※景光寄り
『乾杯〜!』
ガシャン、とビールジョッキが当たる。今日は同期組で飲み会だ。
みんなの事を送るつもりでノンアルにしようと思えば考えが見透かされていたのか松田から「代行でも呼べばいいだろ」の一言でそれもそうか、とアルコールを摂取することにした。
「しっかしまあ、久しぶりだな!」
「結婚したのは班長だけかぁ」
「あっという間にアラサーか……」
「仕事人間しか居ねえからな」
班長の指には結婚指輪。ふとナタリーさんの事を思い出して子供作るのかなーとぼんやり考えた。
「子供出来たら会わせてね」
「当たり前だろ!あー、でも女の子だったら降谷と萩原には会わせたくねえな」
「ハハハ!降谷の事王子様ーとか言わせたくないよね!」
「おい」
「なんで俺も!?」
「萩はそりゃそうだろ、女の扱いが上手え」
「萩原、お前を殴る状態にさせてくれるなよ」
「やめてよ班長俺死んじゃう」
降谷は金髪に青眼、というところから最初の掴みは上手いだろうし萩原は女の子を蝶よ花よと愛でるから初恋キラーになりそうだ。
「景光も侮れなくない?」
「俺よりも諸伏ちゃんでしょ!俺が女の子だったら惚れてるかも!」
「やめてくれ萩原、ちょっと気持ち悪い」
「景光くん〜ってか?」
「死ぬ松田のその物真似無理」
誇張した女の子の物真似をし始める松田に笑いが止まらない、酒が入っているからか他のみんなも簡単に笑ってしまうようになっていた。
基本的に飲む時は個室だ、何故なら話が話なことが多いからだ。
現に松田と萩原と班長はこないだまで受け持っていた事件の話を降谷と景光にしている。
「網代にも世話になったな」
「え、網代ちゃんも関わってたの?」
「大したことはしてないよ、逃走車両のデータから人物割り出したくらいで」
「それがパッと出来るんだからすごいよね」
「適材適所だな」
私はパソコン業務、萩原と松田は爆弾や機械といった得意分野がある。
その代わりに私は肉弾戦はクソザコだし、射撃も平均値くらいだった。
「そういえば零」
「ん?なんだ」
「また車で暴れたらしいね、交通部の人がちょっと話してたけど」
「また暴れたの〜?データは消せても人の口は消せないんだからなー!」
「……ちょっと公道じゃないところでスピードを出しただけだ」
「それがちょっとなんだから零はすげえよな」
「それでゴールドなんだよな」
「もみ消しってすげえよ」
みんなが遠い目をし始める、もみ消し捏造お手のもの!と警察官が言ってはいけないセリフを脳内で高らかに言っておいた。
白のRX-7を見たら見てみぬふりをしろ、交通課ではそんな暗黙のルールがあるのかなぁとぼんやりと降谷を見ておいた。
「誰か浮ついた話とかないの?」
「言い出しっぺの網代ちゃんは?」
「今の所パソコンとお友達というかマブというかズブズブだけど」
「ごめん、そんな目しないで」
「正直俺らはともかく、お前らは休みがねえようなもんだもんな」
松田が顎でこちらを指す。降谷、景光、私の3人のことを言っているようだ。
「こっちの2人は特に言うに言えないしねー」
「でも何故か梨沙は知ってるんだよね」
「ほら、データともズブズブですから」
「データの脆弱性を嘆くべきか、網代の技術を誇るべきか」
「後者にしといてくれません?」
「陣平ちゃんとかはどうな訳?」
「ねえな、そういう萩原もだろ」
「最近警察官っていうと引かれるから公務員って言うようにしてる」
「警察官はちょっと、っていう子多いんだねえ」
まぁ私も現場に出る警察官が相手、となると怖いよなぁ、と呟く。
するとばちりと皆の目がこちらに向くのがわかって首を傾げた。
「え、なに」
「いや、お前もそういう気持ちあったんだな」
「一般論だよ、待つ側になるのは辛いんじゃない?と」
「……俺もナタリーから毎日念押しされるしな」
