◆警察なもので
「ねえ、貴方のドリンク自分で頼んだやつ?」
「えっ?いえ……彼がおすすめだって」
ちょっと怪しい情報を聞き取ろうとクラブに潜入したはいいもの、どうにも気になってしまった彼女のドリンク。
いかにも、な青いドリンクは飲む際には気を付けろと言われているドリンクだった。
「青いドリンクって、睡眠薬が溶けててもわからないことが多いんですよ。睡眠薬自体が青いから」
「……え」
「あの男性は恋人?」
「いえ、今日会った人なんですけど……」
「できれば飲まない方がいいと思います」
「あ、ありがとうございます」
お手洗いに彼女が立った際に彼女に近づいて声を掛ける。案の定相手はよく知らない今日会った人。
カウンターに戻る彼女をそれとなく目で追いながら私もバーボンを口に含む。
「いや、ちょっと……」
「これ美味しいからさ!」
そんな声が耳に入る。顔を向けると半ば無理矢理押し付ける男性の姿があった。
カツカツ、と思いっきりヒールを鳴らしながら近づく。彼女が断りきれずに手に持ってしまったドリンクを奪い一気に飲み干す。
男性とグルと思わしきバーテンが目を見開くのがわかる。
「嫌がる女の子に眠剤入れてるドリンクを押し付けるの良くないと思いますよ」
「な、なんだてめえ!」
「これは警察に言えば……準強制わいせつ罪と言ったところでしょうか?」
「ッ」
バンッと机に掌を叩いて逃げる男性、肝の小ささがわかる。
「あ、あの」
「今日早めに帰った方がいいとおもいますよ、青いドリンクには気をつけて」
「ありがとうございます!もしかして……警察の方、とかですか?」
「んー、まあ。私は大丈夫なのでお気をつけて」
「はい!」
小走りで駆けて行った彼女の背中を見送って元のテーブルに戻る。と先ほどのバーテンがこっそり近づいてきた。
「……本日はお代はいりませんのでどうか」
「内密に?……あんまりこういうの協力しない方がいいですよ、私みたいな人もいるので」
と言いながら胸元から手帳をチラ見せする。するとハッと息を飲んで深くお辞儀をして去って行った。
「仕事熱心なものだな」
「ッ……!息が止まるかと思った」
「効果は」
「遅効性、まだ大丈夫。あと眠剤に強いのもあるんで」
向かいに徐に座り声を掛けてきた男性を見てとても吃驚した。こんなところに居るはずのない赤井秀一だったからだ。
「君も帰った方が良いんじゃ無いか?」
「んー、収穫がいまいちなんですよねえ……」
「こういう現場仕事は彼に任すべきじゃないか?」
彼。多分脳裏には2人して降谷が浮かんでいることだろう。
「彼も忙しいみたいで」
「裏方の君が駆り出されている、と」
「ええ、困ったことに。まぁでもあっちがなんとかしてくれそうなもんで」
視線の先には同じく潜入している男性警察官、赤井さんは横目でそれを見ると「成る程」と呟いた。
「あー、まって眠いかもしれない」
「俺は送ることは出来るが、流石に庁には入れないぞ」
インカムのマイクをオンにする。対面の赤井さんにギリ聞こえる声量で少し離れた同僚へと声を投げる。
「眠剤入り飲んじゃった、迎え頼むから1人でいけます?」
『……しゃーねえな、報告はこっちでしとくけど後で顔出せよ』
プツ、と切れたインカム。ちらりと顔を上げれば髪をかき上げるフリをしてこちらに手をむけていた。
「ってことで赤井さん、お願いします」
「全く、向いていないことはするんじゃないぞ」
やばい、本格的に効いてきた。下がってくる目蓋に抵抗していると立ち上がる序でに手を取られる。がその手はするりと指の間に滑り込んできた。
「この方がすんなり出やすい、だろう?」
「……そーですね」
「これで君が薬さえ盛られていなければな」
「盛られてなかったらなにするつもりなんですか」
「ホォー、君は思ったよりも野暮か?」
「……今、私で遊ばれているのは分かりました!」
記憶を保っていたのはそれくらい。赤井さんの車に乗り込んで即おねんねしていた。
助手席ですやすやしていたら降谷の怒声で目が覚めるのはこれからである。
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◆デート
「網代さん、私とデートしませんか?」
