※3年

「御幸」
「ん?」
「キャッチボールしよう」
「えー?俺高いよ」
「わかってるよ」

放課後帰ろうとしている御幸を捕まえて無理なお願いを言ってみた。
今はもう2月、最後にとキャッチボールを提案した。

「あれ網代先輩やないですか!」
「おーっと沢村、グローブ貸して」
「え?俺ので?左ですけど……あっ!降谷の持ってくるんで!!!」
「あー、うん、ちょっと御幸とキャッチボールするから」
「……えっ!網代先輩がですか?!」
「そーそー、プロ入りの俺を簡単に誘ってくれるよね」

お互いにグローブを付ける、降谷のグローブはよく動く。ごめん降谷、沢村が悪いから。そういうことにしておく。

「てか網代先輩投げれるんすか」
「ふふん、小中野球やってたわ」
「なんと!」
「おらー、投げるぞー」

パシン、と御幸が投げる球がグローブの中へと吸い込まれる。しばらく無言でやりとりをしていたらいつの間にか沢村はおらず、グラウンドに2人だけになった。

「……急にどうしたよ」
「……んー、御幸はプロになっちゃうなぁって寂しさ」
「なんだそれ」

幼なじみの御幸、私が肩を壊した時には私よりも焦ってくれた御幸、女の子にモテる御幸、そして容赦無く振る御幸。そんな御幸がプロになるのだ。

「御幸ありがとね」
「……何」
「肩壊した時も居てくれて」
「……一大事だったろ?」
「まぁね、でもこうして投げられるくらいには治ってる。御幸のお陰でもあるよ」
「照れくさいこというなよ」
「離れても、友達だから!」

ちょっと強めに投げればバシィン!と御幸のキャッチャーミットの音が鳴る。

「……網代は、前言ってた大学だっけ?」
「ん、まだコースは決め兼ねてるけど」
「そー……」
「何」
「……俺のトレーナー目指してよ」
「は?」

ぽろっ、とボールがグローブから落ちる。御幸は何言ってんだ?と見れば顔を下に向けて眼鏡を上げ直していた。

「柄にもないこと言ってる」
「いや、本気」
「……やだよ、プロのトレーナーとか荷が重い」
「えー」
「まずは球団所属トレーナーを目指すところからだね、……御幸移籍してたりして」
「……ありえ……るかもなぁ」

ようやっと球団所属になりました、ってなったら御幸いませんでしたっていうのは笑うな。
野球トレーナーは圧倒的に男性が多い、けど……女性も慣れない訳ではない。

「資格勉強に忙しくなりそう」
「トレーナーは使える資格多いもんな」
「……そっか、トレーナーかぁ」

ぐにぐに、と手に持ったボールに力を入れる。進路をトレーナーか、教職で悩んでいた。

「まぁぶっちゃけ言うけどさぁ」
「ん?」
「俺のこと側で見てろよ」
「え?なんて?」
「なんでこう言う時聞き取れねーんだよ!」
「ごめんごめん、で?」

御幸がしゃべったと思ったら丁度ぶおん、と風が吹いて聞き取れなかった。小走りで近寄れば拗ねたような表情をしている御幸がいた。

「拗ねてる」
「拗ねてねえ」
「本当に聞こえなかったんだって、何?」
「……好きだよ、お前が」
「は?」
「は?ってお前……」
「いや……だって、女の子に告白されまくって断りまくった御幸くんですよ??」
「なんだよ、悪いかよ」
「……ふふ、はははは!」
「おい!」

笑いが、漏れた。そうか御幸は私のことが好きだったんだ、そして気づいた。私も御幸が好きなんだ。だから、御幸のトレーナーの話の時、普通になろうかなと思っていたのかも知れない。

「私も御幸のこと好きなんだと思う」
「……思う?」
「でも御幸はプロだし、私はただの学生だし隣に立てるまですごく時間かかると思う」
「ん」
「プロだしどえらい美人さんと触れることは多くあると思う、女子アナさんとかね。ほら御幸イケ捕だし」
「あのなぁ」
「お互いに気軽に会うことは難しいと思うし、特に御幸がね。それでも待ってくれるなら私はトレーナーを目指すよ」
「待つよ、つかなぁ……俺、シニアの時から網代のこと気になってたんだからな?!」
「え!嘘、何年目よ」
「4?5?そんくらい」
「やば……」
「おい引くな引くな」

じわり、と体が熱くなる。はは、と笑いを溢すも下げた顔が上げられない。恥ずかしい、降谷のグローブで顔を隠すも臭っ。

「まぁでも、俺は待つだけは嫌だからさ」
「ん……?」
「とりあえず、付き合ってくれない?」
「……なんか、軽いデスネ」
「本気の本気で言ってるからな?」
「はい!よろしくお願いします!」

勢いに任せてボールを直接御幸のグローブへと打ち込んだ。

「腕が持ってかれるわ馬鹿!」
「そんな柔な腕してないでしょ」
「まぁな」


***


「あれ、網代勉強してんの」
「くらもっちーじゃん、そうお勉強してる」
「へー、卒業まではゆっくりしててもいいんじゃねえの?」
「んー……そうも言ってらんなくなっちゃって」
「へえ」
「そーそー、俺のためにね」

にんまりとした笑みを浮かべながら前の席に座る御幸に苦虫を噛んだような表情を浮かべてしまった。

「なんだ?お前らくっついたのか?」
「祝福してくれていいぜ」
「……ヒャハハハハ!!!野球部に報告しとかねーとな!!!!」
「ほんと、やめて倉持」

めちゃくちゃ愉快そうに笑う倉持を見てめちゃくちゃため息を吐いた。



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