※智将

朝、圭から連絡が無かった。いつもはこちらが返事をしなくともおはよう、と絵文字盛り盛りで送ってくるのに。
何かあったのかと思い練習にいく前に圭の家に行けば圭ママがもう出たわよ、と。

「圭が?」
「なんだか反抗期終わったみたい」
「……うーん、そっか、ありがとうございます」

嫌な予感がした。


***


「俺たちに、少し距離を置こう」
「距離、って何」
「近づきすぎてるんだ、俺たちと梨沙。変な考えに至る前に」
「は?」
「じゃあ、またな」

一方的に言いたいことを言って家に帰る圭を見て は? の感情しか抱かなかった。
次の日に挨拶をするも返事は返ってくる、が共に学校行くことは無かったのをみてああ、そうですか。と冷めた感情になったのを覚えている。
それを見た葉流火が焦ってしょぼしょぼしてきたが圭に見られたら言われるな、と思い学校では距離を置いた。
がそれも圭が記憶を無くす数ヶ月前の話、病室に行けば私と葉流火を見て誰?という圭に目眩がした。


***


「あ、網代さん」

練習着に着替えてグラウンドに行けば異様な光景、圭を囲んでみんなが困惑した目を向けている。

「梨沙」

その声を聞いてゾワ、と寒気。これは、前までの圭だ。

「一緒に野球してたのは、ごめん。あんたらに近づかないから安心していいよ」
「は」
「千早、ちょっと良い?バッティングについて言いたいことある」
「え、ええ、良いですが……」

圭と葉流火をまともに見ず、千早を見る。そのまま親指を立てて後ろへくい、と指差すと明らかに困惑しながらもこちらに向かってくる千早に軽く助かった。

「どうしたんですか、呼び出しなんて」
「私はあの圭に近寄るな、って言われてるんだ」

絶句、そりゃそうだろう。今までの圭を見ているとむしろ子犬のように私にまとわりついていたんだから。
私も凄く居心地が悪く、首後ろを掻く。

「葉流火も良くは知らないと思う、とりあえず練習には支障出すつもりはないから普通に圭とも練習するけど、もうお昼は一緒に行けないし、そのごめん」
「いえ、話してくれてありがとうございます。まぁ、智将要圭も思うところはあってそう言ったのでしょうが、本音はわかりませんからね」
「正直、キツイよ。隣の家の幼馴染だし、でも圭が言うなら野球に関することなんだろうし、私は女だから」
「網代さん……」

泣くまい、と顔を伏せてこめかみを抑える。軽く肩に千早が手を置いてくれるが、その気持ちがありがたい。

「戻ろう、あんまり長いと圭が気にする。ちなみにバッティングについては嘘、何もない」
「そんな気はしてました、戻りましょうか」

戻ると練習方針を決めていたのかヤマと圭が話していた、葉流火はダッシュ。ノースローと言われたのだろうか。

「梨沙、ノックするんだが」
「捕るよ、んでトスする。いいでしょ」
「……ああ」
「練習は練習、あんたが切り替えないでどうすんの」
「……そうだな」

なんか気まずい、のをヤマとか藤堂も察知してる。すごいチラチラ見てくる、見るな、特に藤堂。


***


「よし、練習終わりな。片付けに入ろう」

圭の言葉で皆が動く。あ、伝え忘れてた、と千早と藤堂の元へと行く。

「千早、藤堂」
「どうしました」
「どした」
「みんなでクラス行ってたと思うけど、私行かないから。気にしないで行って」
「おい、それって……」
「分かりました、では後ほどクラスで」
「ん、ありがと。藤堂も後で話すから」
「……わーった、後でな」

じ、と後ろに感じる圭の視線は見ないふり。私は練習だけ関われば、いいだろ圭。

「梨沙、話がある」
「……私は無い、いい?着替えるんだけど」
「……そうか、そうだよな。お前はそういう奴だ」
「なんなの?圭も授業遅れるから早く着替えなよ」

くしゃ、と少し悲しそうな顔をする圭。これじゃどっちが泣きたいかわかんなくなるだろ。
踵を返す、圭にバレない程度にため息をついた。

「……梨沙」
「うおっ、びっくりした。どうしたの葉流火」
「……やっぱり、圭と何かあったのか」
「葉流火、気にしなくていい。けど、とりあえず、私たちは練習だけで関わろう」
「えっ、なんで」
「なんでだろうね、詳しくは圭に聞いてみて。私もわかんないから」

着替えて出ると葉流火が居た、圭は周りに居ない様だったけど。
葉流火は尚のこと意味がわからないだろう、急にじゃ関わらないんで!と匙を投げられたに等しい。
願わくば葉流火が圭から理由をちゃんと聞いてほしい、けど葉流火じゃ無理、かも。


***


「んで?何があったんだよ」
「なんでここにいるの」
「うるせえ、昼どこで食べようが藤堂葵様の自由だろ」
「そうだけど……」

藤堂の前の席の子に断りを入れて椅子を借りる、藤堂と2人の昼ごはん、初めてすぎて笑いが漏れる。
藤堂は藤堂なりに考えてくれたんだろう、千早も考えていつものメンバーとご飯を食べているのだろう。

「単純に、私が圭に接近禁止令出されてるだけ」
「は?」
「圭って言っても智将の圭ね」
「いや、そりゃ、わかるけど」
「理由はわからない、私も知らない、けどほら、智将様の言うことは絶対だから」

もく、と卵焼きを口に含む。
そういえばこんなこと、話したの千早と藤堂が初めてだな。とちょっと、感情が揺れる。

「お前、それで納得したのかよ」
「してないよ、してないけど……挨拶は返ってくる、練習もする、だけどそれだけ。一定のラインを引かれ続けてそりゃ、めげるよ」
「……」
「何か考えてこう、至ったんだろうけど。説明くらいはしてほしいよね」

ぽん、と頭に手が乗る。目をぱちくりさせて藤堂を見ると、至極真面目に頭に手が置かれてるだけだった。

「我慢すんな。ま、あいつらに劣るかもしれねえけど、俺だって千早だってヤマだっていんだ。智将様はほっといて仲良くしようぜ」
「……ハハ、そうだね。そうだよね、葵にーに」
「ぐっ、お前、どこでそれを!」
「前の圭から聞いた、私も藤堂のお姉さんと妹ちゃんに会いたい」
「……わーった、今度な今度!」
「よっしゃ言質な!」

元気出た、流石世話が慣れてる兄ちゃんは違うな。と軽く笑いが漏れる。

「なんだか思ったよりも仲が良いみたいですね」
「ちはたんお帰り」
「なんだよその言い方……」
「いえー?要くんから何か聞かれましたけど、はぐらかしました。凄いですね、彼」
「何が」
「幼馴染への、執着心。でしょうか」
「葉流火だけでしょ」

ずご、と紙パックの飲むヨーグルトを吸い込む。
携帯に通知は、無い。



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