任務が長引いて日を跨ぐ間際になってしまった。
まだわいわいと賑やかな酒場に入ればカウンターに1人分のスペースを見つけた。

「今日は遅かったな」
「長引いちゃった。なんか食べ物ある?」
「仕込みすぎてな、まだあるよ。おすすめでいいか?」
「頼みます〜!あとお酒!」
「飲みすぎるなよ?」

スープにステーキにパン、なんだか一般的なディナーのようなメニューを口にしながら酒を飲む。
ふと周りを見れば端の方でいつもの4人が飲みをしているのが見えた。

「は〜美味」
「ハハ、褒めてくれてありがとよ」

懐から煙草を取りだして火をつける。ス、と出された灰皿にありがとうと目でお礼を言っておいた。
肺まで入れない。肺に入れないでどうする、と言った人も居るが味を楽しむのだから充分だ。

マスターと話しながら酒を飲み、タバコを吸い……時間はかなり経っていたようで人の気配も少なくなっていた。

「リサ」
「…………カーヴェ?どうした?」
「……どうしたもあるか、なぜこえかけてくれないんだ」
「いや、他居た……ってアレ?!3人は?」
「かえった。ぼくをおいて…………うう……」

薄情なヤツめ。と思ったがあの3人は、する。
ましてや同じところに住んでいるアルハイゼンですら、する。というかアルハイゼンが筆頭でする。
隣の席が空いているのでカーヴェを座らせると肩に頭を置いてもちゃもちゃ愚痴を言ってきた。そうだね、うんうん。と相槌を打ちながら煙草を吸っているとカーヴェが止まった。

「……きみ、たばこすうのか」
「あれ。知らなかったっけ、苦手?」
「んん、…………きみのなら、いい」
「そう?」

すり、と空いた手にカーヴェの手が絡みつく。
…………鈍い私でも勘づいてくる、カーヴェは酔っている上に私にアピールしてきている。
マスターに助けの目を求めればウインク。逃げるな!助けてくれ!

「……なぁ、リサ……」
「なに?」
「…………だいてほしい……」
「…………そっち?!」
「だめなのか?ぼくがリサにだいてほしいとおもっちゃだめなのか?!」
「声がでかい!一般的にはさ、男性と女性だし…………入れるのと入れられるのだし……」
「いれるだけが、だくのではないだろ……」
「何だこの酔っ払い……」

ぐす、と私の肩を濡らし始めたカーヴェにどうしようかな〜と頭を抱える。
とりあえず店から出るか、とマスターにお会計をお願いした。カーヴェの方のテーブルは既にお会計が済んでいたようだ。

「カーヴェ、お店出よう」
「……うん」
「お家帰ろう、送るから」
「……いやだ……」
「強情だ……」

私の片腕に絡みながら歩くカーヴェ。歩きにくいったらない。
カーヴェが住む家と私が借りている家の分岐点。ぴたりとカーヴェが動かなくなってしまった。

「カーヴェ」
「……どうしても、だめか」
「どうしたのカーヴェ」
「きみのことが、すきなんだ」

ぽろぽろ、とガーネットのような瞳から大粒の涙が流れる。
日を跨いで数刻、辺りは寝静まった静かな音。人の気配は皆無。居ても動物だろう。

「……カーヴェ」
「こまらせて、ごめん……ぐす……」

正直、バカ可愛い。
私の手を握りながらぽろぽろ泣く美形男子なんて、可愛いだろ。
もう片手でカーヴェの頬に手を伸ばせばすり、と無意識なのか擦り寄ってくるカーヴェ。

「……カーヴェ、本当に家来る?」
「えっ……いい、のか」
「うん。カーヴェが良いなら」
「……えっち、してくれるのか?」

間違いなくちんこが付いてたら反応してた。
んん、と咳払いをして濁す。もカーヴェはすり、と私の指に自らの指を絡ませていく。

「それは、…………あとでね」
「…………」

拗ねた顔をしている。酔ったカーヴェとセックスして、朝起きてカーヴェが何も覚えていなかったらただの襲った女である。それは避けたい。
とりあえず私の家に、と歩みを進めるもその道中ずっと唇をとがらせて拗ねたカーヴェが視界に写っていた。

