◆たまたまの逢瀬
「梨沙ちゃん、おはよう」
「おはよう!由理ちゃん」
隣の席の由理ちゃん。華道部に所属している様だが剣道部みたいに朝練はないので大体私よりも後に来る。
……そして、以前は主従関係出会った私たち。前の生の因果か由理ちゃんを慕う人はとても、多い。
「朝練ほんと大変だね」
「いやほんとに……顧問がほら、顧問だし」
「鬼だもんね……でも副顧問はさ」
「あれは論外」
「返答早くて笑っちゃう」
顧問の土方先生はめちゃくちゃ厳しい。そりゃもう鬼の副長なんて言われてる人が優しくなるわけもなく。副顧問の斎藤先生は、……まぁ、甘い。私に対して。
そんな話をしていると担任がやってきてHRが始まる。1日の開始だ。
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「あーまって教科書……あった!」
「移動教室めんどくさいよねー、行こうか」
「ありがとう、由理ちゃん」
廊下に出ていた由理ちゃんを追う様に私も教室を出る。移動教室は楽しいが、移動がめんどくさいなぁと思うのだ。教科書も持っていかないといけないし。
「山南先生、それじゃきつくないですか」
「そうでもないと思うのだけれど……」
由理ちゃんと歩いていた前方の教室から見知った2人の先生が出てくる。斎藤先生と山南先生だ。
「あ」
ぱちり、と目が合う。隣の由理ちゃんは「山南先生」と駆け寄って行ってしまった。
「今日は先生の授業がないので寂しいです」
「おや、そう言ってくれると嬉しいですね」
お花のようなオーラを出しながら会話をする2人を横目に私は斎藤先生を見やる。
「……僕の授業も今日無いよね?」
「特に寂しいとか思いませんけど」
「塩!塩対応!ほら駆け寄ってきてよ」
「どうして……どうせ部活でも会うじゃ無いですか」
「それとこれとは別でしょ?」
うへえー、と言った顔をするも斎藤先生には効果が無い。そして私はゆるく微笑んでいる斎藤先生の顔に弱いのだ。
「由理ちゃん、あと5分だ」
「え!本当。先生失礼します!」
「ええ、気をつけて」
「……斎藤先生も、また」
「えっ、ああ、うん」
ぽそり、と小さめな声で言った挨拶は聞き取られていたようで少し間抜けな返答が返ってきた。
「はー!活力得れれた……がんばろうね!梨沙ちゃん!」
「すごい由理ちゃんのしあわせオーラ浴びて私消えそう」
ちらりと後ろを振り返れば片手をポケットに入れてこちらに小さく手を振る斎藤先生と目が合った。小っ恥ずかしい、が、私も控えめに手を振替しておいた。
***
「ッかーーーーーーーーずるくないすか?あれ」
「会わない日があるとね、会った時に構ってしまうね」
「でも会わない日なんてないじゃないですか」
「まぁ、そうなんだけどね」
すり、と指で自分の顎を撫でる山南先生を見てお互いに、狂ってるよなと内心笑っておいた。
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◆保健室にて
「梨沙ちゃん!」
防具をつけていなかった時に何かが飛んできた。そして完全に当たった、顔に。沖田先輩の声が聞こえたが回避ができなかった。
「大丈夫で、す?」
「大丈夫じゃないよ!鼻血!口も切れてる!」
鼻元を手で拭えばべっとりと付く血。あー、あたりどころが悪かったんだろうな。
「ちょっと手洗い場行きます」
「保健室も行こう、僕が連れていくよ」
「大丈夫ですよ」
「いいから」
大丈夫だ、と言っているのにも関わらず斎藤先生がついてくる。
保健室についたが保健医が居なかった、しょうがないかーと言いながら私を椅子に腰掛けさせて綿などを用意していく斎藤先生をじっと見る。
「口の中がすごい鉄」
「濯ぎなよ、ほら」
備え付けの水道で口を濯ぐ、そのまま適当に口元を濡らして血を流す。
「もーびしょびしょじゃん」
「ティッシュ……」
「まだ鼻血微妙に止まって無いね」
ティッシュで口元を拭っても付着する血、口を開くと切れているらしい口の端が痛い。
「当てるよ」
「痛い」
「消毒液だから我慢して」
消毒液が染みたコットンを口の端に当てられる、染みる痛さで少し顰める。
「……はー、心臓止まるかと思ったよ、全く」
「何が当たったんですか、よく見てなかったんですけど」
「竹刀」
「竹刀?!よくこれだけの怪我で済んだな私」
「鍛えててよかったね、ほんと。口あーんして」
「あー」
「口の中も切れてる、口内炎にならないといいね」
もう一度口内を濯ぐ、鼻血は止まった様だが口内が切れているところからまだ鉄の味がする。
「梨沙」
「な、…………先生がそんなことしていいんですか」
「いーの、僕だから」
ふに、と触れるだけのキス。血の味がする、って呟いていたけどそりゃそうだろう。
「……学校で、そういうことするの、なんか気持ちがざわつきます」
「…………そう言われると、もっとしたくなっちゃうな。僕は」
「いやいや部活戻りましょう!ほら!ガーゼ貼ってください!」
「怪我人なのにすごい元気なんだけど……全く」
口の端にぺたぺたとガーゼを貼る一さん、もとい斎藤先生を見つつこの顔の熱さがバレない様に私は手の甲を思い切り摘んだ。