あれから、カーヴェに会えていない。
何故なら私の冒険者仕事が激務になってしまったからだ!長期的な護衛任務、カーヴェに直接言うタイミングも無く出発してしまった。
辛うじて出した手紙は1通。音沙汰ないよりはまだマシかな、と。

「ふ、はは。そうか、お前がか」
「煩いな……」
「いやはや、……良いだろう、人間は」
「そんなことモラクスよりも先に知ってるわ!」
「鍾離だ」

けっ、と涼しい顔で隣を歩く鍾離に小石を飛ばせば「お前は赤子か」と言われた。
モラクス、もとい鍾離。かれこれ長い付き合いになる腐れ縁。
護衛任務の終着点が璃月だった為、こうして顔を合わせることになった。

「暫くはスメールに住もうかな」
「そうすると良い。ひと月でも長いものだぞ」
「そうだよね、12回これをしてしまえば1年になるんだからね……」

1年なんて一瞬だ、とは言えない。1年を何回も何千回も過ごしてきた私たちは、感覚が違う。

「いつ帰るんだ?」
「明日か明後日だね、もう依頼は完了してるし帰るだけなんだけどさ」
「そうか。たまには飲むか」
「え、いいの?魈も呼ぼうよ」

鍾離が呼べばなんだって来るだろ、魈は。
では後ほど、と言われたお店は三杯酢。本当にお前はこの店がお気に入りだな……。


***


「おい〜!飲んでるか〜!」
「酔っパイモン……」
「ふふ、面白いね」
「笑うな旅人〜!こいつだって酔っ払いなんだからな!」

たまたま璃月に居た旅人とパイモンが誘われたらしく、合流した。
人が増え賑やかになっていく様を見ると、カーヴェに会いたいなという気持ちがデカくなる。

「……ねえ、リサ。カーヴェにはちゃんと連絡してるの?」
「カーヴェ?なんで?」
「いや、その……カーヴェが」

めちゃくちゃ寂しがってて。と旅人から言われたとき、長いため息と同時にに頭を抱えた。

「ただの友人だよ」
「……そうかな、僕の一方通行なんだ〜とか言って喚いてたけど」
「待って酒場とかで言ってたの?」
「セノもティナリも居たよ」
「最悪だ」

そんなのスメールに広がるのは時間の問題だ。
……明日、帰ろうか。と思うと同時に私はこんなにも人間臭くなったか、と笑いが漏れた。

「安心したよ」
「ん?」
「カーヴェの一方通行じゃないみたいで」
「…………内密にね」
「うん」

飲みは朝まで続いた。去るものは追わず、朝まで残っていたのは潰れて寝てしまっている人を除けば私と鍾離だった。

「浴びるほど飲んだなぁ」
「羽目を外し過ぎたか」
「たまにはね、数十年に一度くらいは」
「……璃月にも顔を見せるといい、共に」
「親族挨拶みたい」
「はは、そうさな。……お前は家族のようなものだ」
「そうだね、……またね、モラクス」
「ふ、鍾離と言っているだろうに」


***


砂漠の乾燥と森の香り、スメールだ。
テイワットは広い。帰るのにも時間はかかる。
すっかり日が落ちてしまった空を見て、カーヴェに会うのは明日かな。と酒場に足を進めた。

「いらっしゃ……うお!帰ってきてたのか!」
「今帰りました〜、軽く飲んで寝るよ。疲れちゃったから」
「そうかいそうかい、いつもので?」
「よろしく、これ璃月の酒」
「……これ高いやつじゃないか?いいのか?」
「うん、お世話になってますし!」

店主にお土産のお酒を渡せばいそいそと仕舞うその姿にふ、と口角が上がる。
酒場はにぎやかなものの、ピークではないようでその前に帰るか、といつものセットを口にした。

「いらっしゃい」

また1人、やってくる。お腹も膨れたし空きの席も無くなってきたので帰るか、と立ち上がって目が合った。

「……リサ?」
「カーヴェ」

くしゃ、と綺麗なカーヴェの顔が歪む。共に来たらしいセノとティナリが後ろから顔を出して(あー……)と言いたげな顔をしていた。

「すまない、僕は家に帰る」
「アルハイゼンも後から来るぞ?」
「すまない」

くるり、と踵をかえして店から出ていってしまったカーヴェと、それを追いかけろ!と言うようにジェスチャーしてくるセノとティナリ。

「……なんかめっちゃ拗ねてる?」
「そりゃそうだよ、手紙の一通くらいだけなんだから」
「早く行け。後がめんどくさいからな」
「わ〜……視線刺さる〜……」

店主には多めに払ってセノとティナリには手を挙げて出ていったカーヴェを追いかけた。
どこに行った、見当たらない。瞳孔を絞り草元素を追いかければ、少し道をそれたところに居るようだ。

「カーヴェ!」
「……なんで追いかけてきたんだ」
「そんな状態のカーヴェ放っておけないでしょ」
「…………君は、僕のことなんてどうでもいいんだろう」
「カーヴェ」

今にも泣き出しそうな顔のカーヴェ、向かい合って肩を触ればカーヴェの頭が私の肩口に置かれた。ぎゅう、と腰に手も回っている。

「……寂しかった、不安だった。君からは何も聞いていないし、連絡も無かった」
「うん」
「ぼやぼやした記憶の中で夢だったのかな、とか遊びだったか。とか色々考えた」
「うん」
「……やっぱり僕は君が好きなんだ」
「……カーヴェ」
「君は、僕のこと……どうでもいいのか」
「そんな訳ないでしょ、じゃなければ追いかけて来ない」

