夢を見た。
広大な土地で雷に打たれる夢、前に立つ男性は誰かも顔が分からないけど、酷く悔いたような顔をしていた。


***


「……なんだか騒がしい」

自室で仮眠を取っていたものの、なんだか周りがザワついて五月蝿い。
いつもならば自室に籠り、フルで仮眠を取って仕事に戻るというのに今日は何故か、自室から出た。

「今から胃が痛いです」
「話を通してきた方がいいか?」

歩みを進めると更にガヤガヤと音が大きくなるエリアがある、食堂だ。
その近くの廊下で話をしているサーヴァント、もといアルジュナとラーマが居た。

「すまない、今食堂は酒盛りをしていてな」
「酒盛り、ですか」
「興味があるなら入っていいぞ?」
「いつものメンバーでしょうか?」
「あー……いや……」
「……?」
「……私の、父です」
「……アルジュナさんの、お父さん……えっ?いらっしゃいませんでしたよね」
「なんというか、神は自由だからな……」

ひょこ、と興味で覗いたのが運の尽き。
サーヴァントが集まる中悠々と中心で酒を飲む神、見覚えは無かったはずだった。

「………………」
「どうした?」
「あれは、インドラか」
「……?そう、ですが……」

インドラの顔がこちらを向く。目と目が合う。
私はさる事ながら、インドラの目もどんどん見開かれていく。
指先から体温が、下がっていくのがわかる。
パキ、パキ……。

「リサ、貴方体温が」
「アルジュナ、これは体温ではないぞ!どうした!」
「思い、出してしまった」

インドラが立ち上がる、それを見た瞬間踵を返して自室へと一直線に逃げた。

「待て!」

後ろから聞き覚えのない、しかし酷く懐かしい声が聞こえてきていたが聞こえなかったフリをした。

自室の気温が下がる、自分の手を見れば霜が張っているのが分かる。

「……」
『もしもし!リサ!急に君のバイタルが変動して』
「……ダ・ヴィンチちゃん、あとでしっかり話すから、今は整理させて欲しい」
『……絶対だからね。現状人ではありえない体温をしているけれど、大丈夫なんだね?』
「大丈夫」
『そう、あとでモニタールームに来てね』
「分かった、ごめんねダ・ヴィンチちゃん」

室内に緊急でモニターが映る、酷く心配そうな顔をしていたダ・ヴィンチちゃんには悪いけれど、少し、時間が欲しい。この過去の記憶の整理を。


***


『……酒癖も悪ければ女癖も悪いと来た、何か良いところはないの?』
『存在そのものだろ』
『ほざいてんなぁ』
『おい』

『暑い、冷やせ』
『その雷で雨でも振らせれば?』
『お前が氷出した方が早いだろ』

『お前、親を知りたいとは思わないのか』
『思わないね。神なんてろくでもないから』
『俺の前で言うのか、それを』
『インドラ様寛大〜』
『二度はないぞ』

『インドラ』
『……』
『半神半人は神の側には居れない』
『俺が決めることだ』
『インドラの威厳のためだよ』
『……うるせえ』


***


目が覚める、どうやら意識を失うように寝ていたらしい。
先程から30分程しか経っていない。
……うん、軽く整理はついた。と時刻と一緒に備えられている室温を見て固まった。氷点下だった。

「遅くなりました」
「うぉぉい!大丈夫かよ!」
「大丈夫……ではあるんですけど……」
「……待って、本当にリサかい?」
「あー……その点に関して、ちょっとお話が。ダ・ヴィンチちゃんと……所長、よろしいですか」
「お、おお?」

別室に2人とともに移動をする。
ダ・ヴィンチは神妙な面持ちでこちらを見ているから私の変化に気づいているだろう。

「今から突拍子も無い事を言うんですが、とりあえず聞いて頂きたく」
「……うん、分かったよ。とりあえず聞こう」
「端的に言えば私は転生体です。……転生している、と思い出したのはつい先程でダ・ヴィンチちゃんがバイタルで気づいてくれた時でもあります」
「お、おお……」
「ダ・ヴィンチちゃんならなんとなく分かるかもしれないんですけど、人間……でもあり」
「…………神様、だね?」
「はい。所謂半神半人というやつです。でも歴史に名を残した神でもなく、人でも無い。ただ生きて死んだ半神半人です」
「……」
「私が生きていたのは、インド神話の時代です」
「!そうか、……リサ、インドラに会ったね?」
「はい」
「前の人生でとても深く関わりのあった人物なんだね?」
「……はい、端的に言えば私はインドラに殺されました。でもそれは私が望んた事であり、彼が悔いいる事ではありません」
「……インドの神様が来たかと思えば職員が神だった件について……」
「神じゃないです」

そうか、と理解を深めるダ・ヴィンチちゃんに所々解説を求める所長。

「あとで精密検査をしよう。元は人間から半神半人になったんだ、負担がないこともない」
「はい。あと両親が誰かは知らないのですが、神側の親の血で私は氷、雪……などを得意とするためその……体温が著しく下がってて……」
「道理でここ少し冷えると思ったよ、触っても?」
「はい、所長もどうぞ」
「凍らない?」
「凍りません」

ぴと、と手のひらに手が触れる。所長は「冷たい!氷じゃないか!」と飛び跳ねダ・ヴィンチちゃんは「人間ならば死んでる温度だね」と冷静に解析していた。

「ありがとう、急な体及び脳の変化に疲れただろう。……ちなみになんだけれど、インドラとは会って話がしたいかい?」
「……いいえ。会わなければそれで、良いです」
「そうかい。リサ、君はそのまま生活して行きたいかい」
「……出来れば、神性くらいは抑えたいです。……その、分かりやすいでしょう?」
「ふふ、そうだね。ということで精密検査にレッツゴー!」


