※1年時
「あー!」
知らない人ばかりのクラスでぼへー、としていたら出入り口から大声が聞こえた。そちらに顔を向けて声の主を確認して私は顔を歪めた。
「なんでいんの!」
「……青道選ばなかったからでしょ」
「ふーん、一也よりもおいらってことね!」
「急に話を飛ばすな」
隣の席に腰掛ける成宮鳴にため息を吐いた、ちらりと顔を見ればふーんと得意げな表情。
「野球部はいんの?」
「そのつもり、マネやろうかな」
「捕手やらないの?」
「なれないでしょ」
「えー、じゃあ俺の球受けれないじゃん」
「練習でならね、でもスタメン投手になるんでしょ。そしたらちゃんと成宮の球を受けれる人じゃないと」
「まぁそうだけどー」
ぷくー、と頬を膨らませる成宮に笑いが漏れる。これが強い投手なんだもんなぁ、と思った。
***
「そういえばさー、一也に言ったわけ?稲実に行くって」
「話してないよ」
「はぁ?!裏切りじゃん」
「何それ」
野球部に入ってしばらく経った頃、柔軟をしている鳴にふと問いかけられた。鳴、と呼んでいるのはこう呼ばないと膨れていくからだ、頬が。
「別に、一也は一也で私は私でしょ?あと稲実の試合データとか見てるだろうからもう知ってるでしょ」
「ふーん、それでいいんだ」
「?なにがよ」
「べっつにぃ!ほら!おいら投げるから捕って!」
「本当……雅さんの負担にさせたくないから捕るけどさぁ」
「終わったら送ってるからいーじゃん!」
「そうですねぇ」
なんだかんだ持ってきている自分のキャッチャーミットを取り出す。手袋をしてからミットに手を通す、鳴の球はちょっと痛いので手袋しないと後が困る。
「ほらいくよー!」
「はいはい、投げ過ぎない程度に止めるからね」
「りょーかい」
軽く、ではなくしっかり本気で投げる鳴。ミットに収まる球だがジン、と手に衝撃が来る。
「真ん中に来るじゃん、今日調子がいい日?」
「もう今日終わるんだけどー!?」
「いい1日で終わったってことにしよ」
容赦無くスライダーとかも投げてくる鳴には慣れた、そして鳴の球に慣れてきた自分に笑いが漏れた。
「なんだ、またやってたのか」
「雅さん!」
「すいません、鳴がうるさかったんで」
「ちょっとそれどう言うこと?!」
「しかし網代も良く捕れるな」
「でしょー!正直一也よりも投げやすいと思うけど?一也相手にしてるとムカつくし」
「それはそう」
「お前もそうなのか……」
室内練習場の出入り口から雅さんが練習着のまま顔を出した。どうやら素振りをしていたみたいだ。
そのままベンチに座ったので鳴の自主練を見ていくようだ。
「雅さんからも言ってやってくださいよ、あんまり投げ過ぎないようにって」
「そうはいってもあいつは聞かねえだろ」
「そうですけど……」
「ほら投げるよ!」
「はいはい」
20は投げただろうか、というくらいで大体やめる。少し不満げな顔をする鳴を押さえ込むのが大変だ。
「今日は終わり、鳴もストレッチしてなよ」
「えー」
「それぐらいにしとけ、肩壊しちゃたまんねえからな」
「そんな簡単に壊れないし!」
「どうだか」
鳴がストレッチをしている間にボールの片付けをする、片付けを終える頃にはストレッチも終わっている。ちょうどいいタイミングだ。
「よし、帰るよー!」
「ほんと自由な鳴ちゃんだこと」
「気をつけて帰れよ」
「おいらがついてんだから大丈夫だって!」
「お疲れ様でした!」
練習を終えて片付けをすると、鳴の自主練に付き合わされる。側から見れば無理やりかもしれないけれど、割と嫌ではなくむしろ楽しいと感じているから私も相当な野球バカなのだろう。
そう思いながら少し先で待っている鳴のもとへと足を進めた。