「え!します!」
「ゴホッ」
「どうしました?安室くん」
「……いえ、なんでも」
ポアロで報告書をどう書こうかなーと画面とにらめっこしていたら横から沖矢さんが爆弾発言をした。
即返事をすれば安室が咽せているし、お前……と言いたげな目で睨まれた。
「では連絡先を」
「あー、知ってます」
「おや、そうでしたか。空いている日でも教えてくださいね」
「えっ、沖矢さん本気なんですか」
「ええ、本気ですよ」
飲んでたレモンティーが口から出るところだった。
そう言った沖矢さんは会計をしてポアロから出て行ってしまった、空いてる日……空いてる日……。
「お前は犬か?」
「安室さん安室さん顔と口調がおかしいです」
「僕たちだけに懐いていれば良いだろ」
「私ペットじゃないんですけど!?」
「松田達に言ってやるからな」
「待って」
「もう遅い」
「なんでこういう時は動きが早いんですかうわしかもグループでやってる」
降谷が入れた文面を確認する間もなくLINEが通知をけたたましく鳴らす。グループラインはもちろん個人LINEも鳴っている。うわーん!とスマホを伏せればおもしろくなさそうな安室と目が合った、もはや降谷である。
「ふん」
「梓さーん!安室さんが拗ねたー!」
「もー!梨沙さんいじめたでしょー!」
「え、何……私が安室さんをいじめるなんてそんな!」
「困りました……僕、お婿に行けないかもしれないです」
「やめろマジで」
***
お洒落してきてくださいね。という文言を睨み付ける。お洒落ってなんだこちとら社畜生活が長いもんでシャツばかりあるぞ。
デートのような、お洒落な……うーん。いっそ潜入でーすと言われた方が服を選びやすいのにな。
「という訳で沖矢コーデです」
「……どういう訳でしょうか」
ハイネックにジャケット、ネックレスにアンクルパンツにヒール。まぁ無難である。
そういう沖矢さんもハイネックにジャケットなのでおそろコーデである。うわ、側から見たらえげつないな。
「記念写真でも撮っておきますか?」
「え、珍しいですね」
「ええ、貴女なら悪用しないでしょう?」
「まぁ……強いて言うなら彼に自慢するくらいですね」
「面白い。ではこうしましょうか」
ぐい、と肩を寄せられ沖矢さんの肩に私の頭が軽く当たる。これガチ恋距離じゃん!と目をぱちぱちしてしまった。
「網代さん?」
「気持ちを落ち着かせています。あ、待ってください私の腕が短いのでカメラお願いして良いですか」
「あ、はい。ではこうでいいですか」
シャッターが切られる、撮った写真を確認していると私が笑いを抑えられていないのがわかる。沖矢さんも面白がっている顔をしているような、気がする。
「今送るとうるさそうなんで後で送ります」
「それいいでしょう、どうぞ」
「……こう言うのされ慣れてなくてムズムズしますね」
「でしょうね、貴女は乗り込む方が向いている」
「褒めてます?」
結論を言うとデートだった。
昼過ぎに待ち合わせをしたので沖矢さんの車で国立博物館へ、久しく行っていなかった博物館にちょっと興奮して沖矢さんを連れ回してしまった疑惑があったが笑っていたから大丈夫だろう。
夜も少しおしゃれなレストランだった、テーブルマナー系は必要ないところだったので助かったと言えば「そうだろうと思いました」と見透かされていた。
「本当ありがとうございました、なんか私の痴態を晒した感じがします」
「いいえ、貴女の新たな一面を見れて嬉しいですよ」
「正直デートなんてもの片手で足りるくらいしかしたことなくて……仕事漬けだったもので、本当、楽しかったです」
「ホォー、ならまたお誘いしましょうか。今度はゆっくり話でも」
「面白い話なんて……あるかもしれません」
「……今度は赤井秀一と、どうですか?」
「ッエ」
顔を近づけられたかと思えば変声機をオフにした赤井さんの声で言われ変な声が出た。
「ふふ、ではまた」
「わ、私で遊ばないでくださいよ!本当!心臓に悪いですって!」
***
あ、そうだ。と思い出して降谷に写真を送った。
『おい』
『本当に行ったのか』
『何もされてないだろうな』
『既読無視か?』
『良い度胸だな明日顔を洗って待ってろ』
返事を返す暇も無く私の死刑宣告が出された。