けどやっぱりダメ!絶対ダメ!」
チョコレートが入っているであろうを箱を指差すと、メグは慌てて自分の背中に隠そうとした。少しの罪悪感に苛まれつつも、そんなメグが可愛らしくて気づけば腕を伸ばしていた。
「ちょっと!ダメだって言ってるじゃない!」
「ダメって言われるほど燃えるタイプだって知ってるくせに」
持ち上げられてしまった箱に諦めがついたのか、抵抗をやめたメグはぎゅっと目を瞑った。その様子をちらりと見ると...なんだか本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。思えば無理矢理箱を奪い取ったに等しいわけで...。でも、やっぱりここまできてやめられるわけがない。目の前の小さな箱の蓋を、多分、メグと同じくらい緊張した面持ちで開けた。大丈夫、どんなものだって彼女が俺のために作ってくれたんだから、受け止める勇気は有り余るほどある。
「.....」
箱の中を見るなり、俺は絶句した。可愛い形をしたチョコレートが1、2、3....6個。形はどれもぶっきらぼうな丸だったり、かろうじてハートにしたかったんだろうなとわかるものがあったり。なんだろう。このじわじわと溢れてくる彼女への愛おしさは何なんだ?とりあえず気がついたら口元が緩んでいて、なんだかもう俺の頭、というか思考が追いついていない。
「その、本当に無理して食べなくてもいいのよ?渡せないと思ってたものなんだしー」
相変わらず不安げに尋ねてくる彼女を目にした途端、気がついたら腕を伸ばして抱きしめていた。好きだ。その気持ちしか溢れてこなくて今すぐ彼女に触れたいと思ったから。彼女からは、女の子特有の甘ったるい香りはしない。ただ、いつもの石鹸なのか、シャンプーなのかはわからないけど、俺の好きな彼女の匂いが鼻をくすぐった。当たり前に俺より遥かに細くて華奢な身体は、このまま抱きしめ続けたら折れてしまいそうだなんて考えたりもした。
「ジョージ!聞いてる?」
「....」
「もう!聞こえてるんでしょ!離してってば」
「...嫌だ」
胸元から聞こえてくる声にはっとさせられたが、もう少しこのままでいたかった。最初は驚いて硬直していたメグも、諦めたのか身を委ねてくれていた。段々と伝わる彼女の体温が心地良かった。
「やっぱり私が作ったチョコレートにおかしなものでも入ってたのかも」
「まだ食べてないだろ」
「じゃあなんでー」
「こんなの勿体なくてすぐに食べられない」
「食べたくて無理矢理取ったのはどこの誰よ」
「...それもそうだな」
確かにと思いながら笑ってしまった。メグが言うことも一理ある。せっかくなんだから食べてみないと。さっきもそう覚悟を決めたんだ。改めて箱の中のチョコレートをまじまじと見つめた。
「....ジョージ?」
「これ、本当にメグが作ったんだよな」
「そうよ...私以外、こんなに出来が悪いチョコレート、作れると思えないもの」
歪な形のチョコレートを一つ、手に取って口に運んだ。甘い。口の中でそれはゆっくりと溶けた。形は歪だけれど、ちゃんとチョコレートだった。俺のために、この日のために準備してくれたんだろう。メグがどれだけ料理やお菓子作りが苦手なのかはよく知っている。...ダメだ。メグはどれだけ俺を好きにさせたら気が済むんだ?さっきからただでさえうるさい心臓の音が、俺の頭から判断力だとか思考力だとか、下手したら理性まで奪い去っていったのかもしれない。
また気がついたら勝手に身体が動いていた。
メグが何か喋りかけていた気がしたけれど、何も耳に入って来なかった。
「......っ馬鹿!馬鹿バカばか!いきなり何するのよ!」
「痛っ...!ごめ、ゴメン!悪かった!謝るよ!だから叩くなって!ほら、チョコレートが落ちるだろ!」
慌てて俺を押し退けようとする様子がこれまた可愛らしくて...どうしたものか。メグがポカポカと弱い効果音の出そうなパンチで俺を叩いてきたが、何をするにも彼女が愛おしくてしょうがなかった。恋人だっていう言葉すら、恥ずかしがってまともに言えない姿も、少しからかったら拗ねてしまうところも、素直に甘えられない性格も、全部全部好きだ。
「...だから順序がおかしいって言ってるじゃない」
「...じゃあもう一回、そしたら順番通りだろ?」
彼女の言葉を逆手にとって、俺はまたキスをした。今度は素直に目をつむってくれたのが、これまた可愛らしい。さっきから好きだとか、可愛いとか、同じような言葉と感情しか湧いてこないが勘弁して欲しい。俺だっていっぱいいっぱいなんだ。惚れたものは仕方がない。
俺からのお返しは何にしよう。
そう考えたら、またにやにやと緩む口元を隠し切れなかった。