「梨沙さん!やだ、死なないでよ!!梨沙さん!」
「杉元、いいから。行きなさい」

もう間に合わない、視界がぼやけてくる。腹部に銃弾を2カ所、肩にも足にも受けて血を流しすぎた。
顔に液体が垂れてくる、多分杉元の涙だろう。

「杉元」
「嫌だ、助かるから、梨沙さんは死なないだろ、なあ!」

ぐらり、と車体が大きく揺れる。その瞬間に最後の力を振り絞り杉元を突き放つ。

「上官命令だ、アシリパを守れ杉元!」
「ッ!」

もう目が見えない、また会おうな杉元。


***


ハッ、と目を見開く。ゆっくりと周りを見渡して浅く息を吐く。
ここは、私の部屋だ。明治に行く前の。

「今、死んだよな?」

心臓が煩い、戦争に参加していたからと言って死んだ経験はないのでなんだか吐きそうだ。
しかしながら、長い夢だったのだろうか、顔を洗いがてら風呂に入ろう、寝汗がひどい。

「……夢じゃない」

服を脱いで自分の体を見て目を見開く。腹部に銃創、切り傷も見える。記憶上、この体にはなかったのに。

「……まさか、経験したから、そういう事実になったって、こと?」

カーッ、嫁入り前に前世だかわかんないけど業を背負って傷つけちまった。
ま、いいか。と切り替えてうん年振りに携帯を触る、どうやら私は昼寝をして、明治に居たらしい。数時間しか経っていない。
記憶をほじり返すかのように画像を見てはた、と気づく。

「杉元……?」


***


ひく、と顔がひきつる。画像には杉元、白石、アシリパ、などなど今さっきまで死ぬ気で生きていた人物たちと仲良く写真を撮っていた。
やっっっと思い出した、友人にも仕事の同僚にも、上司にも、見知った顔が多い。そして思い出してないのが、私だけということも。

「……出るかな」

なんの前触れもなく杉元に電話を掛ける。出なければそれでいい、急ぐことでもない。

『どうしたの』
「……杉元だなぁ」
『えっ、なになに。何か用じゃないの?』
「杉元、待たせてごめんな。思い出したよ」

ガタガタッ、と電話の向こう側で物音がする。えっ?!ほんと!?と遠くから聞こえるが携帯をどこに投げた。

「もし暇だったら飯でもいかない?」
『行く、ていうか今からそっち行く。待ってて』

低めの、男性の声の杉元が愛しいものに話しかけるようなトーンで言葉を発する。切れた通話画面を見つめるしかなかった。

数十分もすればインターホンが鳴る。早いな、と苦笑いしながら相手が誰かを確認して扉を開ける。

「なんで泣きそうな顔をしてるの」
「……なんか傷増えてる」
「それは深い話があるんだよ、とりあえず入りな」

きゅ、と指を握られる。少しかさついた杉元の手のひらを見つめながら苦笑いをしておいた。

「えー、とつまり梨沙さんは昼寝の間に明治を身をもって体験した、と」
「うんうん」
「の際になぜか傷も持ってきてしまったと……」
「ねー」
「梨沙さんに明治の記憶があるのは嬉しい、だけど傷は……女の子なんだから」

さり、と腕に見える刀疵を撫でられる。そういう杉元も顔の勇ましい傷はそのままだし人のこと言えないではないか。

「いいよ、別に。傷を気にするような奴と結婚しないし」
「俺とするもんね」
「……ん?」
「梨沙さん覚えてる?俺、昨日梨沙さんに告白したんだよ」
「何?」
「俺としては記憶が無くても、梨沙さんと一緒にいたかったからなんだけど……記憶があるなら、尚更」

撫でていた手が絡まれる、私の視線はテーブルの上に乗った手に注がれており杉元の顔が見えない、否。見れないのだ。

「ね、梨沙さん。俺怒ってるんだよね、なんで最後俺を庇ったんだよ」
「うーん」
「本当はあのまま、梨沙さんと生きて一緒におじいちゃん、おばあちゃんになりたかったんだけど」
「わかった!わかった!もういい!小っ恥ずかしい!やめろ!」
「記憶が出来て、一番に俺に連絡くれたのも嬉しい」
「ッ」

「俺、今度こそこの手離さないから」



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