※付き合ってる

仮眠室を覗けば珍しい人が穏やかな顔で寝ていた、降谷だ。
降谷は登庁することがあまり無い上に仮眠室を利用しているイメージはあまり無い。
規則正しい寝息が聞こえる、そーっと顔を覗かせれば見る人によっては彫刻のようだ、と言うだろう。
数秒、見つめていたが起きる気配は無い。うず、と悪戯心とお互いに忙しく会えていなかったしなー、という気持ちが湧き上がる。

(起きてくれるなよ)

周りを一瞥し、カメラも無かったよなと一応天井も目視で確認。そして息を殺して降谷に自らの顔を寄せる。
頬にふにゅ、と軽く触れるだけのキスを落とす。

「ん」

降谷が自らに何かが触れた感触で身じろぐ。かつて無いほど跳ね上がった心臓を抑えてバレないうちに仮眠室から私は逃げた。


***


「あれ、仮眠しにいったんじゃねえの?」
「あんまり顔を合わせたく無い人が先客に居たから後にする」
「ふーん、じゃこっちの案件手伝ってくれよ、闇サイトの管理者特定。得意だろ?」
「なーんか、得意っていうのも癪だなぁ」

いまだに心臓の鼓動が早い。平然を装って同僚からもらった案件に従事しようとパソコンに向き合った。ちらりと確認した携帯には特に連絡はなし、よかった。


***


久々に帰宅、家の駐車場に入ると白い車体が目に入った。どうやら降谷が来ているらしい。
合鍵も渡しているからごはんでも作ってくれてるのかなーご飯なにかなーと私は仮眠室でやったことなど忘れてうきうきで家へと向かった。

「おかえり」
「……た、ただいま?どうしたの出迎えって」
「いいや?ただしたくなっただけだ」
「そうなんだ……先にお風呂入って良い?」
「ああ、今日はさんまだ。良いさんまがあったからな」
「今年初さんまかも」

扉を開ければ降谷の出迎え。いつもは出迎えなんてしないから何が起きたのかと思ったけど思い立ってやっただけのようだ。
いつものように脱衣所に立ってはた、と気づく。
私、昼に降谷の寝込み襲ったな……と。ここからは思い出し、苦しみ、虚無になりとお風呂で感情に襲われ忙しくなっていた。

「上がりました……」
「……どうした、テンションだだ下がりじゃないか」
「虚無になっているだけです」
「風呂で何があったんだ……」

降谷もご飯を食べずに待ってくれていたらしく二人でいただきます、とさんまを食べた。脂が乗っていてめちゃくちゃうまかったしやっぱ大根おろしとの相性最高だわ……。

「ところで梨沙」
「んー?」

時間は日を跨ぐ数分前、二人でソファーに座りながらテレビを見ていた。画面は明日の天気の情報を伝えてくれている。
明日は少し寒いのかー、とぼんやり思いながら降谷へ返事をした。

「仮眠室ではよくやってくれたな」
「……?!!お、おき、起きてたの!?」

比喩表現無しでガタリ!と私は立ち上がった。降谷を見れば凄く楽しそうな顔をしていてやられた、と瞬時に理解した。

「僕があそこで深く眠るわけがないだろう」
「私は桜の木の下で眠りたいです」
「どうせならここに欲しかったんだが」

とんとん、と自分の唇を触る降谷にカーッと威嚇した。ぼんやりでもなくしっかり起きてるじゃねえか!なんやねん!

「気の迷いでして……忘れてください」
「無理な提案だな。……その、嬉しかったんだぞ?あそこが庁舎じゃなければ引きずり込んでいた」
「怖」

おそるおそる、と降谷の隣に少し距離を開けて座ればぐいっと肩を寄せられて腕を捕らえられた。あ、これスイッチ入ってますね。

「もう一回してくれないか」
「死ぬど」
「いいだろ、寝てる時もしたんだから」
「起きてたけどね?!」

はー、と深いため息を吐いた。とん、と自らの頬を指差す降谷の服を掴んでもう一度頬に触れようと顔を近づけた瞬間。
降谷の顔が、こちらを向いた。

「!」
「やっぱり僕はこっちのほうがいいな」
「狡猾すぎる……」
「なぁもっとしていいか?」
「……するくせに」
「ご名答」

ちゅ、と降ってくるキスに観念して降谷の首に腕を回せば満足そうに微笑みながら私の背中に手を回す降谷。明日非番でよかった。



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