ぽつり、ぽつりと言葉をこぼす。
私はふと長期任務にあたることが有る、上で連絡すると言ったことを失念しがちである。
肩口が濡れていくのが分かる。カーヴェはきっと、泣いている。

「……私はカーヴェを泣かせてばかりだ」
「本当にな」
「私はカーヴェが好きだよ、これは安心して。……旅人にね、カーヴェが寂しがってる、と聞いて急いで帰ってきたんだ」
「……だからか、いつもの君の香りがしない。なんだか、お香の香りがする」
「璃月から帰ってきて家寄ってないからね」

肩口から重みが無くなる、カーヴェの目は水が張って、更に赤くなっている。

「カーヴェ」
「……キスしてくれ、君から……」
「いくらでも」

頬、瞼、そして唇。人目なんて、気にしなかった。
触れるだけのキスがいつしか舌が絡むようなものになっていた。ごくり、と唾液を嚥下する。

「……帰りたくない、帰ったらまた君が居なくなりそうだ」
「おいで、一緒に寝よう。お風呂だって一緒に入ろう」
「……いいのか?お風呂も?本当に?」
「うん。カーヴェ明日は?」

休みだ。と頬を染めるカーヴェに喉が、鳴る。
駄目だ。竜種の本能が出てきてしまう、番にしろと、瞳孔が細くなった。

カーヴェは私よりも背が高い、私も女性の枠組みの中では身長が高い方だが男性の体格には劣るというものだ。
そんなカーヴェが自身よりも小さい私の手を握り、指を絡めているのを見ると、来る。

「……君、たまに僕をその目で見るの、どうにかならないのか」
「その目?」
「自覚ないのか?……その、捕食者のような、目だ」

足が止まった。完全に顔に出てるじゃないか、と空いた手で自分の顔を覆った。

「ごめん、不快だよね。どうにかする」
「不快ではないんだ!……ではないんだが、その顔を見ると……君に、抱いて欲しくなる」

グゥ、と喉が鳴った。駄目だ駄目だ、このまま家に行くと私は、カーヴェを捕食してしまう。数百年ぶりの欲求、抗う術を思い出そうと躍起になっている。

「カーヴェ、家に帰ったら君を抱くけど、良いね」
「ッ……あぁ、リサ……君に、抱いて欲しい」


***


もう、言えたもんじゃない。
隣で産まれたままの姿で寝ているカーヴェの至る所に噛み跡、鬱血痕が見える。それは私の体にもだ。
お風呂にも入らず寝てしまったお互いの体はベタベタしている。
湯船を張って入ろうか、とベッドから体を起こした。私も全裸で寝てしまったようだ、とりあえず下着だけでも履くか。

「……ん」
「カーヴェ、お風呂張ってるから後で入ろう」
「……君と、一緒がいい」
「一緒に入るよ」

寝起きの掠れた声、顔に掛る前髪を指先で退かせばとろん、としたカーヴェの瞳と目が合う。

「……ふふ、起きたら君がいる……最高だ」
「なにそれ」
「よく眠れるんだ、君のそばにいると」

目が覚めたようで体を起こしたカーヴェがはた、と固まる。

「な、なんで君、上着てないんだ」
「え?だってどうせ脱ぐし……」
「目のやり場に困るだろう!」
「どうせお風呂一緒に入るじゃん……」
「そ、うだけども……!」
「カーヴェだって下履いてないし」
「いや、その、それとこれとは別だろう!」

どうにかカーヴェを丸め込んでそのままお風呂へと移動した。頭顔体、と洗えばもうスッキリ。湯船にはぁ〜……と入り体を伸ばせばまた眠れそうだ。

「体はしんどくはないのか?」

カーヴェの足の間に入り、胸元に体を預けているとふと声がかかる。

「大丈夫。そう言えばカーヴェに言いたいことあるんだけど」
「なんだ?」
「私長生きしてるのは分かるよね」
「そうだな」
「人間でもないんだ」
「…………は?」
「心当たり、あるでしょ?色々」
「ま、まぁ……そうだが、こう、面と向かって言われるとやはり驚くものがあるな」
「やることやってるけど、嫌だったらいいから。……私は龍種なんだよね、だけどこの形が好きでもうずっと龍にはなってないけど」
「なんだかすんなり納得する僕がいる。どんな存在であれリサはリサだ」
「優しいね、カーヴェ」

体をカーヴェの方に向けて顔を撫でれば、照れくさいのか視線を逸らしてしまった。

「そろそろ上がろう、カーヴェの頬が赤くなってきた」
「君と居るから、尚のこと血流が良くなるんだろうな」
「可愛いね……」

服を着たカーヴェ、……見てられない。どうしよう。

「?どうかしたのか?」
「……その、カーヴェ。鏡見てもらっていい?」
「??…………ッ!!!き、君……!」
「どうしようねえ……カーヴェのシャツ、隠れないから」

空いた胸元から覗かせる、痕。露骨すぎてどうしようか、と腕を組んだ。

「……とりあえず、今日は夜に帰るさ。駄目か?」
「いいよ、ゆっくりしようか」
「夜ならあまり分からないだろう」

ただ、家を空けていたから食材ないんだよなぁ。とぽつり。

「カーヴェ、なんでもないシャツならあるけど、着れるかな。オーバーサイズなんだけど」
「借りてもいいか?一緒に買い物に行こう」
「ん。朝ごはん食べたら行こうか」

シャツの仕舞ってある場所を伝えればそちらに向かうカーヴェ。
……なんだか、同棲してるみたいだな。と淹れたてのコーヒーを飲みながら思った。

カーヴェが家に居る生活か………………………………存外、悪くないな。



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