07
「いいか天花、ネコの手だぞ」
「こう?」
「そう、良い感じ」
一緒に夕飯を作ろう、と磐舟が言い出したのはその日の昼下がりだった。スクナと紫の手合わせをぼんやりと眺めていた天花に突然磐舟が声をかけたのだ。天花は磐舟の作る料理に興味があったし、その作り方を普段から見て自分もやりたいと言っていたのだ。天花は二つ返事で了承した。ならばと天花の隣に座っていた流はハンバーグがいいですと言った。
夕飯のメニューが決まったところで、早速天花は磐舟と外に買い物に出かけ食材を買って戻った。天花たちが戻った頃には秘密基地には流とコトサカの姿しかなかった。流曰くスクナたちは今晩の大規模戦闘のための下見に行ったそう。
「じゃあ始めるか!」
「はい!せんせい!」
まずは玉ねぎを剥いてみじん切りにして、と工程を丁寧に教えていく磐舟。それを聞き逃すまいと真剣な様子の天花。コトサカは秘密基地の狭い天花を飛び回りハンバーグに上機嫌。流はそんな2人の様子を後ろからじっと見ていた。
「流、あんまり見ないで」
「どうしてですか」
「だってなんだか、緊張するし焦がしちゃいそう」
「焦げたものはあまり」
「そこは食べるって言ってよ!」
二人のやりとりを見ていた磐舟は声を上げて笑い出す。jungleがクランとして機能する前の、秘密基地が出来た頃のようだ、と磐舟は思う。あの頃は3人と一匹、それでも少し狭かったものだが、今や小さな部屋に今や6人と一匹が集まって同じ時を過ごしている。流の伸ばしていた枝葉もずいぶん伸びたものだ。
「俺ァさ、お前に何にも残しといてやれなかったな」
花嫁修行の一つもさせてやれなかったし。磐舟はぽつりと呟いた。天花は磐舟の表情を伺って吹き出すように笑った。
「今の私はね、流と、イワさんと過ごしてきたたくさんの時間で出来てる」
一緒にいれたと言えるかはわからないけれど、言葉を交わして、想いをつないで、今ここにいる。きっとそれはお裁縫やお料理を習って人並みの幸せを手に入れるより、天花にとって大切なことだ。彼らに命をつないでもらったことが何よりの幸福だと。
「私、みんなと一緒で幸せだったよ」
天花は照れ臭くなってフタをしたフライパンに視線を落とす。中ではハンバーグが焼ける音がして、あたりにはいい匂いが漂っていた。磐舟は照れくさそうな天花の頭を乱暴に撫でた。
「でも料理くらいは出来ねぇとなぁ、嫁の貰い手がないぞ〜」
「そもそも私のお婿さんに見合う人がいるかな」
「おっ言ったな」
「俺より強くないと認めません」
「ハードル上げるなよ流ェ」
幸せな夢だ。醒めてしまうのが惜しいほど。感じる匂いや温かさは現実に近いのに、実現するはずのないことが今あることを夢だと実感させる。天花は強く手を握りしめ笑った。醒めてしまう前に、少しでも時間を刻もう。一緒に過ごした時間を少しでも伸ばそう。たとえ夢でも、今は現実だと自分に嘘をついて。
「流に敵う人なんていないよ」
そう、天花にとって流以上の王はいない。それは夢が醒めても、夢が現実になって自分自身が王になっても変わらない。永遠に彼女の王は流なのだ。
「あ、でもわたしが作ったご飯はなんでも食べてくれる人がいいな、焦げてても」「食べますよ、俺も」「ほんと?」「はい」「じゃあほんとに流に敵う人なんていないね」「そうですね」
フタを開けて、用意していた皿にハンバーグをうつしたらソースをかけて完成。ごはんをよそって磐舟が用意してくれたスープと、付け合わせのポテトサラダを添えて。
長い間天花が夢みた食卓は、少し焦げた幸せの匂いがしていた。
