※付き合ってない
一刻も早く帰りたい。そう思いながらあははー、と愛想笑いをしておいた。
「えー、網代さん公務員なんだー?」
「仕事漬けですよー」
「俺も俺もー!大変だねえー」
なぜ私はこの場にいるのだ、と誘って来た他部署の同僚を見ればごめんに星がつきそうなウインクをして来た、お前のデータばらまくぞ。
「飲みに行こうぜ!おごりだから!」の手に乗れば実態は合コン、奢りはいいから帰りたかった。
『お前仕事じゃなかったのか?居ねえけど』
伏せた携帯が震える、画面を見れば松田からの連絡だった。またアポなしで来たなあいつ……。
『飲み会に駆り出されてる』
『は?』
『帰りたい』
『帰れば良いだろーが』
『合コンなんだよ、不可抗力』
即既読即返事だった松田が既読になって返事がない、おやこれ私ミスったか?と瞬時に思ってしまった。
「網代ー、飲んでるかー」
「お前に殺意を抱いているくらいには」
「おっとお……すまんって、人数足りなくなってさ……でもお前フリーだろ?」
「作る暇すらないけど?喧嘩売ってんの?これ終わったら帰るよ」
「OKOK、悪いな!」
そう言う同僚を横目にハイボールを一気に飲んだ。
携帯を見ても返事がない、何だったんだ松田は。そう思っているとさっきからちょっと絡んでくる男がまた話しかけて来た。
「どうしたの?携帯見てるけど」
「あー、仕事の連絡がちょこちょこ来てて……」
「仕事置いといてさ!俺のこと見てよ、なんて!」
「あはは、面白いこと言いますねー」
さりげなく肩に手を置かれたが枝豆に手を伸ばして手を落とさせる。酒臭えし距離が近い!
聞いているのかわからない程度の生返事で会話をするがこの男はいいらしい、何なんだこいつ。
***
「俺、網代さんの素っ気ない感じ好きだわー」
「それはそれは」
「ね、抜け出して飲み行かない?」
そんなのお断りだ。携帯を見て仕事の連絡が来ているそぶりを見せつつ口を開く。
「うーん、仕事があるんでこれ終わったらもう一回会社に戻らないとなんですよー」
「そしたらさー、連絡先でも」
バシッ、と言った擬音語が正しいだろう。机に置かれた私の手を握ろうを伸ばしたその手は第三者の手によって掴まれていたからだ。
周りの空気が止まる。はた、と正面に座っていた同僚の顔を見れば引きつっている、あれ、こいつじゃない。
「悪いけど、こいつ俺んだから」
「ワッ!?」
力任せに肩を組まれたかと思えば聴き慣れた声とタバコの匂い、なんでここにという表情を隠せずに出してしまった。
「んじゃ、お邪魔しました。いくぞ」
「ちょ、ちょま、ごめん!奢り!サンキュー!」
サングラスを掛けたままの彼、松田陣平は苛立ちを隠さずに私の鞄をひったくって先に出て行ってしまった。鞄という人質を取られた私はついていくしかなく、慌てて松田の背中を追いかけた。
「松田!」
「……」
「ひえええ……」
無言、サングラス掛けたままタバコを吸い、路肩に一時停車していた自分の車に乗り込む松田。私の鞄は助手席にぽい、と置かれたので乗れという意味だろう。怖すぎる、怖い、死ぬんか?私は。
「ま、松田……?」
「……」
無言!!!!私がシートベルトをしくしくと内心で泣きながらつけるとパーキングからドライブに変え発車した。いやどこいくねん、ちょっとー!
「……どこ行くんですか」
「俺ん家」
「は、はあ?!」
「なんか文句あんのか」
「あ、……な、ないです」
ある!と言おうとしたがサングラスの隙間から見えた目が酷くブチギレていらっしゃり……ていうか夜の運転でサングラスってすごいな、やめとけ。
松田の家は場所は知っていても行ったことはない、行く機会がないのもあり……こんな形で行くことになろうとは。
「お前どういうつもり」
「え」
「合コン」
「不可抗力だって、合コンだって知ってたら行かなかった」
「ふん」
「数合わせだし……でもあいつの周りでフリーなの私くらいだったんじゃない?」
「お前まだフリーでいたいのか」
「別に……いたいっていうか出来ないし、こんな仕事してたら諦めてるっていうか」
「俺が居んだろ」
信号待ちのタイミングで放たれた一言に目をぱちくりさせる。ま、松田そういうキャラだっけ……?てかまってどういう意味?私にハニトラですか?やめてください!同期ですよ!
「な、なに、なんかの悪戯?」
「悪戯でわざわざお前の携帯の位置情報辿らねえし迎えにも行かねえ。なんなら俺の家にも向かってねえし……分かれよ!ガキじゃねえんだから!」
「位置情報辿ったの!?辿れないようにしてるんだけど!?」
「お前の隣の席のやつ脅した」
「やめてよ!てか、えっ?ちょっとまって、え?」
混乱する、サングラスを外した松田は胸ポケットにサングラスを仕舞い、まっすぐ前を見ている。信号についていた交差点名は松田の家の近くの名前だった。
「逃げるなら今のうちだぞ、まぁ俺から逃げれるとは思うんじゃねえぞ」
「後日に持ち帰りとか……」
「ねえな」
「た、ただ単なるお泊まり会なら……」
「お前がそう思いたいならそれでいいんじゃねえか、俺は手出すぞ」
「ちょ」
「で?どうすんだ?その反応で嫌とは言わせねえけど」
「…………」
いつの間にかついていた松田の家の駐車場、ギッとサイドブレーキがかかる音がすればさっきと打って変わって機嫌が良さそうな松田が目に入った。こんなの虎の穴じゃねえか!あほ!!!