「梨沙、どこの高校に行くんだ」
「秘密、その顔しないで」
「してない、教えろ」
「どうせ違う高校行くんだから良いでしょ」

カシュ、と葉流火がハンドグリップを握りながら聞いてくる。
中学の終わりかけ、もう進学先はお互い決まっているだろうに私たちは足掻きあっていた。

「……圭が、ああなったから大阪には行かない」
「……は?正気?……と思ったけどまぁ、そうか……葉流火は圭と野球したいもんね」
「梨沙ともしたい」
「ありがと、キャッチボールくらいね」
「なんでだ」
「高校からは男女混合で野球は出来ないのよはるちゃん」

隣に座っている葉流火の頬を軽くぽむぽむ、と叩く。葉流火は如何にも不満です、という表情を隠さずにこちらを見ていた。
いつのまにかとうに大きくなった葉流火、並んでいた肩も大きくずれ目を合わせようとすると首を上に傾ける羽目になる、でかい。

「家は近所なんだから、会おうと思えば会えるでしょ」
「……」
「また不満顔、ほらもう19時なるから帰ろう、葉流火」
「……うん」


***


なんて話したのは数ヶ月前だったか、私も葉流火も連絡全然しないほうだし葉流火は22時には寝るルーティーンだしで全然話すこともなく高校の入学を迎えてしまった。

『パイ毛〜〜〜!』

耳を疑うようなワードが耳に入ってきてとんでもない事を言う人が居るもんだ、と音の出所を見てやろうと後ろを振り返り後悔をした。

「……圭、と葉流火」
「梨沙」

ヤバ、葉流火と目が合った。しかも名前呼ばれた気がした、今逃げれば人違いだったかもで収まる、と思いたい。
自分のクラスをそそくさと確認してほぼ息を止めてたんじゃないか、と思う位に息を吐き出した。

「何をそんなに急いで来たんですか」
「あんまり会いたくない人が居てね、私網代です。よろしく」
「千早です、新学期早々大変ですね」

自分の席に座れば後ろの席に座っていた眼鏡の子が声を掛けてきた、新入学早々友達フラグじゃない?良い調子
千早くん、の隣にはザ!ヤンキー!のような風貌の子が座り私の後ろの席ちょっと濃いな、と口をもにゅもにゅした。
ふと存在を忘れていた携帯を引っ張り出すと珍しく葉流火から連絡が入っていた、見なかったことにしよう。


***


「2人、野球部入るんだ」
「どこ情報ですか?それ」
「勘」
「信憑性無えー……」

眼鏡を何度もあげなおす千早くん、思いっきり咽せる藤堂くん。わっかりやすーい。
私がクラスに居ない時に何回か葉流火と圭が来ていたらしいがタイミング被らなくてよかった。
あれから葉流火の連絡を、躱している。どこのクラスだ、野球部に入れ、などなど来ているがまた今度ね、と。

「網代さんも何かスポーツされてます?」
「え、なんで」
「手、マメ出来てんだろ」
「スケベ……」
「んでだよ!」

自分の手を握り込んでよよよ、と演技していると藤堂くんがキレる。揶揄うのが楽しくて仕方ない。

「野球、やってたよ」
「え、そうなんですか」
「ポジションどこだと思う?」
「あー?……セカンド?」
「違う」
「ライトとか」
「外野じゃないよーん」
「投手だ」
「違うよーん」
「藤堂くん、これではローラー作戦になります」
「ロ、なんだそれ」
「全部言っていけば当たる作戦、そらそうよな」
「ファースト、当たりですね?」
「……ちはたん性格悪いって言われない?」
「その呼び方辞めてもらって良いですか?」

妙に喉が渇いて水を飲む、そうだよと吐き捨てる様に言うとふむ、と顎に手を当てて考えはじめた千早くん。

「網代さん、どのように動けるか見たいんですけど放課後空いてますか?」
「やめて私を戦力にしようとしないで」
「今はひとつでも戦力あったほうがいいですよね、藤堂くん」
「あー」
「聞いた?今のやる気ない返事」

放課後になると2人に左右を塞がれ逃げられないフォルムにされた。
校庭が近づくにつれて、思い出す。葉流火と圭が居るんじゃないかと。

「早えな、あいつら」
「野球バカですからね、清峰くんは」
「帰らせてほしい」
「うおっ、力強くなったぞ」
「どうしたんですか、この後に及んで」
「簡単に言うと清峰と要と会いたくないので嫌です」

