3月25日。
後期シーズンに突入し、クラブチームは上々の滑り出しを切る中、国際親善試合として、ドイツのリーグではなく、他国─フランスとの対戦が繰り広げられた。勿論、ドイツ代表として出場した彼は、久々の他国との対戦であるからか、単に上機嫌であるからか、華麗にハットトリックを決め、MoMとしてスタジアムの熱が冷めぬままインタビューが始まろうとしている。
関係者席で、我が子達と待っていると、同じくドイツ代表として出場していたネスくんが急ぎ足で私たちの元へ向かってきた。
「ネスくんお疲れ様。どうしたの?」
「こんばんは。リトルプリンスにリトルプリンセス、カイザーがお呼びですよ」
「そっか。2人とも行っておいで」
「何を言っているんですか。プリンセス、貴方もです」
「えっ」
「ほら、インタビューが始まってしまいますよ」
固まる私を他所に、ネスくんは娘のウリアを連れていく。
「ママ、大丈夫……?」
「う、うん。大丈夫だよ、行こうか」
息子のラファエルに手を引かれて、スタジアムのコートへ向かった。
ゲートを抜けると、インタビューを受ける彼が見え、子供達は嬉しそうに彼の元へ駆けていく。
ウリアが、パパー!と抱き着くと、一際歓声が大きくなる。かわいいなぁ、なんて思っていると、彼はインタビュアーからマイクを奪い、私の方を見る。
「ラファエル、ウリア。今日は何の日か分かるか?」
彼はしゃがんで、子供たちの方へマイクを寄せる。
せーの、と小さな掛け声の後、2人は同時に口を開く。
「「ママの誕生日!」」
「あぁ、そうだ。しっかり言えて偉いな?さすが俺たちの子だ」
「子供たちが言ってくれたように、今日は俺の愛する妻、ガブリエラの誕生日だ」
彼がそう言うと、スタジアムのあちこちから祝福の声が上がる。
当の本人である私は、驚きと嬉しさで、動けないでいる。それを察したのか、彼が近づき、私の手を取った。そして、そのままインタビュースペースまでエスコートする。
「今日はお前の誕生日だから、絶対ハットトリックで勝利して、この場で祝おうって計画してたんだ」
「ミヒャくん……ありがとう。少し恥ずかしいけど……すごく、すごく嬉しい……!」
マイクに届かない位置で、彼は私にそう告げる。私の為に、今日は頑張っていたのかもしれないと思うと、嬉しくて堪らない。
「パパ、プレゼント!早くー!」
ウリアが彼のユニフォームを引っ張りながら早く早くと急かす。
「あぁ、そうだったな。ネス」
「はい、こちらです」
スタンバイしていたネスくんが、子供達に花束と封筒を渡す。
「2人とも、ちゃんと自分たちで言えるな?」
うん!と元気よく頷く2人に彼は、いい子だと頭を撫で、マイクを近付けた。
「ぼくとウリアから、ママへの誕生日プレゼントだよ!お花は、2人で選んだんだぁ!」
「それとねっ!おてがみかいたの!ふふ〜にがおえもはいってるよ〜!」
2人から花束と封筒を受け取り、そのまま抱き締める。
「ラファエル、ウリア、本当にありがとうっ!ううー、ママ、嬉しくて泣いちゃいそうだよっ……」
「ママなかないで〜っ」
そう言って私の髪を撫でる2人に、こんなに大きくなったんだなぁ、と目尻から静かに涙が流れる。
「パパも、ママにプレゼントがあるんだよね?」
私が感極まっていると、ラファエルが彼の方を向き、そう尋ねた。
「勿論だ。ハットトリック決めたくらいじゃ、プレゼントにはならないからな」
そう言って、彼は観客の反応を煽る。それに応えるように歓声がどっと湧く。
彼はしゃがんでいた私の手を取り、立ち上がらせて手の甲へキスをする。
「ガビィ、お前の誕生日を祝うのは今日で何度目だろうな?お前の誕生日を迎える度に、ガビィが生まれてきてくれてよかった、出会えて良かったと心の底から思うんだ。来年も再来年も……いや、俺たちが死ぬまで、お前の誕生日を祝わせてくれ。ガビィ、愛してる」
「ミヒャくん……」
彼の言葉と共に、私の首元にネックレスがかかった。
オーダーメイドなのだろうか、青い石と水色の石が所々に散らばっている。シンプルだけれど、宝石が上品さを際立たせるそのプレゼントは、スタジアムの光を受けてより煌々と輝く。
「初めてガビィの誕生日を祝った時、ネックレスをプレゼントしただろ?お前はいい子だから、俺が首輪代わりに付けておけと言ったら、結婚してからもずーっと着けてくれていたから。そろそろ新しいのを、と思ってな」
「ミヒャくん、ありがとう。ふふ、昔のこと、ちゃんと覚えててくれてるんだね」
「当たり前だ。お前と出会った日のことも、初めてキスをした日のことも、全部覚えてる」
そう言って、彼は私にキスをした。きっと、スタジアムのスクリーンにはっきり写ってしまっているのだろう。ヒューヒューと茶化す歓声は、今日は特別嬉しく思えた。
「ママ!わたしも!」
ちゅーする!とウリアがぴょんぴょん跳ねる。
「ふふ、うん、ラファもおいで?」
「うん……!ママ!」
私と彼は屈んで、2人のキスを頬に受けた。
そして、私はマイクを受け取って、見守ってくれていた観客席を見渡す。
「ええっと、まず、本日は彼─ミヒャエルくんの活躍を応援して下さり、ありがとうございます。皆さんの暖かい声援のおかげで、彼も日々成長を重ねることが出来ていると思うので、妻としても、大変有難く思います。そして、そんな彼のサプライズにより、大切な誕生日を沢山の方に祝って頂けたことも大変嬉しいです。ありがとうございます。これからも彼、並びにドイツ代表の選手の方々の応援をよろしくお願い致します」
そう言うと、観客席は再び大きな拍手が巻き起こる。しかし、彼は呆れたように私を見る。
「ガビィちゃんはこんな時まで……相変わらず謙虚ねぇ?」
彼はそう言ってマイクを私から奪う。
「いいか、お前ら。明日、俺達家族を街中で見掛けても話しかけるなよ?俺は家族の時間を邪魔されるのが嫌だからな。あと、SNSにも載せるな、分かったな?」
「み、ミヒャくん……」
高らかに宣言する彼にも拍手が送られる。
絶対明日のニュースになるだろうな……と思いながら、インタビューは幕を閉じた。
子供たちは、ネスくんにジュースとお菓子を用意してある、と言われ喜んで走って行ってしまった。彼と2人、スタジアムのコートを後にし、彼をロッカールームまで送る途中、私は彼の腕を捕まえる。
「?ガビィ?」
「昔、2人で幸せになろうって約束したけど……今は、4人で……みんなで幸せになりたい。だから……また、約束してくれる……?」
「あぁ。当然だ、俺たちに不可能は無いからな」
彼は腕を掴んでいた私の手を青薔薇のタトゥーに触れさせる。
「一生離さないって、その時言っただろ?」
そう耳元で囁いて、着替えてくる、と私の額にキスをした彼の相変わらず綺麗な顔を寄せ、やり返すように私も愛を囁いた。
''Danke, dass du mich liebst, mein Messias.''愛してくれてありがとう、私の救世主様。

 

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