青道と試合をした後。先輩らの言葉に涙が滲んだ、3年の先輩たちはこれで引退、頑張ったのだ私たちは。

「網代」
「ッ、はい」
「雷市を、こいつらを鍛えてやってくれよ」
「……はい、限界までやってみせます」
「怖えよ!」

腫れた目を冷やそうと水道に向かっている途中、出会ってしまった。

「……あれ、お前……」

慌てて被ってた帽子を下げるが時すでに遅し、目が合った青道の御幸はこちらに近づいていた。

「網代じゃねえか!お前どこ行ったんだよ!」
「がー!めんどくさいのに捕まった!」
「めんどくさいってなんだよ」
「めんどくさいでしょーが!!」
「……え?もしかしてお前、薬師?」
「何、文句あるの」
「名門じゃねーのかよ!スカウト来てたろ!」
「監督に恩があるの!」

ガッ、と肩を組んできた御幸にうげえ、と嫌な顔をする。しかしこの男嫌な顔をしてもびくともしないのだ。
御幸の後ろにいたチームメイトはぽかん、としているしそりゃそうだろう。

「ほら!帰るなら帰って」
「あたりキツイなおい!」
「御幸、お前流石に他校をナンパは……」
「ちげえよ、なんつーかシニアの時のライバル?ほらこいつ鳴と同じシニアだった網代だよ」
「網代?聞いたことある、投手だよな?」

うわー、わらわらと集まって来た青道の人に頭がクラクラする。抜け出さなきゃよかった、こんなところで捕まるなら……!!!

「マネしてんの?」
「ほぼコーチ、うちの選手は監督と私が育てた」
「えげつねえな……」
「てかどいて、水道いくんだから」
「んー?……あ、泣いたろ?」
「デリカシーに欠ける、って言われない?」

帽子を御幸にあげられ目元が顕になる、ふい、と視線を逸らすもこいつはよく見てるんだ。

「網代」
「何?!」
「キレんなよ、連絡先教えろよ」
「えっ、嫌……御幸悪用しそう」
「分かる」
「倉持……しねえから」
「……鳴に言わないなら」
「もしかして鳴にも薬師に行ったこと言ってねえの」
「うん、キレられそうだから」

御幸の名前が登録された携帯をパタン、と閉じる。御幸の表情を見る限り鳴からは何か言われてるんだろう、鳴からのどこに行ったの、というメールには返事しないことにしている。

「……あー、悪いけどうちのマネ連れ帰っていいっすか?」

後ろからフッ、とやって来たのは真田だった。正直助かった。ありがとう、と小声で言うと絡まれてんなよ……と小言が帰って来た。

「変なのに捕まってた、ありがと真田」
「おいおい変なのって……」
「……御幸、勝ってよ。私たちの分も」
「……ん」

拳をこつん、と合わせる。そのまま青道は去っていった。

「……知り合いな訳?」
「シニア時代にね、薬師に行ったこと言ってなかったから捕まった」
「なるほどね、そろそろ出るっぽいけどどうすんの」
「時間とられた……戻る」

帰り、左右を雷市と真田に挟まれ身動きが取れなくなった。しかも2人とも爆睡、ふざけるな思うところがあるんじゃないのか。そして肩に頭を預けるな!


***


「おおー、記者が増えてら」
「主に雷市だよなー」
「でも雷市シャイだから答えらんないよね」
「そこだよな」

練習するグラウンドの傍に大人の人達が数人、首から名札を下げているから記者の人だと分かる。

「……あれ?梨沙ちゃん?」
「え?」
「私!覚えてない?シニア時代に取材したんだけど……」
「……片山さん!?お久しぶりです!」

1人の女性記者が近づいて来たかと思えば何回か取材をしてくれていた片山さんだった。

「梨沙ちゃん薬師に行ったのね」
「あー、はい。実は肩をちょっと壊して」
「ええ?!……話聞かせてもらってもいい?少しだけ記事に……ダメ?」
「変な書き方しないならいいですよ」
「本当!よかったわぁ、轟雷市くん取材に来たんだけれど話を聞こうと思ったらしゃべらなくなっちゃって……」
「あー、雷市はそうなんです、仕方ないんですよ」

