◆ラムネ

袋から何粒か掌に乗せてそのまま口に放り込む。味わう、でもなく歯でガリッと噛み砕く。

「何食べてるんだ」
「ブドウ糖、もといラムネ」
「ああ、効率的だな」

ひたすらにパソコンに指を滑らせる、あともう少しで探知が終わる。
運転席で目標の建物をじっ、と見ている降谷が「ん」と掌を出して来たから適当に出したら出過ぎてしまった。

「あ」
「問題ない」
「残りが少ないんですけど」

Enterキーを押す、すると画面には読み込み画面が表示される。これが完了すれば私の仕事は終わりだ。
隣でボリボリラムネを砕く降谷を横目でじとっと見る。

「ん、探知終わった。どうする」
「……風見、山手通りの歩道橋上でデータを受け渡す。来い」
「風見さんに同情するわ、こんな上司で」
「そんな上司の形成の一つだぞ、網代は」
「死ぬ」

USBを降谷に受け渡すと車を動かし始めた、近くまで行くのだろう。「あ、ついでにラムネも買って来て」と言えば「ボーナスだ、キロで買ってやろうか」と言われたので丁寧に辞退しておいた。


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◆この振り上げた拳は机に叩きつけた

「安室透!!!!!!」
「わっ、どうしたんですか梨沙さん」
「聞いてください梓さん、そこで野蛮な女の子たちに囲まれたんですけど」
「あっ、もうわかりました。安室さんが悪いですよ!」
「ええ、僕ですか?」

ダンッ、と机にグーを叩きつける。くっそこれが降谷なら胸ぐら掴んでるのによ……。

「扉の看板も変えてくるから!安室さんは梨沙さんの愚痴聞くこと!ねっ!マスター!」
「ええー」

苦笑しながらカウンターの向かいに立つ安室を見てこれがいいのか?って睨みつける。

「梓さん、梨沙さんに睨まれるんですが」
「仕方ないです!」
「安室透、女子高生や女子大生は強いんだよ。いいか?平日の昼間に来る草臥れた社会人女を捕まえるくらいにはな」
「梨沙さんは草臥れていませんよ?」
「そういうところなのがわかんないのか……???」

マスターが横から差し出してくれた紅茶を一気に飲み干す。

「なんて言われたと思います?おばさんが行っても安室さん相手しないと思うんだけどー、とかお世辞でしょそれも分かんないんだよおばさんはー、とか」
「……へえ」
「まじで学校に言ってやろうかと思ったんですけど大人気ないなって」

梓さんが出してくれたキッシュにフォークを刺す。話を聞いている梓さんは「たまーに野蛮な人居ますよね……」ってため息を吐きながら机を拭いていた。

「で?梨沙さんはどうしたんですか?」
「言い返すと子供だなーって思いながら携帯でインスタの垢特定して見せたらキモ!って言われて逃げられた」
「十分大人気ないですよ、それ」
「うるさい諸悪の根源め」

特定なんてすぐ出来るんだよ、気をつけたまえよという意味も込めたんですけどと思いながらくしゃくしゃに丸めたストローの袋を安室に向かって投げれば緩やかに取られてしまった。

「いつか刺されないようにね」
「僕がですか?」
「私のこと好きって言ったじゃない!嘘だったの!みたいな虚言女が出てこないとは限らないからね」
「すみません、想像してありえそうだと思っちゃいました!」
「梓さんもいざというときはこの人を盾にして逃げるんだからね」
「はい!」
「梓さんも……」

おっと忘れてた。ポアロに来た目的はこれだ。
カウンターの下にUSBを貼り付ける、降谷に頼まれたデータだ。貼り付けた後に安室をちらりと見ればウインクをされた、やめろと言っている。

「マスター、安室さんを教育するなら今ですよ」
「出来ますかねえ」
「鞭だけで大丈夫ですから」
「飴も欲しいのですが……」

そんな話をのんびりしていたら夕方になりかけていた、しまったこれから戻って仕事しなきゃいけないのに。

「のんびりしちゃったわ、そろそろ行きますね」
「あ!お代は安室さんに請求するので大丈夫ですよ!」
「あざーーーーーっす!!」
「貴方という人は……見送りますよ」

安室が横に立った時にそれとなく机の下に手を伸ばすのが見えた。梓さんやオーナーに見られないように私の体でカバーする。

「梨沙さん」

外に出た瞬間両肩に手を乗せられる、とっさに周りに誰か居ないか目で探してしまった。

「貴方は僕が守りますよ」
「ンッフフッ」
「笑うなよ」

爆速で笑いが漏れた、安室も降谷が飛び出していてさらに笑いが抑えられなかった。

「良いね、それ安室さんらしいよ」
「そうですか?」
「じゃ、また来ます」
「またのご来店をお待ちしております」


***


ブブッ、と私用携帯が震える。現在日を跨いだ後だしあんまり私用携帯が動くことはない。

『助かった』

とだけ連絡が入っている。データのことだろうと思い『奢り、ありがと』と返せばすぐに既読になる。見てたのか。

『実害が出たら言えよ、僕の彼女ですとでも言っておく』
『最悪な選択肢で速攻で死刑じゃん』

ふ、と軽い笑いが漏れる。安室の彼女は……本当に刺されかねないな、私が。



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