正直、網代先輩は仕事してる時はしっかりしてるのにしてない時との差が激しいと思う。

「はいタオル!使い終わったタオルは必ずバスケットに入れること!」
「味ちょうどいいと思うけど、薄かったら言って」
「右足!ちょっと痛いなら言ってよ、やるよ」

ちょっときつめなところもあるけど俺らをしっかりみてくれる先輩だ。
と思えば……。

「あかん疲れた休憩」
「めちゃくちゃ腹減ったんだけど若松何か持ってない?」
「あ、粉入れすぎたすまんすまん」

とドジとはまた違う……多分こっちが素なんだろうけど差が激しい。

「うおっ、ごめんよ」
「あっいえ自分が悪いので!」
「そ?あと10分で召集かかるからよろしくね」
「はい!」

網代先輩とぶつかってしまった、背の高い俺らバスケ部の中では網代先輩は小柄な方だ。桃井先輩も網代先輩よりははある。

「そういえば聞いたか?網代先輩、彼氏いるらしいぜ」
「それってキャプテンじゃねえのか?」
「キャプテンに言ったら冗談でもそれ言うんじゃねえってキレられた」
「じゃちげえのか、バスケ部じゃないんじゃね?」
「でも網代先輩休みでも自主練付き合ってくれるよな」
「まぁキャプテンたちと行動一緒にしてる感じあるよな」
「あくまで噂なんじゃねえ?」

そんな話を1年の俺らは集まって話していた、桃井先輩?桃井先輩は高嶺の花だ。そして本人から誠凛の黒子テツヤが好きだ、とめちゃくちゃ聞いてるし……。憧れてる奴はいるだろうけど。

「でも……俺、網代先輩が姉ちゃんだったらいいな、って思うことはある」
「え、マジか?……あー、でもわかるわ。めちゃくちゃキレながら世話焼いてくれそうだな」
「漫画とかゲームの話も合うしな」

「1年ー!!!そろそろあつまんぞー!」

キャプテンの声が響く、はい!と皆で大声を上げて体育館へと戻る。キャプテン、若松先輩は声がとても、大きい。試合中に叫ぶときがあるが俺らも耳がキーンとすることがある。


***


「おっし、今日は解散!お疲れ様」
「お疲れ様でした!」

荷物をまとめ、使ったタオルをバスケットへ入れる。どうやら1軍メンバーは残るようで青峰先輩と桜井先輩がなんか話していた。

「若松、手」
「あ?なんだよ」
「……ほら、ちょっと痛いでしょ。テーピングするからそこ座って」
「……お前マジで目ざといな」
「言い方やめて」

キャプテンが手を少し痛めていたらしい、背負ったリュックの肩紐を掴んだまま俺はじっとその光景を見ていた。

「キャプテンなんだから、少しの不調でも言ってよ」
「……お前、頭良くなったか?」
「もうちょっと締め付けてもいいみたいですね」
「悪かった!おい!聞いてんのか!」
「ウィンターカップ、今吉さんたちが見れなかった光景を……私たちが見るんだから、しっかりしなきゃじゃん」
「……そうだな」
「はい、終わり!……若松また手デカくなった?ほら比べると赤子なんだけど」
「網代の手が小せえだけだろ」
「くそ、センターの手のデカさを舐めてた。あ、指毛」
「うおっ、抜くなよ!」
「いいじゃん生えてていいことないよこの毛」

……うん、キャプテンと網代先輩は恋人じゃないな。なんていうか、親友みたいな間柄を感じる。

「お疲れさました!」
「おー、お疲れさん」
「お疲れ様ー」


***


3年が引退して、あっという間に卒業式になった。あの若松先輩も、泣いていてもらい泣きした。

「若松先輩ー!俺、頑張りますから!」
「ああ、よろしくな。青峰を支えてやってくれ」
「ア?支えてもらわなくても大丈夫だっつーの」

悪態をつきながらも若松先輩を見る青峰先輩はいつもより大人しく見えた。

「桃井ーーーーーー!!!!!!このバスケ部に置いていくのが心配でしょうがない……」
「梨沙先輩……!大丈夫です、大ちゃんもいるんで!」
「それが一番心配なんだよ、桃井の足ひっぱるんじゃねえぞ青峰」
「へーへー、わかったよ」