「でしょ?でも仕方ないよね、そうだから」
まぁ、そうだなと各々が呟く。思うところはあるだろう。
ちょうど皆の飲み物が空いて来たので追加頼もうかと声をかければこれもこれもとあれこれ言われて軽くキレた。
***
「おーい、陣平ちゃーん」
「ん……おきてる……」
「ダメだこれ、そっちは?」
「降谷生きてる?」
「……」
「ダメです、アルコール回ってますね」
「2人とも水は手元にあるな、まぁほっとけばなんとかなるだろ」
「そうだね」
飲み会が始まって数時間後、松田は机に顔を付けて寝始めてしまったし降谷はアルコールが回ってからか眉を顰めて壁に頭を持たれかけてしまった。水は飲んでいるからしばらくすれば少し回復するだろうけど。
「ってか網代ちゃん結構飲んでるのに平気なんだね?」
「実は酒とノンアル交互です」
「頭良いな、お前」
「班長に褒められた!まぁ水分だけそんなに飲めないしね」
「諸伏ちゃんも顔に出ないよね、飲んでるよね?」
「飲んでるよ、ずっと軽くフワフワするくらいかな」
「可愛いねえ景光は」
よちよち、と景光の髭生えた顎を撫でると気持ち良さげに目を細めた。
ああ酔ってるわこれ、と思いながらもまぁ私も酔ってるしな!と冷静になっていた私を意識のどっかにおしやった。
「網代ちゃんって諸伏ちゃんのこと親戚の子みたいに可愛がる時あるよね」
「だって景光可愛いじゃんね」
「……ちょっとよく分かんねえ」
「景光の可愛さは私が知っていれば良い」
「アイドル見てえ!」
「歌って踊れないけど、良い?」
「良いよ!」
「ハハハ!」
ちょっとトイレ、と立てば萩原から「いっトイレー」とクソみたいなギャグが飛んできたので枝豆の豆を飛ばしておいた。
水分過剰摂取すぎてトイレが近い、人間の体って不思議だよなぁとトイレを済ませて出てくると前に景光が居た。
「景光もトイレ?」
「ううん、梨沙待ち」
「えっ可愛いね」
「梨沙はオレのこと好き?」
「好きだよ、どうした?」
「その好きって、どういう意味の?」
「……どういう意味って」
「友人として好きか、1人の男として好きか」
変化球を投げられた気分だった、今までお酒のおかげでふわふわしていた気分が一気に冷静になった気がした。
驚いて景光をしっかり見るとお酒を飲んでいない時となんら変わらない景光が居た。え、ほぼ素面?さっきのは?演技ですか?
「景光は、景光だよ」
「そっか。ごめんね急に」
「どうしたの景光」
「ううん、おかげでオレの意志は決まったよ」
「私がついていけない話題しないでよ2人なのにさあ!」
なんだが楽しげになってしまった景光を見ながら私は頭の上に疑問符を浮かべる。
そのまま景光は戻ろうとするから慌てて着いて行った。
「おっかえりー」
「ただいま。松田と降谷ちょっと起きた?水飲んだら?」
「俺寝てたか……」
「ああ、もらう」
「そういえばオレ、梨沙のこと好きなんだけどさ」
ゴホッ!
いろんなところから咽せる音がした、かく言う私も思いっきり咽せた。
松田と降谷は水を飲んでいる途中だったし咽せて気管に入りかけたのか咳が止まらない。
萩原は口に含んだえいひれがぽろっと落ちるし班長もジョッキを持って硬直してしまった。
「ひ、景光さん?お酒飲みすぎました?」
「適量だよ」
「景、気でも狂ったのか?」
「おい降谷」
「ということでオレは梨沙にアピールするから、よろしくね」
「なんの、よろしく……?」
ずり、と無意識に降谷の方へ体を寄せると「こっちにおいで」と手を掴まれて降谷ー!降谷ー!と目で助けを求めたがつい、と逸らされてしまって蹴りかけた。
反対側では萩原と松田が大爆笑、班長がサムズアップをしてきて……。
私!席替えを所望します!と声を出せば「おもしれーから却下」と松田に一蹴されてしまった。