なんだか今日は嫌な予感がした。いつものように出社して仕事をこなしている時からやけに呪霊が多い。

そしてその時はやってきた。爆発するような音、人の悲鳴。学生時代に何度も感じた、気配と膨大な呪力。

「先輩!」
「……!梨沙、どうしよう!あの部屋に、課長が!」
「わかりました、先輩逃げてください。大丈夫会社の入り口までは安全に逃げられます」
「梨沙は、急に起きた、これが、何かわかるの」
「……ええ、不本意ながら」

受付カウンターに置いてあった招き猫をひっつかみ呪力を込める。すると準一級程度の呪霊が顕現する。顔布をつけ猫耳をつけた子供程度の身長のそれはそのまま先輩を入り口に誘導するように指示すればこくりと頷いて先輩の後を追った。
課長がいる、と言う部屋の扉をあければたった今課長を丸呑みした呪霊と目が合った。ごくん、と喉らしきところが上下する。

「アアアア!」
「ああもう、やだなぁ!どうしても一般人にはさせてくれないのね!」

そこらへんに落ちていたハサミとカッターをひっつかみ、呪霊を作る。刃物をもった2体の呪霊は足止めを命じれば目の前の大型呪霊へと向かっていった。途中送り終えた招き猫の呪霊も合流し、しっかりと足止めしてくれているようだ。

「!」

走りながらビル内の生存者を探す、呪力で感知しようとしても私の呪霊とあの呪霊の呪力がデカくてはっきりわからん!感知は難しい!
ふ、と外を見ればどろりとした黒い液体のようなものが覆い始めた、帳だ。よかった呪術師が来たのか。
すると私の目の前の壁から、爆発音とともに先ほどの呪霊が現れた。おいおいおいおい、でかくなってんじゃねえか!

「ミツ、ケタ」
「なんで?!私なんもしてないが?!」

大きな手を振りかぶり攻撃してくる、後ろに飛び退いて逃げれば私が立っていたところは大きく窪んでいた。死ー!

「リハビリもなしにくそデカ呪霊と退治させるんじゃないよ!」

近くの部屋に転がり込み目についた付箋を手に取る。私を追いかけてきた呪霊はダラダラと口から血を流しこちらをぎょろぎょろと見ている、その血自分のじゃないでしょ!
しかも、ここ出入り口一つじゃん!と周りをチラ見してショックを受けた、まぁ、しかたないか、骨のひとつやふたついっても硝子先輩に頼めばなんとかしてくれるだろう!と意気込み私は、窓へとダイブした。

「あいつの視界を塞げ!!!!!!!」

未だ沢山ある付箋を指で弾いた後に空中へ投げる。付箋が一枚、二枚と中型の鳥の呪霊へと変化し私を追って来た呪霊に纏わりつきはじめた。もう一枚胸ポケットに入っていた会議の資料作りのメモを取り出して着地のクッションにした。寿命縮んだわー!

「ね、知った顔だったろ?」
「……ええ、そうですね五条さん」

はー、とクッションにした呪霊を消して立ち上がる。帳が下りた時点で二人の呪力は感知できていたしわかってはいたけど。

「私、一般人なので助けてくれませんか?」
「僕の助け必要?」
「一人で大丈夫なのでは?」

五条先輩の脇腹を割と本気で殴った。まぁ術式展開していたから届かなかったけれど。

「ほら私勤務中だったので?なにもアイテムないっていうか?ね?ナナミーン!」
「やめてください」
「久しぶりのクラスメイトにそんな強い言葉使わないで」
「僕に頼りなよ、ね?」
「さっきの言葉は聞こえていなかった……?」

地上に降りて来た呪霊は言葉にならない叫びを上げながらこちらを見ている、付箋で作った呪霊は指を慣らせば霧散する。

「まじで便利な術式だよねー、憧れちゃう」
「心にも思ってないことを」
「網代さん、動きを止めておいてくれませんか」
「ねえやっぱりそのさん付けやめない?ちょっと鳥肌出る」
「社会人のルールなので」
「僕も下の名前で呼んでよ」
「五条先輩は黙っててください」

そこらへんに生えていた蔦をひっこぬく、呪力を込めればずるり、と意思を持ったようにこちらを見てニヤリとしている呪霊へと絡みついた。

「ありがとうございます、おかげで早上がり出来そうですね」

七海がジャケットを脱げば背中から現れる武器。もう大丈夫だろうと会社のビルを見ればガラガラと崩壊しそうだった。えっ私無職?


***


「そういえば女性一人出て来ませんでしたか?」
「ん?ああ……帳かける前だったし、いたかも。それがどうした?」
「いやまぁ、会社の先輩だったもので……」
「ふーんでももう関係ないでしょ?会社無くなっちゃったし」

パフェを食べながらそう言う五条先輩。あれから七海は何事もなく祓い終え「報告に戻ります」と帰っていった。五条先輩も一緒に戻るもんだと思ったら「中、取りに戻るんでしょ?ボディーガードするよ」と崩れそうなビルを指差していたから怪訝な顔をして受け入れた。笑われた。そして何故かファミレスに来ている。

「次はなんの仕事しようかなぁ」
「僕のお嫁さんとかどう?」
「無しで」
「えー本気だよ?……まぁそれは置いといて呪術師に戻っておいでよ」
「……現時点でその選択肢が一番なんですよねえ……」
「肉体的なリハビリとかもあるでしょ?手回すよ?というかもう手回してるから。明後日朝10時に学校ね」
「もう戻るしかないじゃん……」

ファミレスを出て車に乗り込む。ナチュラルに五条先輩も乗り込んできてあっこいつ泊まる気だなと五条先輩を見たら「よろしくー」と目隠しを首元に下げていた。