桃井先輩に抱きついている網代先輩、ずず、と鼻を啜っているが先輩は花粉もあって泣いてるのかわからない。泣いてると思っておこう。

「そういえば梨沙先輩、どこの大学に?」
「ふん、聞いて驚け。東大」
「…………ええっ!?受かったんですか!!!!!!!」
「……なんかね、まず中高校在籍中にスパルタな眼鏡の先輩いたし、今年は諏佐さんに頼み込んで教えてもらったからギリいけたってかんじ」
「……そう、ですね……梨沙先輩囲われてましたからね……」
「囲われてたってちょっと」

東大、そう聞いて開いた口が閉じない。あの網代先輩が、東大。

「……先輩、頭よかったんですね……」
「最後の最後に知ることがそれか!」
「なんだかんだスパルタのおかげで上位だったもんな、テストは」
「不本意ながらね」

ふと気づくと網代先輩が居ない、体育館の出入り口付近に近づけば声がした。

「俺、網代先輩が好きでした」
「おわっ」
「でも付き合いたいとかなくて、先輩には彼氏がいることも知ってます。……ただ、これは俺のエゴで言っておきたくて……」
「……桃井じゃなくて私なの?」
「はい、網代先輩です」
「そうなんだ、ありがとう」

あいつ、結局網代先輩が好きだったのか。あんまり聞かねえ方がいいな、と出入り口付近から若松先輩たちがいる中心へと移動した。
しばらくすると先輩に告白したあいつが戻ってきた、その表情はすごくすっきりしていた。

「すげえスッキリしてんじゃん」
「なんだよ、お前見てたのかよ」
「聞いちゃいけねえと思ったから最初しか聞いてねえよ」
「そーかよ」
「で?先輩は」
「電話掛かってきてたからそのまま」
「へー」

すると出入り口から「うわっ!!!うわっ!!!!」といいながら網代先輩が走ってやってきた。

「若松!青峰!どうしよう!!どうしよう!!!!」
「いやなんだよ、落ち着けよ」
「うるせえな、なんだよ」
「今吉さんが来る」
「…………アア?!?!?!?!?!」
「まじかよ…………」

めちゃくちゃ叫んだ若松先輩と頭を抱えた青峰先輩、網代先輩は携帯を耳に当てながら「諏佐さんー」と情けない声を出していた。

「私先帰る」
「んな事許されるわけねえだろ!!!」
「せやでー、何帰ろうとしてんねんアホ」

ぎぎぎ、とゆっくり出入り口の方を見る網代先輩。俺もつられて見ると眼鏡の人と若松先輩くらい背丈がある人がいた。

「あはは、来たんだ。すごいなぁ」
「桜井先輩、あの人は?」
「ボクの2個上の先輩、眼鏡の方が前の主将の今吉さん。もう1人が諏佐さんだよ」
「あ!俺試合見たからわかる、今吉先輩のシュートえげつないんだよなー!」

網代先輩を見ると諏佐先輩にすごく助けを求めているが今吉先輩に肩を組まれて捕まっている。……もしかして、さっき桃井先輩が囲われていたっていうのは

「まじであの人、網代のことになると行動はええな」
「変わらないですね、今吉さん」

はー、と息を吐きながら近づいてきたのは若松先輩。

「今吉さんはなー……なんつーか、網代の保護者でもあり教育者でもあり、旦那……だな」
「……旦那?」
「めちゃくちゃ外堀から埋めてんの、こええったらありゃしねえ」
「若松ー?なに変な事話してんねん」
「やべっ」

つーことだから、あんま気にすんな。とさっき網代先輩に告白したあいつに投げかけるように若松先輩は言ったあと、呼ばれた今吉先輩への元へと小走りで行った。

……俺はあんまり深く知らない方がいいんだろうな、と縮こまっている網代先輩を見ながら思った。