「選抜リレー、ねえ。千早どうせ出るんでしょ」
「多分陸部よりも早えだろ、こいつは」
椅子を斜めにして配られた体育祭の資料を見る、4月に行われた体力テストの数値を元に選抜の割り振りがされるみたいだが。
「網代さんは100m何秒でした?」
「覚えてないよ、13とかだったと思う」
「早くね?」
「私、千早ほどじゃないけど足は早い方だからね。圭にも勝ってた時期、あります」
ピースを藤堂と千早の目の前に向ける。邪魔だ、と言わんばかりにぺし、とされるけど。
「でも2人、部対抗リレーも出るでしょ」
「まぁ、人居ないですし」
「でもマネ枠1つあんだろ」
「えっ?絶句」
「現状マネ、お前だけだし」
「絶句」
第一走者は女子マネらしい、だるいと机に項垂れる。
出場は9人。私と千早、藤堂、圭、葉流火、ヤマ、土屋先輩、鈴木先輩、佐藤先輩でターンエンドでは?
クソみたいな先輩はそもそも体育祭来るのか、わかんないけど。
「網代さん」
「ん?」
クラスの学級委員長が用紙を手にして声を掛けてきた、どうした?と顔を向ける。
「網代さん、女子の中で2番目に早いから選抜リレー参加してくれないかなって」
「ヒャーッ」
「おまッ……ハハ!良かった、じゃねえか、ハハ!」
「こいつら入ります?」
「入るよ」
「エッ」
「じゃあ走るよ」
「ありがとう、男女交互で千早くんがアンカーになると思うからその前お願いするかも」
「おっけ、了解」
千早はアンカーだし、藤堂も走ると思っていなかったのかエッ?という顔でこちらを見ていた。
「頑張ろうな!」
「まぁ、仕方ない……ですね」
「はー、しょうがねえか……」
***
体育祭練習期間、我々はバトンパスでつまづいていた。
藤堂が。
「藤堂、ちゃんと手にバトン触れてから握りなって」
「触れてんだよ!」
「高橋さんもマジで殴る勢いで藤堂の手のひらにぶつけて良いから」
「う、うん!」
アンカーから千早、私、藤堂なのだが藤堂がバトン受け取るのがちょっと、下手。
私と千早は特に引っかかることも無くスムーズにいって担任からの「言うことないね」のお墨付き。
「このままでは俺まで来ませんよ、バトンが」
「うるせえ……!」
「とりあえず数こなすしか無いかなぁ、頑張れ高橋さん、藤堂」
高橋さん怖いよな、藤堂が。ザ!ヤンキーみたいだもんな、大丈夫にーにって言われてる兄ちゃんだから。
「梨沙ちゃん!」
「帰っていい?」
「ダメですよ」
「そっちのクラスも練習中?」
「ん、見て藤堂がバトンパスしてんの、下手なの」
「俺の方が、上手い」
「どこに張り合ってんの」
千早と並んで藤堂を見ていると後ろから肩に腕が回る、言わずもがな圭だった。
圭と葉流火のクラスもリレー練習に入るらしく今降りてきた様だ。
「ヤマは?」
「ヤマちゃんは部対抗のほうの話あるって連れてかれちった」
「そっか、アンカーって葉流火?」
「うん」
「ま、うちのちはたんの方が早いんですけど」
千早の肩に手を乗せてドヤすると葉流火が露骨にむすくれた。
「俺の方が早い」
「はいはい、冗談はそれぐらいにしてくださいね清峰くん。足に関しては俺、早いので」
軽い冗談がマジのバチバチになっちゃった。
火をつけた私はアハハと藤堂を見守ることにした。
「梨沙ちゃん走るの?」
「うん、千早の前」
「早いもんね、梨沙ちゃん」
近い、圭が近い。相変わらず肩に腕が回ったままでしかも若干寄りかかってきてしゃべるものだから近い。
「圭、近い」
「……んー?ダメ?」
「ほら、圭のファンに勘違いされちゃうでしょ」
「勘違いさせとけばいいじゃん?俺は梨沙ちゃん好きだし」
「アウト!選手!交代!葉流火!」
「何」
「ポジション交代!」
「えっ!やだぁ!葉流ちゃんじゃなくて梨沙ちゃんがいい!」
「あぶねえ、圭に殺されるところだった」
心臓がうるさい、こんなの試合前とかでもならなかったぞ。
流石にまずい、と思って無理やり葉流火と居場所を交代して千早のところにダッシュで逃げた、千早の肩に手を置いて深いため息を吐きながら。
「良い加減慣れたらどうなんです?」
「今更身の回りに居たやつの顔の良さに気づいちゃってさ」
「御愁傷様ですねー」
「心が1ミリもこもってない」
招集が掛かる、こっちかと思ったら圭たちのクラスだった。
そのまま千早の左肩に腕を乗せながら見やる、千早との身長差はちょうどいい。
「協調性、教えた方がいいですよ」
「圭に言って、智将のほうの」
葉流火、女の子のバトンタイミングを図ってやらない。ちょっと文句を言われている気もするが何が?と言った顔をしていた。
圭は圭でちょっと緊張している、マジで何?この差。
「見てる分にはおもしろいですけど」
「それはそう、私が緩衝材だったって気づいた?」
「緩衝材というか、着火剤というか」
「おい」
「藤堂くん頑張ってくださいねー」
「おい」
***
「えっ、高橋さん大丈夫!?」
「部活も休みになっちゃった、というかリレーどうしようか……」
藤堂の前に走る高橋さんが足を負傷してしまった、高橋さんも運動部だったからそっちでも辛いだろう。
体育祭まであと1週間、代打を出すには期間が無いかもしれない。
「誰か2人分走る?」
「まぁ、そうだよね……」
「……私走るよ。藤堂と千早は部活のこともあるし負担にさせたくない」
「おい!」
「藤堂を高橋さんのところに下げてその後私半周2回、1周か。してアンカーでしょ、いける」
2人に何かあったら試合に出れないのは、キツすぎる。もし私が怪我してもマネだし、なんとでもなる。
藤堂と千早も私の言い分に言いたいことがあるものの、口を開かなかった。
「悪いが、網代。頼めるか」
「はい、大丈夫。ビリなっても千早が1位取ってくれるって」
「期待大、ですね」
そうと決まれば体育祭まで走り込むか、と考えた。
「悪いな」
「全然余裕、ただ藤堂バトンちゃんと渡してね」
「そこは安心しろ、叩きつけっから」
「優しくしろよ!」