正面に向けて置かれた茶碗を2度ほど回して正面を避け、3口ほどに分けてお茶を飲む。飲みきったら、人差し指と親指で軽く飲み口を拭く。



「へえー、要はほとんど完璧じゃん」
「ま、これくらいはな」


和装した僕らの前に座るのは、要くんと祐希くん。僕と悠太くん、まゆちゃんは茶道部所属なので、祐希くんに体験に来てもらったのだ。こうしてみると、悠太くんとまゆちゃんはずっと同じクラス、同じ部活だったんだなあ。まゆちゃんは和装が気に入ってるようで、いつも嬉しそうに着付けているし、似合うと思う。


「祐希?何そんな慎重にやってるの?」
「話しかけないで」
「あっはい」


眉間に皺を寄せた祐希くんは、何やら必死に茶碗の飲み口を見ている。まゆちゃんもきょとん顔だ。



「要がどこに口つけたかわかんなくなる…」
「ちゃんと拭いたっつの!」



「はいはい、そんなに俺と間接キスはいやですか」




ヒソヒソ
「要間接キス狙ってたんだ…」
「きもちわる…」
「まゆと春も気を付けるんだよ…」
「うん、こわーい…」






「俺だってしたくはねえけど!」
「わかってますから、ね?」
「ごめんって」






ちょっとした茶番(というと祐希くんたちに大真面目だと怒られそうだけど)の後、祐希くんはきちんとお茶を飲んでくれた。でも入部には至らず、また振り出しだ。

「あ、春ちゃん腰ひもずれてる。もう着替えちゃう?」
「あっ本当だ。そうですね、じゃあ女の子のまゆちゃんから」
「別に一緒でもいいけど」
「だめです、女の子でしょう」
「ほら、悠太くんもそう言ってますし」
「はあい」

まゆちゃんが着替えている間も要くんの苦悩は続いたけれど、どうやら祐希くんにぴったりの部活が見つかったようだ。



*



「漫画研究部?」
「そう!ここが、祐希にぴったりの部活、漫研だ。ここで、好きな漫画やアニメの話題に花を咲かせるんだな」


ほらこれ入部届、と祐希くんに渡した要くんは先に帰ってしまった。それを見送る悠太くん、祐希くん、少し心配顔のまゆちゃん。

「あの、要くんのこと怒ってますか?」
「なんで」
「結構、強引に入部させようとしちゃったし、祐希くん、今日、要くんにきついし…」
「いつもだよ」
「もー悠太」


要くんは本当に、いつだって相手のことを思うからこそって言動ばかりなのだ。小さいころから、心はとても優しくて、ただそれを伝えるのが少し下手なだけだ。だから今日だって本当は、祐希くんのために。


伝えたいことがうまく伝わるかわからないまま言葉にする。祐希くんは相変わらず無表情だけど、最後まで聞いて小さくため息をつくと

「さっさとハンコもらって帰るよ」
「…!」



漫研の部室に、自分から足を踏み入れたのだ。
実は漫研が幽霊部員ばかりで要くんに呆れられるのは、また明日のお話。