「こう?」
「そう、良い感じ」
一緒に夕飯を作ろう、と磐舟が言い出したのはその日の昼下がりだった。スクナと紫の手合わせをぼんやりと眺めていた天花に突然磐舟が声をかけたのだ。天花は磐舟の作る料理に興味があったし、その作り方を普段から見て自分もやりたいと言っていたのだ。天花は二つ返事で了承した。ならばと天花の隣に座っていた流はハンバーグがいいですと言った。
夕飯のメニューが決まったところで、早速天花は磐舟と外に買い物に出かけ食材を買って戻った。天花たちが戻った頃には秘密基地には流とコトサカの姿しかなかった。流曰くスクナたちは今晩の大規模戦闘のための下見に行ったそう。
「じゃあ始めるか!」
「はい!せんせい!」
まずは玉ねぎを剥いてみじん切りにして、と工程を丁寧に教えていく磐舟。それを聞き逃すまいと真剣な様子の天花。コトサカは秘密基地の狭い天花を飛び回りハンバーグに上機嫌。流はそんな2人の様子を後ろからじっと見ていた。
「流、あんまり見ないで」
「どうしてですか」
「だってなんだか、緊張するし焦がしちゃいそう」
「焦げたものはあまり」
「そこは食べるって言ってよ!」
二人のやりとりを見ていた磐舟は声を上げて笑い出す。jungleがクランとして機能する前の、秘密基地が出来た頃のようだ、と磐舟は思う。あの頃は3人と一匹、それでも少し狭かったものだが、今や小さな部屋に今や6人と一匹が集まって同じ時を過ごしている。流の伸ばしていた枝葉もずいぶん伸びたものだ。
「俺ァさ、お前に何にも残しといてやれなかったな」
花嫁修行の一つもさせてやれなかったし。磐舟はぽつりと呟いた。天花は磐舟の表情を伺って吹き出すように笑った。
「今の私はね、流と、イワさんと過ごしてきたたくさんの時間で出来てる」
一緒にいれたと言えるかはわからないけれど、言葉を交わして、想いをつないで、今ここにいる。きっとそれはお裁縫やお料理を習って人並みの幸せを手に入れるより、天花にとって大切なことだ。彼らに命をつないでもらったことが何よりの幸福だと。
「私、みんなと一緒で幸せだったよ」
天花は照れ臭くなってフタをしたフライパンに視線を落とす。中ではハンバーグが焼ける音がして、あたりにはいい匂いが漂っていた。磐舟は照れくさそうな天花の頭を乱暴に撫でた。
「でも料理くらいは出来ねぇとなぁ、嫁の貰い手がないぞ〜」
「そもそも私のお婿さんに見合う人がいるかな」
「おっ言ったな」
「俺より強くないと認めません」
「ハードル上げるなよ流ェ」
幸せな夢だ。醒めてしまうのが惜しいほど。感じる匂いや温かさは現実に近いのに、実現するはずのないことが今あることを夢だと実感させる。天花は強く手を握りしめ笑った。醒めてしまう前に、少しでも時間を刻もう。一緒に過ごした時間を少しでも伸ばそう。たとえ夢でも、今は現実だと自分に嘘をついて。
「流に敵う人なんていないよ」
そう、天花にとって流以上の王はいない。それは夢が醒めても、夢が現実になって自分自身が王になっても変わらない。永遠に彼女の王は流なのだ。
「あ、でもわたしが作ったご飯はなんでも食べてくれる人がいいな、焦げてても」「食べますよ、俺も」「ほんと?」「はい」「じゃあほんとに流に敵う人なんていないね」「そうですね」
フタを開けて、用意していた皿にハンバーグをうつしたらソースをかけて完成。ごはんをよそって磐舟が用意してくれたスープと、付け合わせのポテトサラダを添えて。
長い間天花が夢みた食卓は、少し焦げた幸せの匂いがしていた。