「え?沢村?」
「あ?知ってんの?」
「……下の名前は?」
「なんつったっけ?」
「栄純だろ」
「……何組?」
倉持と御幸から後輩の話を聞いていたら途中で私の知ってる人か?と思う人物の名前が上がった。クラスを聞いて休み時間に覗きにいった。他学年の教室行くの勇気あるんだからな。
「あー、ちょっと。沢村くんいる?」
「沢村?……あれ、居ねえや」
「タイミング悪かったかな、いいや。ありがとう」
見渡しても私の思い描いている沢村は居らず、クラスの子を捕まえたが丁度席を外していたようだ。
「おー、どうだった?」
「居なかった、タイミング悪かったな……」
「何、知り合いな訳?」
「んー弟みたいなもんかな、小さな頃から割と遊んでたよ」
「へえ……」
「何」
「いや、網代にも幼なじみってやつがいるんだなぁと」
御幸が生えてもないヒゲを撫でるように顎を撫でてそう呟いた。幼なじみつったって特に何がある訳でもないけど。
***
「おーやってるやってる」
久々に放課後Aグラウンドに足を運べば野球部が練習の真っ盛り。片岡先生がこちらをチラリと見たがお辞儀をしておけば好きにしろ、と言わんばかりに部員に目を戻した。
「んん……わからん」
遠目からじゃよくわからん、あれは伊佐敷先輩だ。よく声が通る。あの捕手は御幸か、あの投手イケメンくんじゃんと眺める。うーん、ここAグラウンドだから1軍だけだし居ないかな……。
「網代」
「うおっ!クリス先輩」
「誰か探しているのか……」
練習着のクリス先輩がいつの間にかフェンス越しにいてビックリした、ちょっと心臓飛び出た。
「あー、沢村栄純ってどれです?」
「……沢村か、ほらあのうるさいのがいるだろう……」
「御幸一也ーーー!!!!俺のボールを!!!!」
「うるせえっての……」
めちゃくちゃうるさいのが居た、しかも御幸に絡んでいた。帽子の影でなかなかわからなかったけど、栄純だ。
「呼ぶか?」
「んー……練習ってどれくらいで休憩入ります?」
「そうだな……あと30分は掛かるな……」
「うーん……じゃあちょっと見ときます」
「そうか、……何か気づいたことがあれば言ってくれ、網代の知識は、為になる」
「あくまで情報程度に……」
クリス先輩にもぺこり、と一礼。手をあげて去っていくクリス先輩のカッコよさってすごいなぁ。背中で語ってるもん。
***
「10分休憩!」
「「はい!」」
どうやら休憩のようだ、うーんここで大声出して栄純呼んでもいいけどとても、目立つ。
「なにずっと見てたんだ?」
「ナイスタイミング御幸!」
キャッチャーミットを外しながら近寄ってきた御幸。あちー、と溢しているが私何も持ってないからね。
「沢村だろ?こっち来いよ」
「んー、じゃあ入り口まで」
「別にお前なら監督もあんま言わねえしな、流石成績上位者」
「グラウンドに入っちゃうと野球したくなるからヤダ」
いーっ、とした顔を見せれば「悪い」とこぼされた、ガチで返されるとちょっと返答に困る。
「おー、偵察か?」
「偵察もなにも私も青道なんですけど?ゾノ」
タオルで顔をがしがしと拭きながらやってきたのはゾノ、そういえばゾノのバッティング練習見ててちょっと気になったことがあった。
「ゾノ、バットのグリップ巻き直したほうがいいよ」
「お?なんか変だなと思ってたんや、流石やな」
「一般人の目だから信じないで」
「いや、クリス先輩も網代の目からの情報は信じてるしな、誇れ」
「御幸から言われるのむかつかない?」
「わかるで」
「おい」
入り口について砂埃が舞うグラウンドを眺める。フェンス越しじゃなく、こうして見るのは、やっぱ来るものがあるなぁ。
「沢村呼んでくるから」
「いや、いいよ、御幸も休憩でしょ」
「だけど端っこだぞ?あいつ」
「任せて、ちょっと大声出すけど」
「いけるんか?」
「裏返るかも」
じゃ遠慮なく、とカチッ、と横で足の装備を外している御幸とほんまかぁ?という目で見てくるゾノ。
2人を横目に息を吸う、久々に大声を出すぞー。
「沢村栄純ーー!!!!!こっちに来いーーー!!!!!!」
「ブハッ」
「うおお、なんでそんな大声出んねん!」
グラウンド中に響き渡る声、めちゃくちゃ視線を浴びたがすいませんとペコペコしといた。
「え?!!?!?!なんすか!!!!!!」
「返答もでけーなおい!」
「走ってくる姿まるで犬やな」
ゾノは柔軟をしにここを離れたが入れ替わりで栄純が走って、止まった。
「あ……あ?!!??!?!姉ちゃんじゃん!!!!!!」
「誰が栄純の姉ちゃんじゃ!」
「ええっ!?どうしてここに!?」
「おい先輩やぞ敬語つかえや」
「態度でけー」
ボソリと隣から聞こえた言葉に軽い蹴り、人を指差すわ大声出すわ癖のある後輩ですみませんねえ。
「久しぶりじゃん!!!うわー!!!!」
「うわっ、くっつくな栄純お前どろんこってことわかってる?!」
「えっ、姉ちゃん小さくね?」
「お前がでかくなったんだアホ!!!!」
べたり、とくっつかれたが栄純の練習着がもろに私の顔に当たる。いや、泥!泥がつくんですけど?!砂!!!
「休憩あと5分でーす!」
目の前に手が降ってくる、その手が栄純を押しやった。
「はいはいそんくらいな、汚れちゃうだろ?梨沙ちゃんが」
「は?」
「そんな……姉ちゃんもしかしてこの御幸一也と……?」
「ちょっと見てよ御幸この鳥肌、ちゃん付けしないで。栄純も変なこと考えないで」
絶対こいつ内心楽しくてやってるでしょ、という目を送る。離れた隙に髪や顔についた砂を払う。
「栄純」
「ん!?」
「私も青道だから、応援する。今は死に物狂いで練習頑張れ!御幸に負けんな!」
栄純の胸元へと拳を当てる、ニッと笑えば栄純は帽子を下げた。
「……俺、姉ちゃんの分まで投げるから!」
「そんな任務与えてないからいいよ、別に」
「そんなわけで!応援よろしくおねがいしやす!!!!!!」
「うるさい」
集まりつつあるチームメイトの方へと走っていく栄純、そしてまた大声を出した。
「絶対エースになってやるから!!!!!」
よくもまあ先輩がたくさんいる中叫べるものだ、エースになる、なんて。そんな栄純が眩しくて、大きく手を降った。
「お前の肩、あいつも知ってるんだな」
「言わないでおいたはずなんだけど田舎の情報網ははやくてね」
「……そ。まぁまだまだ俺はあいつにまけねーけどな!」
スポーツサングラスを上にずらして横目でこちらを見て笑う御幸。栄純みてるか、このイケ捕を超えていくんだぞ。イケ投になるんだぞ。
「…………落ちねーか」
「?何が」
「こっちの話ー」
***
あの後大声で騒がしてしまったお詫びに人数分のアイスを買って寮に預けてきた。片岡先生にはお詫びにアイス買ってきたんでみんなで食べてくださいと言ったら「いくらだ」と帰ってきたので逃げてきた。お詫びにならんわ。