※全部樹くん視点

▼爪

「ふふーん!」

鳴さんの機嫌が、すこぶる良い。正直不気味極まりないので誰も触れていない。

「雅さん、鳴さんは……」
「突っ込むな、負けるぞ」
「何に……?」

自分の手を見てはふふん、と笑む。手というか爪……?

「ねえ気にならない?ねえ!」
「どうでもいい」
「同じく」
「聞けよ!!!」

白河さんと神谷さんもしれっと適当な返事をしていてちょっと笑ってしまった。しかしそれが気に食わなかったようで鳴さんが怒り始めた。

「はー……わかったわかった、どうしたんだ鳴」
「さっすが雅さんは分かってる!これ!みて!綺麗でしょ!」
「あ?……ああ、爪保護のマニキュアか?いつもしてんだろ」
「そうだけど!これ梨沙がやってくれたの!」

鳴さんの口から特定の女性の名前が出て珍しいな、と思った。しかし白河さん達の反応からするに知っているようだ。

「なんだ、会いにいった訳?」
「家に行った!」
「迷惑してるでしょ」
「そんなことない!」

神谷さんがへー、と言いながら聞き白河さんが若干顔を顰めながら聞いた。しかし鳴さんがそれに素直に聞き入れるわけもなく。

「梨沙さん……って、誰ですか?」
「お前も見たことあるぞ、青道のマネージャーだ」
「え?青道ですか?」
「小煩い」
「そうか?鳴を扱えるから楽じゃねえか」

記憶の中で青道のマネージャーを探す、がいまいちピンとこなかった。白河さんは小煩い、と言いつつもあまり嫌いではないようでそれ以上は言わなかった。そして神谷さんは純粋な感想だった。

「鳴と同じシニアで投手やってたぞ」
「へえ、すごいですね」
「でしょでしょ!物心ついた時から一緒なんだから!」
「何に対しての対抗心ですか……でも高校は同じじゃなかったんですね」
「……」
「あっ、おい。それ言うとめんどくせえんだ」

みるみるうちに唇が尖り、拗ね始める鳴さん。

「むかつく!」
「痛っ、鳴さん痛いんですけど?!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


▼幼なじみさん

「あっ、すみません」
「いえ、こちらこそ……あ、稲実の」
「え?」

青道と練習試合が組まれ、青道へと来た俺たち。俺は手洗いを借りて戻ろうとしたときに人にぶつかってしまった。

「野球部マネージャーしてます、網代梨沙です」
「…………もしかして、鳴さんの幼なじみさんですか?」
「えっ、なんで知って」
「鳴さんが言いふらしてます。あ、俺は多田野樹、1年です」

言いふらしてる、と伝えれば眉を寄せる網代さん。この人も鳴さんに振り回されてる1人なんだろうな。

「多田野くんは……捕手?」
「え、わかるんですか」
「あてずっぽう!そっかぁ、そしたら鳴の球も受けてる?」
「はい、球よりも鳴さん自体がめんどくさいです」
「わかるー」

想像していた網代さんは常識的だった、鳴さんの幼なじみっていうから身構えていたけれど杞憂だったようだ。

「そういえば試合、スタメン?」
「いえ、雅さんが」
「原田さんっていう壁大きいねー、でも来年は多田野くんがスタメンかな」
「そう、なったらいいなって思いますけど……」
「大丈夫、鳴に言い返せる気合持ってたら選ばれるよ」
「なんですか、それ」

網代さんは話しやすかった、網代さんと話しながらグラウンドへ戻ると不機嫌な鳴さんがこちらを腕を組んで見ていた。

「いーつーきー?!」
「なに、なんかしたの多田野くん」
「よく八つ当たりされます」
「なぁにそれ」
「ちょっと!梨沙から離れて!」
「……樹くんとは仲良しになったんですー!」
「えっ」

前言撤回、網代さんは鳴さんの幼なじみだ。楽しそうに俺と腕を組んだ網代さんを見た鳴さんはそれはもうお怒りだった。

「網代ー、鳴からかうのも程々にしとけよー」
「はいはいー、じゃ、樹くんまたね。勝手に呼んでるけどごめんね!」
「あ、はい。大丈夫です」
「梨沙!あとで話あるんだけど?!」
「めんどくさいからヤダ」

べー、と舌を鳴さんに向ける網代さん。
俺はこれから鳴さんに怒られるのか、とため息を吐いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


▼現役時代

「あれ、鳴さん何見てるんですか」
「……シニアの時の映像」

食堂へ行けば鳴さん、神谷さん、白河さんが3人で集まっていた。
失礼します、と声をかけて座る。シニアの時っていうと、鳴さんのだろうか。

「カルロスと戦ったときのか」
「そーそー、この時の先発誰だっけ?鳴」
「…………梨沙!この時梨沙に先発取られたんだよ!」
「え、これ投げてるの網代さんなんですか」

鳴さんだと思っていたが、投げているのは網代さんらしい。確かに見るとフォームも違う、だけど……。

「……良い、投手じゃないですか?」
「ああ、あいつは凄かったぞ。鳴に隠れてたけどな」
「俺が投げるから!って言ってもシニアの時くらいは投げさせろって煩かったんだよねー」
「牽制球早かったから嫌い」

テレビ越しに映像を写真に収める、シャッター音に鳴さんが首を傾げていた。

「撮ってどうすんの」
「網代さんに送ります、話題のネタに」
「……はー?!?!?!なんで樹が梨沙の連絡先知ってんの!ねえ!」
「特に話してませんよ」
「知ってるってことが問題なの!」

胸ぐらを掴まれてぐわんぐわん揺すられる。連絡先交換しただけじゃないか……。


***


「うわっ、恥ずかしい」
「あ?」
「見て倉持、シニアの時の私」
「……え?投げてんじゃん」
「そう、昨日見てたみたい……ってなんで見てたんだろう」




TOP