目蓋を閉じると昨日の様に思い浮かべられる光景。血の匂い、舞う粉塵、火薬の香り。
目の前に飛び込んでくる、黒髪。
***
敵が多かった。副長は1人で庄内へ、僕は梨沙ちゃんと共に。
分かってた、負け戦だって。それでも僕は、新撰組だった。刀を握らずには居られなかった。
「くそっ、諦めが悪い……!」
相手さんも粘り強くて正直諦めろよ!という気持ちが出ていた。銃声が響く、当たらないにしろ正直危ない、相手さんもこちらも殺しにかかっているのだから。
ちらりと横目で梨沙ちゃんを見れば結構まずいんじゃないの、そもそも梨沙ちゃんはついてくるべきじゃなかったんだ。あの時置いてくればよかったんだ。
「ッまずった!」
刀を飛ばされた、もう一本あるとはいえ抜刀が間に合わん。すぐ足元に落ちてるなんでもいい、刀を手にとって反撃するしかない、攻撃は受けるだろう。
「貰った!」
「ッ」
刀を手に取った、がこちらに向かっている銃口は変わらない。大きな音がし、煙が出る。ああ、僕もここまでか、と走馬灯が流れる前に、目を見開いた。
「ッぐ……!」
「なんだ、こい……うわっ!!!!」
黒髪が、梨沙ちゃんが目の前に飛び込んできた。そのまま銃を打った相手は梨沙ちゃんに斬られ地に伏した。
背中からも見える血、どんどん着物を染め上げていく。
「梨沙!!!!」
「っはは、……一さん、ご無事ですか」
「ああ、ああ!無事だ!だから、だから!」
「大丈夫です、致命傷です……から」
「駄目じゃねえか!!!!しゃべんな!!!!ああ、クソ!!!!」
銃弾は貫通していない、つまり梨沙の中に残っているのだ。止めどなく血は着物を染め上げていく。たとえ止血できたとしてもすぐに銃弾を取り除かなければ体力を奪い、死ぬ。
「……はじめさん、もういいですから、」
「よくねえよ!くそ……くそ!!」
手持ちの紐で患部を縛るも血が滲む。焦燥感に狩られる、頼む、頼む。神頼みなんかあまりしねえけど、梨沙は連れて行かないでくれ。お願いだ。
「はじめさん」
グッ、と襟元を握られる。息を飲んだ、もう致死量の血は出ただろうか、梨沙の顔色はいつもの健康的な色なんて忘れた様な、色になっていた。
「私は、新撰組で居られて、幸せでした」
「……梨沙、」
「お願いです、はじめさん……幸せになってください」
「俺は、俺は梨沙が」
「大丈夫です、はじめさん。はじめさんは、無敵なんですから」
ぬるりとした感触と共に梨沙の手が俺の頬に触れる。もう指先もひんやりしていた。俺が言いかけたことを察知してか言わせてくれなかった梨沙。
「何が、無敵だよ……人一人守れねえんじゃ、意味ねえだろ……」
「私ははじめさんが、結婚して、幸せな家庭を築ける様に、祈ってますから」
「…………」
視界が滲みまくる、こんなに涙を流しているのはいつぶりか。
「梨沙」
「はじめさん、おさきに、いきますね」
「……はええよ、馬鹿野郎……!!!」
口からも血を流し、涙を流しながら目蓋を閉じる梨沙。頬に触れていた手は力を無くして地面に落ちる。俺はそっと自分の手を梨沙の胸に当てる、意識を失ったあとも脈動していた心臓は、動きを感じられなくなっていた。
「…………梨沙」
梨沙が握っていた刀を手に取り、立ち上がる。俺が、ここでくたばってたまるか。
***
「一さん?おーい」
「……あれ、梨沙ちゃん」
「寝てたんですか?サーヴァントは寝ないのに」
「……いんや、ちょっと思い出に浸ってただけなのよ、気にしないで」
「そうでしたか、そうそうマスターからで次の任務私と一さんみたいですよ!作戦を伝えたいそうなのでマスターの部屋に、とのことです!」
「ほいじゃま、行きますか。……梨沙ちゃん立ち上がらせてくれる?」
「なんで変なところで甘えるんですか!もー」
梨沙ちゃんの手が僕の手に触れる。今度は暖かかった、しっかり僕も握り返した、今度はこぼさない様に。