医務室の隣に新設された相談室。休み時間にはよく生徒達も利用してくれるが、授業中は静かな事が多い。窓から入る風は、眠気覚ましに丁度いい。
デスクトップパソコンで論文を見ながら、次の研究に向けて準備をしていると、扉がノックされた。
「どーぞ〜」
「ジョ〜アちゃんっ!遊びに来たで〜」
「……」
「え、ちょお、なんか反応頂戴!?」
「……いや、ちょっとびっくりして」
「え〜、そらかわええなぁ?」
真っ直ぐ私のデスクに向かってきた彼女は、私の掛けていたPC用のメガネを取った。
「仕事は?忙しいんじゃないの?」
「忙しい時ほど息抜きって大事やん?」
「まあ、それでチリの仕事が捗るならね」
「それでジョアちゃんに会いに来たって訳や」
「……今日一緒に出勤したじゃん……」
「も〜、家は家やん!チリちゃんは熱心に仕事してるジョアちゃんが見たいんや〜っ」
「じゃあ、邪魔しないでね〜」
子供をあやす様に彼女の整えられた髪を優しく撫でて、彼女の手中にあるPCメガネを取り返した。
「あ〜〜っ!撫でられたんは嬉しいのに、構ってくれへんジョアちゃんは嫌やぁ〜っ!」
「子供みたいなこと言うなよ……」
このままではなかなか仕事に戻ってくれなさそうなので、私は持っていたメガネを机に置いた。
「ほら、チリ」
両手を広げると、彼女は目を輝かせて抱きついた。
「ジョア〜〜〜〜〜〜〜〜愛してる!ほんまに!」
「はいはい。仕事、頑張れそ?」
「ジョアのお蔭さんでなぁ〜……もうちょい頑張るわぁ」
「偉い。ハッサク先生に言わなくて済む」
「ここ来たって言うたらアカンで!?」
「あはっ、言わないよ。相談室は、誰でもいつでも来ていい場所なんだし」
そっか、と呟いた彼女は私の首元に埋めていた顔を上げて、自然な動作で唇を重ねた。
「!?」
二、三度ほど口付けて、彼女は私から離れた。
「ははっ、ほんま自分ええ顔するわぁ……」
「ち、チリ!学校!就業時間中!」
「ええやん、元気、出たやろ?」
「いや、いや!そういう元気ってこと!?は!?」
「え〜?ジョアちゃんのえっち〜」
「う、うるさい!早く仕事行け!!」
「あははっ、はいはい。続きはお家でしよな?」
「〜〜〜っ!しないっ!」
かわええなぁ、なんて言って、今度は彼女が私の頭を撫でた。
「じゃあ戻るわ。そろそろ、抜け出したんバレそうや」
「うん、無理しないでね」
ひらひら手を振りながら戻った彼女の背中を見送って、またデスクに戻る。
未だに熱の冷めない頬に手を当てて、はぁ、と息を吐いた。
「……私も、がんばろ」
マグに入った紅茶を一口飲んで、メガネを掛けた。
息抜きになったのは、君だけじゃなかったみたい。
スマホロトムに届いた、彼女からの定時退勤宣言を見て、私も目の前の画面に齧り付いた。