「そういえば、どうして私のこと見つけてくれたの?」

それは素朴な疑問だった。白銀の王を迎え撃つ、ドレスデン石盤の前で、私は流に長年持っていた疑問を投げかけた。この精神だけの身体になってもう14年近く経つ。本来なら出会った当初にその疑問が出てきてもおかしくないが、実際あの頃の私は流を天使か何かかと勘違いしていたのだ。それが間違いと気付いてからも毎日がせわしなく、その疑問を口に出すことはなかった。
今までの日々は本当にめまぐるしく、あっという間だったような気がする。流に助けてもらって、イワさんにお世話されて、コトサカとお歌を歌ったり、紫と女子トークをしたり、スクナとゲームをしたり。流の小さくて壮大な夢を叶えるためにみんなで暗躍してきたけれど、そんな毎日がそれなりに楽しかったのだ。
だからこそ私は、その非日常のような日常を与えてくれた流に私を見つけてくれた理由を聞きたかった。

「きっかけは、そうですねテレビで見ました」
「…テレビ」
「はいテレビです」

なんというか、運命とかそういうロマンチックな回答を求めていた私がバカらしくなってきた。どこまでも現実的だ。

「迦具津事件の生き残りとして、君はニュースに出ていました」
「昏睡状態だった君は世間ではキセキの子と言われていました」

南関東を壊滅状態に追いやった迦具津事件。その被害の中で生き残った奇跡の子であると。メディアが囃し立てる中で流は「違う」とはっきり思ったそうだ。目を覚ますこともなく眠り続ける私を見て、自分と似ていると。

「君が同胞であるなら、助けなければと思いました」

ですが、と流は続ける。幼い頃からずっと乗っていた車椅子の上で、漂う私の姿を瞳に映す。

「ただ欲しかったのかもしれません、分かち合える人が」

その目の中の私は少し緑がかっていて、緑の王の改変の力によって生きながらえているということがよくわかった。私と流は真逆なようでよく似ている。不自由を抱えながら、王の力によって生きながらえているのだ。そんなイレギュラーの中で不安や辛さをお互い吐露したことはなかった。それでも、確かにそばにいると、分かち合えていたと、流が思ってくれていたなら。

「…そっか」

それで十分だった。
流の夢がついに叶う、そんな希望を目前にして少し感傷的になってしまっていたかも。流の答えを聞いて少し安心した。ちゃんと私は、流の中で生きているとわかったから。

「そういえば、俺も聞きたかったことがあります」
「うん?なあに」

流は基本的になんでもスパッと聞いてくる。というのに聞きたかったことがあるというのは珍しかった。今まで言えずにいたのだろうか。まあこの際だ、私たちの仲だし隠すようなこともない。なんでも答えるよと言うと「では遠慮なく」と流は車椅子を私の方に向けて正す。

「君には夢がありますか、錦川天花」
「…!」

いつか聞いた言葉だと思った。スクナがJランクになって幹部として流と対峙した時、彼に言った言葉と同じだった。
そういえば私はほぼ最初から、なし崩し的に一緒にいたし、流の夢の実現に協力してきた。生きるために流の改変能力は欲しかったが、それを抜きにしても面白そうだと思ったのだ。協力することに不満はなかったし毎日楽しかった。だから、きっと流も聞くことをすっかり忘れていたのかもしれない。いつのまにか一緒にいて、助け合うことが当たり前になっていたから。

「私のゆめ、か」
「はい」

他ならぬ私自身の夢。そりゃあ流の夢が叶うこと、と言うのも夢だけれど、それは全部私の夢じゃない。望み、希望、祈り。そんな私自身が願ったことを、流は聞きたいんだろう。私は腕組みをして少し唸った。目を閉じて考えてみると、そこには小さなちゃぶ台を囲んで笑い合うみんなの姿があって。

「…カレー…」
「?」
「流と、コトサカと、紫とスクナと…イワさんの作ったカレーが食べたい」

流は最初首を傾げていたが、続く言葉を聞くとああ、と理解したように声を漏らした。時折作られるイワさんのカレーは、見た目もとても美味しそうだった。みんながいい匂いがする、と言うたびに羨ましく思ったし、もう忘れてしまったはずのカレーの匂いを思い出した。叶うなら私もあのちゃぶ台を囲んで、イワさんの作ったものをみんなで食べたい。

「夢にしたら小さいかな」
「いいえ、いい夢です」

カレー、唐揚げ、ハンバーグ。なんでもいい。四畳半の小さな部屋で、小さなちゃぶ台を囲んで。くだらない事を話しながら食事がしたい。地下の小さな秘密基地で叶えたい、小さな夢だった。

「実現しましょう、必ず」

流はそんな小さな夢を笑うことなく実現させると言った。まったく、私たちの王さまはどんな時も強引で、なんだかんだで頼もしい。石盤の力があれば、私たちが一緒なら、どんな夢でも叶えられる。「ぜったい、だからね」そう言って触れられない身体で指切りをする。実際にしていないものだから有効かどうかはわからないけれど、流は絶対に叶えてくれる。心からそう思った。

「じゃあ行くね、邪魔になっちゃうから」
「はい、またあとで会いましょう」

これから流は白銀の王と闘う。すぐ近くまで来ているようだった。流が発する改変の能力が電子の体に影響を与えるかもしれないし、何より戦闘の邪魔になってはいけないと思った。外ではスクナたちが奮戦している。私は私で造反者の通知をはじめ自分の仕事は終えたし、ここにいる意味はなかった。でもなぜか、ここにいたい気がして。なかなかあちら側に戻れずにいた。

「天花?」
「なんか、そわそわする」

きっとこれが最終決戦だ。その中で私は何もすることができない。それがもどかしくて、落ち着かない。そうですか、と少し考えた流は思い付いたように言った。

「では、少し眠ってください」

何もできないからこそもどかしいのでしょうと、言い改変の力で私のデータに少し干渉してくる。ぱち、と緑の電波が目の前をちらつく。ああ、少し眠くなって来た。

「すべて終わったら、起こします」

ゆっくりと、流の姿がぼやけていく。まだ見ていたいなあ、目に、焼き付けていたい。そんな努力もむなしく、私の瞼はそっと閉じられた。次に目を開けた時、またあの秘密基地で、みんなが笑いあえている姿を想像しながら。