「カーヴェ、お水飲める?」
「……うん」

家に着いて氷入りの水を差し出す、ちょっと落ち着いたのかソファーに腰掛けるカーヴェは水を一気飲みした。

「カーヴェは明日休み?」
「あぁ」
「そっか。じゃあお風呂入って、綺麗にしなきゃ」

ね、と続く言葉は出なかった。カーヴェに手首を握られて引っ張られたからだ。
慌ててソファーの背もたれに手をつくもカーヴェとの顔の距離は数センチ。

「カ、」

する、と私の首の後ろに腕が回る。やばいと思った瞬間には氷水を飲んだひんやりとしたカーヴェの唇が重なっていて。

「ん……」

こういう時力が強い。体を離そうとしても首に回った手が離してくれない。
にゅる、と入ってきたカーヴェの舌も受け入れることしか出来なかった。

「ん、ふ……カーヴェ……!」
「ぁは……たばこのあじが、するな……。もっと」
「しない!もう!」

嬉しそうに目を細めて笑うカーヴェに柄にも無く、腹の底がぐるぐると妙な気持ちになる。
目の前の獲物を逃がさない、と言わんばかりの欲。

「どうやったら、きみをそのきにさせられる?」
「……カーヴェがお風呂入ったらかな」
「!はいってくる……!…………いっしょにははいらないのか?」
「はいらないよ」

そうか、としょんぼりするカーヴェにまた胸元がぐっ!となる。
ちょろいんだか分からないがこんなにも分かりやすくてどうする。私が。
あのてろてろに酔っ払ったカーヴェがちゃんとお風呂入れるのか不安だったが杞憂だったようでしばらくするとまだ水気のある髪の毛の状態で出てきた。

「私お風呂入ってくるから、ベッドに寝てていいよ」

何度か泊まりに来ていたカーヴェ、寝巻きを置いていったこともありそのままそれを着用していた。
素直に私の言ったことにこくん、と頷いたカーヴェを見て笑みが漏れた。

お湯を浴びつつ考える。え、これでベッドで起きてたら私食う自信しかないよ。据え膳なんとやらだし。
深く息を吸って、吐く。よし、寝転がしてよしよしすれば寝るだろう。よし、よし……。

「……カーヴェ?」

布団の中でこんもり、と丸まっている何か。
十中八九カーヴェしかないのだが、どうしたのだろうかとベッドに腰かけて軽く撫でた。

「……きみのにおいしかしない」
「そりゃ私が寝てるところだからね」

ほら、つめて。とカーヴェを押しやれば移動をしてくれる。
うん……抱いてくれと言ったのは落ち着いたかな。あんなにお酒を飲んでいれば勃起するものも中々、と聞くし。
掛け布団が暑い、と少しずらす。カーヴェとは寝ながら向き合う形になるが、何だか居心地悪そうに目を逸らしている。

「カーヴェ、寝よう」
「…………寝る前に、キスしてくれないか」
「……1回だけね」

両頬を包んで触れるだけのキスをする。1回だけ、と自分で言ったのに目を細めて嬉しそうに笑うカーヴェが可愛くて何度も触れてしまった。

「ごめん」
「もっとしてくれ」
「……カーヴェ」
「君が欲しい」

ちゅ、とわざとらしくリップ音が鳴る。あー、やばいな。呑まれるな。と薄ぼんやりとした考えを持ちつつも舌が絡まっていく。
カーヴェの舌は熱い、口内に唾液が溜まっていくのを感じてどちらの唾液か分からない物を嚥下した。
熱い吐息が掛かる、カーヴェを見れば薄く潤んだ緋色の瞳がこちらをじっと見ていた。