ばちり、もうすでにグラウンドに居た葉流火と目が合う。
あの足の長さで、歩幅で小走りでこちらに向かってきて防御反応として逃げようとするも左右の男子がそれを許さなかった。

「面白そうなので」
「人の心、どこに置いてきたん!?」
「梨沙、なんで返事しない」
「ワア、葉流火久しぶりだね……」
「返事」
「忙しくて……」
「嘘、梨沙は嘘つくとき耳触る」
「嘘!」
「嘘」
「葉流火」

面白いものが目の前で繰り広げられてます?と千早くん、横腹をどつけば目の前の葉流火がム、とする。なんでだ。

「梨沙、どこのクラス」
「俺らと同じだぞ」
「俺もそっち行く」
「来ないでください、もっと混沌としてしまいます」
「……圭は」
「うんこ」
「清峰くん、女性の前ですよ」
「俺ら、幼馴染だから大丈夫」
「なにがだよ、つか幼馴染?!網代も言えよ!」
「イーヤーヤダヤダ」
「なんで」
「だってめんどくさい」

葉流火の不機嫌な顔、久々に見た気がする。深いため息を吐く。

「分かりました、キャッチボールしませんか?網代さん」
「ちはたん話聞いてたかな」
「ファースト、セカンド、ショート。いいじゃねえか」
「何も良くないんだけど大丈夫かなあおたん」
「俺は」
「はるたん」
「うん」
「イヤ、ツッコミ不在やめて」

ずっと第三者視点で見ていた男の子が流石に突っ込んだ。山田くんと言うらしい。まともそう、良い人だ。

「待って、網代さんって……宝谷シニアに居た?」

山田くんの発言に鎮まりかえる、私は気づかれたくなくて目をふい、と下に向けた。

「居た、ファースト」
「元宝谷シニアの網代さん!捕球力が凄まじくて小柄な体格でもあるのに肩も強くて……!」
「山田くんもうやめて死にたくなる」
「梨沙はすごい」
「うるさい黙れアホ葉流火」

左右の藤堂くんと千早くんが「初めて見た気がしなかったのはそれか」「それは既視感があって当たり前ですね」と納得していてギー!と頭を掻きむしりたくなった。若干やった。

「おまたへ!ってあり?どうしたのみんな……って!ちょっと!はるちゃん!梨沙ちゃん居るじゃん!なんで?!」
「同じ学校だから」
「そう言うことじゃないっつの!!えっと、えへへ、梨沙ちゃん久しぶりだね」
「……圭も、元気そうで」
「えへー!!!」
「気持ち悪いですね」
「きめえな」
「2人とも辛辣すぎるよ」

記憶を失ってからの圭は昔の圭に戻ったみたいだった、正直こっちの方が助かる。前の圭は正論しか言わなくて肩が凝るし、多分ちょっと嫌われてる。
この圭は私と話すと緩い顔をするし、もじもじする、それがなんだか痒くってあまり話してなかった。

「梨沙ちゃん、俺も……幼馴染、なんだからさ……毎晩寝落ち電話とかしようよ!」
「距離感が幼馴染のそれじゃない、却下」
「どうして!家隣じゃん!部屋電気ついてるの知ってるんだからね!俺!」
「ごめん要くんそれ相当気持ち悪いかも」
「葉流火としてなよ」
「はるちゃん22時には寝ちゃうんだよ!?」
「圭がそうさせてるからね」
「えっ、俺ェ?!」


***


「どうして私はここに居るんでしょうか」
「さぁ」
「いたいけな女子をハメやがったな」
「その言葉の選択どうかと思うよ網代さん」

朝イチから葉流火からの着信、相手を見ずに出たら『今日必ずグラブ持ってこい』の一言。
持っていかなかったら葉流火はめんどくさそうなので素直に鞄に詰めた、圧迫感すごい。
そんであんれまと放課後になれば背後の席の二遊間にグラウンドまで誘導される、出来レースだ。

「俺らだってブランクあんだ、付き合えよ」
「……はあ、野球は嫌いなわけじゃ無いからね。良いよ」

3人のキャッチボール、千早からのボールは胸元ドンピシャに来るし藤堂のボールも捕りやすい。これが野球部渋ってたやつらかよ、と笑いが漏れた。

「はるちゃん、俺も梨沙ちゃんとキャッチボールしたい」
「駄目だ、圭は俺の球を捕れ」

その日、一日練習に付き合わされたかと思えば葉流火に入部届を書く様に促された、あーもう、入りますよ。入ればいいんでしょ。



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