※幼なじみ

『頼む頼む!!!早く来てくれって!!!!!』
「うるさいなぁ、今向かってるよ」

誰だよ、男子寮はあぶねえから近づくな、とか言ってたキャッチャーはよぉ!
自転車で10分ちんたら漕いでいけば男子寮へ到着、全く私をなんだと思ってるんだ。

「もっちー、御幸いる?」
「うおっ、なんでお前居るんだよ」
「御幸に呼び出された」
「部屋じゃねえの?さっきからうるせえんだよな」

今から風呂らしく風呂セットを持っていた倉持に声をかけた。倉持が指差した2階の御幸の部屋らしいところへと近づいていく。

「ナイス!!!!!ほら!!!!」
「うわっ、びっくりした」
「早く!頼むって!!!」

バン!と飛び出てきた御幸にビクッとしつつ部屋へと入る。どうやら助っ人に降谷君を呼んだらしいがそいつを見たことがないらしく戦力外にされていた。

「居ないじゃん」
「居るんだって……あ!!!そこ!」
「叩くものは?これでいいか」
「それ俺のバット!やめろ!!!紙ならやる!!!」
「御幸先輩がこんなに焦ってるの初めて見ました」

サッ、と壁に現れた黒いのを御幸からもらった紙の束で一撃、二撃、三撃。

「ちょっと念入りにしておこう」

追加で2回叩いてふう、とすればドン引きしている御幸、とおお……と見ている降谷君。

「はい」
「やめろ!潰したものがついた紙寄越すな捨てろ!潰れた奴もだ!」
「うるせえぞ御幸、また網代呼んだのか」

開け放たれた扉からひょい、と顔を覗かせた伊佐敷先輩。風呂上りらしく髪は後ろに無造作に流されていた。

「ゴキブリがーってうるさかったんで」
「他のやつ呼べばいいじゃねえか」
「網代がいるからいいだろ、って手伝ってくれないんす」

ティッシュでゴキブリを包みながら御幸の部屋に捨てようとしたら「外に捨てろマジで」と言われためんどくせえ……と思いながらギュッと潰した。

「マジでゴキブリのために呼び出す男どうにかしてくれません?」
「お前もよく来るよな」
「一回スルーしようとしたら着信履歴がえげつなくなりまして」
「御幸お前……」

1階に降りればほかほかの栄純君が居た。倉持はまだ風呂らしい。
2階の外にあったゴミ箱にぽいっ、と奴が包まれたものを捨て栄純君の元へ歩いて行った。

「栄純君じゃんー!」
「あれ!?網代先輩じゃないすか!ちわす!」
「風呂上り?」
「はい!てかあれ?なんで網代先輩が?」
「あんたの捕手に呼ばれた、ゴキブリ退治に」
「え?素手すか?」
「ちげーわバカ」

ゴミを持っていなかった左手でぺこん、と頭を叩く。ちょっと髪の毛はしっとりしていた。

「栄純君、髪の毛ちゃんと乾かしなよ」
「了解しやした!」
「何沢村ナンパしてんだよ!」

後ろからオラついた歩き方でやってきたのは髪の毛びちゃびちゃの倉持、一緒にゾノも……ゾノは髪の毛が濡れてるのかちょっとわからないけど。

「栄純君可愛くて好きなんだよね」
「えっ……先輩俺のこと……」
「かわいいかわいい、愛玩したいね」
「ヒャハハ!沢村が犬みたいになってやがるぜ」
「よかったー!俺、先輩に怒ら」
「沢村ーーー?何油売ってんだーー???」

よしよし……と栄純君の頭を撫でていると2階から御幸がどすどす、と降りてきた。さっきまで縮こまってたやつはどこいったんだよ!

「網代、送る」
「いや別にチャリで10分だし」
「いいから」
「ええ……じゃあまたね」
「っス!」
「またなー」

チャリをカラカラ、と引いて歩く。隣にはなぜかさっきから無言の御幸、なんか不気味で怖い、ちらりと見てもまっすぐ前を見てるだけ。怖!

「みゆ……」
「そういえばそれ、直んねえの」
「……それ?」
「前は名前呼びだったろ」

首後ろをぽり、と掻きながら呟く御幸。あー……と歯切れの悪い言葉を紡いで黙る、無の空間になってしまった。

「だってモテるじゃん?御幸」
「そりゃあね」
「否定しないのマジでムカつくな……中学の時呼び出しとか食らってんだよ、私。変な火種は作りたくない」
「は?聞いてないんだけど」
「言ってないから」
「……でもこうやって呼び出せば来てくれるわけだ」
「学校関係ないからね、いいかなって」

カラカラと自転車のタイヤが回る音が響く。中学の時は私がちょっとイラついて呼び出した子に当たってしまった。そしたら次の日から村八分みたいなもんだ、女の子って怖いね。私も女だけど。

「ふーん……でも俺は別に呼んでいいだろ、梨沙って」

久々に御幸から私の名前を聞いた。バクバクと心臓がうるさくなる。
御幸のことは何にも思ってない、訳がない。小学校からずっと一緒なのも理由がある、でもこれは言えば終わりなのだ。

「いやだ、絶対揶揄われる」
「えー?」
「いいから、いつも通り御幸、網代でいいの。わかった?!」
「はいはい、わかったよ」
「家も着いたからいいよ、ありがと」
「ん、また明日な」

後ろ姿のまま手を振る御幸にべー、と舌を出しておいた。
あんたは何も考えず野球をしてればいいの。



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