「カーヴェ」

頭を抱き抱えるように抱きしめる。私の控えめな胸元にカーヴェの顔が当たるが気にしない。
カーヴェの髪の毛を指で梳きながら頭にキスを落とす。

「君、という……奴は……」

とんとん、とカーヴェの背中を叩けば規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
……最後、ハッキリしてたな。あれかな、氷水の氷……元素で作ったから酔い冷めが早かったかな……。
胸元で眠るカーヴェの頭に擦り寄って私も瞼を閉じた。


***


チュンチュン。と外から鳥の鳴き声がする。
目を開けばいつもの風景、だがひとつ違う点がある。腹部に回る手。あろう事かシャツを捲りあげて素肌に触っている手はカーヴェのものだろう。
後ろからは寝息が聞こえる、まだ寝ているのだろう。
そっとカーヴェの手を外してベッドから起き上がる。体を伸ばせば関節がパキ、と鳴った。

朝は食べない。がカーヴェは食べるだろう。と簡単なモーニングセットを作っていると後ろからドン!と何か落ちたような音がした。
予想するに目が覚めたカーヴェが状況を把握して慌てて飛び起きたらベッドから落ちた、と。

「おはよう、天地が逆さまになっているよ」
「…………あ、あぁ、おはようリサ……」

案の定下半身をベッドに、上半身を床に凭れさせたカーヴェがこちらを見て数回瞬きをしていた。
ご飯できてるから顔洗って来ちゃいな、と言えば素直な返事が返ってきた。

「……君は食べないのか?」
「私は朝食べないよ」
「すまない、ありがとう」

自分の作ったご飯を可愛い男が食べている。こういうのなんて言うんだっけ、求愛給餌だっけか。……そんな単純な生き物では無いのだけれどね。
本を読みながら紅茶を飲めばカーヴェは何か言いたげに視線を動かす。ふふ、可愛いな。

「……なんだか、色々君に言ってしまった気がする」
「例えば?」
「……そ、その、抱いて欲しい……とか」
「言われたねえ」
「君の事が好き、とか……」
「……言ってたような」
「嘘じゃない!本当なんだ……!君の事が好きなんだ」

ぽつり、と零すカーヴェ。可愛い。
…………そういえば稲妻の言葉で可愛いと思ったら手遅れ、などと聞いた記憶もある。雑誌だったか……。

「カーヴェはさ、付き合ったとして何がしたい?」
「何、って……」
「勿論最終的にはセックスなのは分かるんだけど」
「あけすけに言うな!」
「カーヴェ昨日散々言ってたじゃない……」

なぜ私は怒られねばならないのか。と紅茶を口に含む。机に突っ伏してしまったカーヴェを置いて近くのソファーへと腰掛ける。

「……甘やかして欲しい」
「うん」
「沢山好きだと言って欲しい」
「うん」
「可能なら、デートもしたい」
「うん」
「……一緒に居たい」
「……可愛いな…………」

そう呟きながら私の座るソファーにとぼとぼやってくるカーヴェ。隣にどうぞ、と手を翳せば隣にくっついてくる近さにちょっと思考停止した。

「君、長い間いなくなる時あるだろう」
「………………う、うん」
「好きな人を探して毎日酒場に行って会わずに帰ってくる僕の気持ちが分かるか」

健気すぎるやろがい!と息を吸った。
いつの間にか取られていた片手はカーヴェによっていじいじと触られている。どうしてだろう、カーヴェの方が身長もあるのにこう、庇護欲が。

「私はうんと長生きだよ」
「そうだな、どのくらいだったか……」
「岩王帝君と同じくらいは生きてるね」
「……璃月の神か?それは……相当だな……?」
「だから必ず君を看取ることになる」
「……」
「カーヴェ、君を看取りたくない……悲しくなるから」
「終わりを考えたら何も出来なくなるだろう!」

猫の威嚇。の様な吠えをするカーヴェ。
その目は潤んでいて怒られているのにも関わらず綺麗だな、と場違いなことを考えていた。

「……単純な気持ちだよ、僕のことが好きか嫌いか」
「好きだよ」

好きだよ、カーヴェ。と呟いた言葉は呑み込まれた。デジャヴ。

「ずっと一緒に居てくれ!」



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