***


「血が過冷却するの初めて見たかもしれんなぁ」
「自分の血が凍るの面白かったです」
「他人事だなぁ……」

すっかり数時間経ってしまったが精密検査が終わった。
ダ・ヴィンチちゃんによれば擬似サーヴァント?仮サーヴァント?でも肉体はサーヴァントのように霊体ではなく存在している。うーん。
と悩ませてしまったが、遥かに力を持ってしまったのは確かだろう。
明日には神性を抑える、もとい隠せるアイテムを作ると意気込んでいた。

「とりあえず、今日はこれで終わり。明日またよろしくね」
「はい、お手数をお掛けします」
「なんのなんの!これでね、マスター達の補佐に更に入れるでしょ?なんてね」
「……ふふ、はは!そうかもしれませんね」

事情をサラッとマスターの立香達に話した。
すんなり受け入れた上に「雪だるま作って!」「私は女王じゃないよ」とやり取りしたのを思い出す。作ったけど。

「……なんとも珍妙な存在よのぉ」

首から立香達に指示されて看板のようなものを提げている、ヴリトラ。何を思ってか愉快な顔をしながらこちらに近づいてきた。

「一介の従事者かと思えばほう、旧いな。お前」
「……ヴリトラ」
「うんうん、冷こい。いい温度だ」
「蛇は変温動物だからあまり触れないほうがいいよ」
「わえをそこいらの蛇と同じにするでない」
「蛇であり竜でしょう……」
「全てをひっくるめてわえじゃ」

き、ひ、ひ。と笑うヴリトラ。
ヴリトラとは会ったことは無い、が存在していた時代はさほど違いがない。しかし私の方が前に生き、死んで行った。それだけ。

「ヒマヴァットのような、ヴァルナのような気もするのう」
「……あまり興味は無いです、私は私なので」
「きひ、それもそうじゃな」

尾を私の胴体に絡めどこかへ歩みを進めるヴリトラ。

「どこに?」
「食堂じゃが」
「嫌です!部屋に!戻ります!」
「さてはインドラと好い仲か?」
「それを言ったら二度と言葉を紡がせないように凍らす」
「もう霜張っとるんじゃがな」
「……合わせる顔が」
「それを判断するのはお前では無い、そうじゃろう?」

ぐ、と言葉を紡げなくなる。
多分ヴリトラは単純に会わせたら面白そうだから、と会わせようとしている。
その瞬間。

「ヴリトラ、その女を離せ」

「……嫌だと言うたらどうする?」
「力づくだ」

不機嫌、苛立ち。隠すこともせずヴリトラと相対する神、インドラ。
バチリと稲光が走る間際に氷を飛ばして相殺する。氷は瞬く間に、爆ぜた。

「ヴリトラ、離して」
「お、おお……」
「明日も仕事だから帰る、カルデアでの禁則事項は」
「…………私闘をするのじゃったら、レイシフト」
「藤丸と立香に迷惑かけないこと」

やけに頭が冷えて冷静になる。口が回る。
インドラの方を見ずにヴリトラに小言を言い踵を返す。今日はなんだか、疲れてしまった。


***


不意に気配を感じて意識が浮上する。
あの後ベッドへと倒れ込み、意識が落ちてしまったのだろうと推測する。

「……インドラ?」

体を起こして声を投げかけるも姿は見えない。がしかしこの気配には覚えがあった。
パチ、と静電気が爆ぜるように一瞬光ったかと思えば私を覗き込むかのようなインドラが姿を見せた。

「何をもって俺の名を呼ぶ」
「……そこに居ると思ったから」
「ハッ、俺から逃げておいてよく言う」

ぽすん、と再び体を倒す。深いため息を付く。
私がインドラから逃げていても、こうして霊体化して自室に入られたんじゃ意味がないに等しい。

「……生きているのだな、お前は」
「お陰様で。……インドラは後悔してるの」
「神は後悔などせん。……が、まぁそうだな……お前のことは忘れたことはなかった」

ギシ、と私が横になるベッドに腰をかけるインドラ。
ぽつりと呟かれた言葉は目を見開くには十分で。

「……インドラが?」
「なんだ、悪いのか」
「……いや、インドラが生きていた歴史の中ではつかの間の一瞬の出来事だったし……ヴリトラハンになる前だし」
「お前は俺の友であろう」
「……そう、だね。そうだよ、半神半人のね」
「お前」
「嘘嘘ごめん、ピリつかないで」
「…………今までのお前の話を聞かせろ」
「え?」
「酒のつまみにしてやる」

ええ、と内心めんどくさいなと思った。がインドラが少し嬉しそうに言うものだから……仕方ないかと体を起こして口を開いた。つくづく私は、インドラに甘いのかもしれない。

ピピ……と電子音が鳴る。ハッとして時計を見れば起きる時間だ。

「やばい!シャワーもしてない!仕事!」
「あぁ、ここの職員だったな」
「インドラ寝てていいから!シャワーしてくる!」
「忙しないな、お前は」

インドラに付き合って話をしていたらほぼ完徹。慌ててシャワーをしてバタバタと動く私を横目に酒を飲むインドラに少しイラッとしたが神は偉大なのでな……。

「おはようございます」
「おはよう!早速だけれど神性を抑えるアイテムを作ろうか!」
「何故そのような手間をかける?」
「わかる人にはわかっちゃうからね、……ってはぁ……すみません、ダ・ヴィンチちゃん」
「……ふふ!仲が良いようで何よりだよ!」

自室に置いてきたはずのインドラは付いてきていた。
私の背後に立ち意味がわからん、と言った表情をしたインドラを見上げて盛大なため息を吐いた。
これからの生活、どうなるんでしょうか。



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