監督にすみません、とすこし時間をもらい片山さんと話をした。

「どうして薬師に?スカウトたくさんあったんじゃない?」
「あー、まぁいろんなところから頂きました。でも今の監督、轟雷蔵さんは恩師でもありまして」
「あらそうなの?」
「小学生の時に投手向きっていうの、雷蔵さんが見抜いてくれたんですよ」
「恩返し、もあるのかしら?」
「……そうかもしれないです、肩を壊したのもあってプレイヤーにはなれないので貢献しようかと」

ぽつぽつ話す、話すことによって自分の中に落ち着いていったような気がした。

「そっか、よし!話を変えましょう、梨沙ちゃんから見た薬師のチームはどんなかんじ?」
「手がめっちゃ掛かります、ご存知の通り甲子園には行ったことない無名の高校ですし、雷蔵さんと私でめちゃくちゃ扱いてます」
「練習キツそうね!」
「うちのエースの真田もヒーヒー言ってますよ」

顔をグラウンドに向ければ雷蔵さんの地獄のノックが始まっていた、雷市はバンザイするし笑いが漏れた。

「名門じゃなく、ここ薬師に来られてよかった?」
「……はい、とても!」


***


まだ日が昇っていない早朝、携帯が着信を知らせていた。寝ぼけたまま画面を見て固まった、成宮鳴だ。

「…………も、もしもし」
『お前薬師行ったのか』
「……こんな朝から言うこと?まだ寝れるから切るわ」
『おいふざけんな!』
「そっちだって朝練あるでしょ、寝ときなよちょっとでも」
『あー!くそ!また電話するからな!出ろよ!』

二度寝、起きて夢だったか?と着信履歴を見て夢じゃないことを確認した。めんどくさいなぁもう。

「おはよ」
「おはよー」
「なんか疲れてねえか?」
「朝から鳴の電話取っちゃった」
「しんどそうだな」

練習着に着替え終わってストレッチをしている真田とそんな話をする、携帯は早々にマナーモード。出れなかったとしても気づかなかった、で済むからだ。

「んで今日は?」
「いつも通り、まずはグラウンド10周の後にラダー……そのあとは悩んでるね、ちょっと監督に聞くわ」
「ん、よし。んじゃま走るかぁ」


***


昼ごはんを食べたあとトイレに向かっていたら鳴からの着信、はぁあああ……とため息を吐きながら出た。

「はいはいー」
『何その返事』
「今トイレ行こうとしてたんだよ」
『我慢してよね』
「辛いなぁ」
『んで?!なんで薬師にいったの』
「薬師の監督は恩師なの」
『……ふーん』
「そういえばどこから聞いた?御幸?」
『は?一也も知ってるわけ?……記事になってたけど』
「御幸は試合した時に普通にバレたけど、会っちゃったし」
『はーーー??一也が先なのむかつくんだけど』
「なにそれ」

フッ、と笑いが漏れた。久々に鳴と話して笑った気がする。

『……なぁ、もう投げねえの』
「投げたいよ」
『じゃあ』
「でも、7回も投げられない。せめて5回かもしれない」
『……そ』
「まぁそれでいいよ、いつかちゃんと投げて、終わりたい」
『ふーん』
「これから真田とキャッチボールするから切るわ、じゃあね」
『……は?!ちょ』

丁度クラスから出て来た真田を見てそう言えば電話越しに声がでかくなった。鳴が何か言う前に切って仕舞えばこっちのものだ。

「……俺とキャッチボールすんの?」
「嘘も方便」
「ハハハ、俺良い様に使われてんな」
「光栄に思えよー」



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