はあああ、と深い息を吐く。口からはタバコの煙が漏れ出た。
邪魔だと結んだ前髪がぴょん、と立っているのが分かる。
ここは警視庁の喫煙所、私の勤務地はお隣の建物なのだがまぁ、駆り出されている訳だ。かつて居た公安の総務課に。
そろそろ出るか、と火を消して喫煙所から出る。
向こうから歩いてくる人影、ん?なんか見たことあるな……と脳内で一致した。
「風見さんじゃないですか」
「……網代さんですか?なぜこちらに?」
「ヘルプです、風見さんは急ぎの案件でも?」
班長よりも低いか、といった身長の風見さんを見上げる。顔色が少し疲れているように見えるのは錯覚じゃ無いだろう。
「いえ、急ぎでは無いです」
「無茶振りも無しで?」
「……今の所、ですがこんな話をしていると来がちですね」
「恐ろしい人ですからね、あーヤダヤダ」
と名前を言わずに降谷の話をしていると風見さんが苦笑していた。
「ところで、その髪は……」
「あー、切る暇も無くて前髪伸びて来ちゃいまして」
「時間、無いですからね……」
「とりあえず警視庁で籠もって仕事なだけなのでいいかなと」
「外回りが無いなら、そうですね」
あ、自販機ちょっと良いですかと風見さんに声をかければ「奢ります」と言われてしまった。丁重に遠慮したのだが「いつもお世話になってるので」と言われてしまえば従うしかなかった。
「憶測ですが」
「はい?」
「降谷さんが引き受けていく追跡やハッキング、探知などのパソコン業務は網代さんに回っているんでしょうね」
「…………降谷、わざわざ引き受けていくんですか」
「ええ、これは僕が回す。と」
「本当いい意味で上司に向いていること!」
風見さんに奢ってもらった缶コーヒーを一気飲みしてぐしゃり、と潰す。降谷は嫌いでは無いが降谷の仕事の振り方は嫌いだ!
「はぁ……風見さんも胃に穴を開けないようにしてくださいね」
「網代さんこそ」
「私は大丈夫です、降谷に文句言えるので」
「……ああ……」
「これでよく公安が務まるな、でしたっけ?お前が言うなパンチしてやるんですよ」
「首が飛びそうですね、それは」
そのままエレベーター前まで風見さんを見送る、このフロアには立ち寄ったくらいだった様だ。
風見さんと降谷をネタに飲みに行ったら盛り上がりそうだなぁ、と仕事場へと向かった。
***
「網代さん助かったよ〜〜〜!!!こっちに戻って来たりしない?!」
「ちょっとただでさえ公安から仕事回されるんでちょっと嫌ですね」
「あ、そうだよね、網代さん大変だもんね……」
「その哀れみの目やめてください!」
現在時刻18時過ぎ、まぁ早く終わったかと腕を伸ばして首を回す。ゴキ、と嫌な音がしたが気にしないでおこう。
「直帰?」
「ならいいんですけどねー、警察庁に戻ります」
「ウワ」
「ちょっとウワって言ったの誰ですか」
「網代さん死なないようにね……本当」
かつての上司が心の底から労ってくれた、私の死因は過労死が近いかもしれない。
「梨沙」
「…………景光!びっくりした!」
「それオレのセリフね、ここで仕事だったんだ」
「そうなの、でもこれからあっちに戻るよ」
「あ、そうなんだ。じゃああっちでも仕事?」
「かなぁ、今大きな案件無いから帰れるなら帰りたいんだけどね」
部屋からでてエレベーターを待っていると後ろから声を掛けられて軽く飛び跳ねた、気が抜けていた。
振り返れば久しぶりに見た景光で思わず声が大きくなってしまった。
「風見さんから梨沙がここに居るって聞いてさ」
「ヘルパーさんしてた」
「梨沙も忙しいよね」
「景光も中々でしょ、一番忙しいのは降谷だけど」
「言えてる」
送るよ、と言ってくれた景光の好意に甘えた。エレベーターの扉が開けば手で押さえて「どうぞ」と言ってくれる景光は出来た男だほんと。
「そういえば梨沙、これ」
ん?と思えばぴょん、と結ばれた前髪を触られる。忘れてた、景光と話している間この前髪してたかと思うと羞恥心が、出てくる。
「ウワッ!忘れてた!間抜けじゃん!」
「ハハ、可愛いから良いと思うよ」
「景光の前でこれしてたかと思うと恥ずかしい」
「え、なんで?」
「わかんない、景光の前だとちゃんとしとこうかなって」
「ありのままの梨沙でいいんだよ」
さら、と結んでいたことによって変な癖がついた前髪を触られる。
軽く微笑んでる景光を、しっかり見てしまったが故に恥ずかしさが、迫り上がる。
「女たらし!」
「ちょっと」
「人たらし!景光に無意識に言われてその気になった女の子にそんなこと言ったっけ?とか言うんでしょ!」
「そんなことオレ言わないよ」
言葉に出来ない悲鳴を上げながらチン、と開いたエレベーターを飛び出る。
景光になんていうか、甘やかされというか、よしよしされるとなんだかむず痒くて逃げたくなる。
「じゃあね!景光!」
「うん、気をつけてね」
「隣だし」
「あと、オレは誰にでもそんな事言わないよ」
「えっ」
ひら、と手を振る景光に私の動きが固まる。
アラサーを揶揄うな景光!