※激捏造
「網代、投げてみるか」
「………………なんの、心変わりですか、監督…………」
トンボをかけようとグラウンドに立ったらベンチに居た監督からそんな言葉が投げ掛けられ辺りが静まり返った。
「監督、俺受けます」
「ちょっ!」
「そんじゃま、俺打者やるかな、ヒャハハ!」
「あんたら楽しんでるでしょ……!!!」
どうやら監督は練習に割と本気で言ったらしく、じっと視線がこちらを刺してくる。
「じゃあ俺たち守備やろうかな、気合入るでしょ?」
「いいな、やるか」
「外野まで飛ばしてこいよ倉持ィ!」
亮さんを筆頭に哲さん、純さんもグローブを持って準備をし始めてしまった。
「俺!先輩が投げるの初めて見ます!」
「野球部マネになってから初めて投げるからね?!……あー!もう……どんな暴投しても許してよ」
「いーや、ダメだね」
「……丹波さんもなんか言ってくださいよ!」
「お、俺か!?」
「やめとけ網代、丹波に急なフリはキツイ」
サイズが近いだろうから、と春市くんの練習着を借りて着替える。グローブを持ってベンチから眺めたグラウンドに涙が出た。
「自由に投げてこい」
「……監督……」
「お前がいい投手だったのは知っている、あいつらにいい刺激になれば一番だ」
ちらりと横目で見ているのは1年の降谷くんと沢村くん。
しかし参った、こちとらブランクが2年あるぞ。
「ちょっと練習していいですか」
「ああ、何球だ」
「……10で作ります、御幸!」
「はいはいっと」
3球ほどキャッチボールをする、キャッチボール程度の投げはしていたから問題はない、投球となると別だ。
「球種、何がある?」
「スプリットは得意、あとはカーブ、スライダーも出来……た」
「……ほんと、鳴に隠れちまった投手だな」
「もう遅いよ、ほらリハビリ手伝って」
「まずはストレート、いけるな?」
「うん」
ボールをグローブの中に収める、息を吐く。緊張……しなくもないけど、それよりも高揚感がある。大丈夫、今まで通りに投げれば、良い。監督だって自由に投げてこいって言ったじゃないか。
「ッ!」
パァン!と御幸のキャッチャーグローブに球が収まる。ほっ、と息を吐く暴投はしなかった。よし。
「……早くね?」
「調子いいかも」
「次カーブな、その次スライダー」
御幸の指示通りに投げる、うん今日は調子がいいぞ。手首を軽くプラプラ動かす。楽しい。
「次、スプリット」
「うん」
息を吐いて投げる。カクン、と落ちた球は御幸のミットの中へ。
「……お、落ちるなぁ!これ!お前すげえよ!」
「照れる」
「はは!楽しくなってきた、あと2球投げたら行くか」
「うん」
肩が温まってきた頃にベンチに戻ると純さんに肩を組まれた、勢い!
「お前、ストレートどんくらいかわかってるか?」
「え、わかりません」
「110だよ、しっかりと投手の肩のままだなお前!」
「おわぁ……」
「ヒャハハ!楽しくなってきたな!」
守備に回る先輩らが軽くグラウンドに出る前に背中を叩いてくれた、涙で滲む目元を拭ってグラウンドに立った。
「やりたいことあるんだけどやっていい?」
「ん?何」
「……ガンガン打たせていくんで!バックのみなさん!よろしくお願いします!」
「ぶはっ!」
「ヒャハハハハ!お前最高だな!」
「まかせろォ!!!!!!」
沢村のセリフ、一度は言ってみたかったんだ。と沢村を見ればすごいおどおどしてた、なんでや。
「プレイボール!」
監督は審判へ、すごい圧を感じる。容赦無く御幸はサインを出してくるし打者の倉持はめちゃくちゃ楽しそうな顔をしている、打ち取ってやりてえ。
「ッ……!」
「ストライク!」
「……早くね?」
「いったろ倉持、あいつ鳴に隠れてただけなんだよ」
最初はストレート、多分球を見るために見逃したな。
御幸のサインは次もストレート、ただミットを構えている位置はインコースだ。おまえ、マジか。
(どうなっても、しらんぞ!)
腕を振り抜く、倉持に当たらずインをついた球は御幸のミットへ収まる。
「ストライク!」
「おま、容赦ねえな!」
「そこの正捕手に言って」
「あははー」
そして3球目、御幸のサインはスプリット。若干位置をインに構えたミットを恨めしく見る。
「ッ!」
「うっ、お!」
ギィン、と鈍い音が響く。打球はボテボテとファーストの哲さんの前に転がり倉持はタッチアウト。
「落ちすぎだろ!お前!」
「今日調子がいいぞー!監督ありがとうございますー!悔いなく投げます!!!!」
「球が来ねえぞ!どうなってんだ!」
外野から聞こえるヤジに苦笑い。次は春市くんが打席に入る、どうやら打者も打ちたい奴が行けスタイルのようだ。
***
「ストライク!バッターアウト!」
「……つ、つっかれたぁ……」
最後の打者は沢村くん、豪快に振り抜いたバットは空を切った。
疲れのあまりグラウンドに転がってしまった、息が上がる。体力の無さを実感した。
「78球、お前よく投げたな」
「腕が動かない、プルプルしてる」
「……いい腕だ、惜しいな」
近づいて蹲み込んだ御幸のそばに立った監督の言葉を聞いて涙がにじむ。
「ありがとう、ございます」
「肩を冷やすぞ」
ずりずりと立ち上がろうと体を起こした途端に両脇から抱えられた。
左右を見てもピンク、小湊兄弟で挟まれた。
「先輩お疲れ様でした!」
「よく投げたよ、褒めてあげる」
「対照的なのに挟まれてしまった……!」
あれから案の定全身が筋肉痛になった。
しばらく授業を受ける時もうっ、と呻いていたら隣の御幸と斜め前の倉持がひっそり笑っていたのを思い出した。こいつら。