あの時は肝が冷えまくった。
なぜか炎柱の杏寿郎の任務に同行する事になった上、下弦と上弦とも戦うことになってしまった。
杏寿郎は左目と左腕をも失くし、内臓も壊したのに対し、私は肋と左腕と骨折し頭部に裂傷を負っただけだった。
共に任務に着いていた炭治郎、善逸、伊之助も負傷して戻り、蝶屋敷には怪我人が急に増えてしまった。
「杏寿郎は?!」
「寝ていますよ、梨沙さんも怪我をしているんですから安静になさってください」
目が覚め杏寿郎の気配を追って屋敷を走っているとしのぶから咎められてしまった。
案内された先には寝息を立てている杏寿郎。よかった、と力が抜けた。生きている。
「梨沙さん、部屋に戻ってください。本当は出歩き禁止ですよ」
「大丈夫です、杏寿郎が生きてる事が確認出来たから……よかった」
「名前さんが居てくれたおかげで殉職者を出さずに済みました、なのでゆっくり寝てくださいね」
しのぶから促されてベットへと横になる。ふ、と微笑んで部屋から出るしのぶの後ろ姿をぼう、と見つめる。
決めた、ずっと思っていたことだけど、決めた。
私はこうして五体満足、杏寿郎はもう、柱として戦えないだろう。
……しのぶには悪いけれど、明日早朝に抜け出して、……煉獄家へと向かう。
ごろりと寝返りを打って瞼を閉じる。…………槇寿郎さんに、殺されるかもしれないので遺書を書いておこうかな、とかぼんやり考えていたら寝ていた。
「よし!」
しのぶがいたらまじでブチ切れていた。頭には包帯、腕には添え木と三角巾。死にものぐるいで隊服を着たものの、片腕は通せないしこれ……逆に不格好では?刀ももはや腕置きだ。
しのぶは勿論、アオイちゃんカナヲちゃんにも見つかったら駄目だ。
玄関から出る事は諦めてかなり、かなり鞭を打って窓から出た。めちゃめちゃ肋が痛かった。
「千寿郎くん」
「おはようござ……梨沙さん!??!?!?!?!?!なんでいるんですか?!?!?!?!?!?」
煉獄家に着く頃にはいい朝だった。門の前で日課の掃除をしていた千寿郎くんを見つけて声をかけるも見事な二度見をされたのちめちゃめちゃ叫ばれた。
「ちょっとご挨拶に」
「あに、兄上も怪我を負ったと、聞きましたが、梨沙さんも重傷ではないですか!!!!!!なぜ動いているんですか!!!!!」
「人体の構造から説明かな?」
「もう!!!もう!!!!!」
小さくなった杏寿郎のような千寿郎くん。でも性格はもちろん違うし、千寿郎くんはとても、気が利く。もうそれはもうすごく。
「あ、挨拶にと、言っていましたが何にでしょうか?」
「槇寿郎さんに杏寿郎を娶る許可を得ようと思って」
「そうなんですか!…………そうなんですか?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?逆では?!?!?!?!?!?」
「ワハハ、いや娶るよ」
ブン!と持っていた箒を家の中に投げ込みこちらに掴み掛かる千寿郎くんを笑いながら見やる。めちゃめちゃ肋痛い。ウケる。
「ち……ちなみになんですけど…………梨沙さんは……兄上の事が好きだったのですか?」
「うん、好きっていうか……共に在るものとして何も考えていなかったよね。正直……一緒に居るのが当たり前というか、でも今回の事で杏寿郎が居なくなったら私は、駄目だと、確信したんだ……情けない事にね!」
「梨沙さん……」
「ただ杏寿郎にはなにも言ってない」
「そこ一番大事な所ですよね?!?!?!?!?!?」
ワハハ、と笑いながら顔をそらせば隊服を掴まれてブンブン揺らされる。まてまて千寿郎くん、死ぬぞ。私が。
「槇寿郎さんは?」
「自室かと……くれぐれも、無茶はしないで、くださいね!!!!」
「善処するよ」
千寿郎くんは額に手を当ててはぁ、と溜め息をついた後に家の中に入って行った。気の効くあの子だ、お茶とか用意してくれてるんだろう、いいのに。
ギ、と縁側を歩く。他人の家なのに何故スタスタと行けるのか、というのは私と杏寿郎が幼馴染み、という事もあるし幼いころから家に来ていたというのもある。
「……朝早くに失礼致します。梨沙と申します。槇寿郎様にお話させて頂きたい事がございましてお伺いさせて頂きました。どうか、お話をさせて頂けないでしょうか」
元柱の槇寿郎さんの事だ、私が敷地内に入った事も分かるだろう。
部屋の前で座り、頭を下げ口を開く。緊張する、結婚の許可だからとても丁寧な口調で話さねば。子供の頃の度胸が欲しい。めっちゃくちゃノックもなしに槇寿郎さんの部屋に入っては槇寿郎さんの上で飛び跳ねていたりした、無謀!そんな度胸がほしい!今!
「……入れ」
「……失礼致します」
襖を開ければ未だ敷かれたままの布団、千寿郎くんが定期的に干してはいるらしいが、基本的には敷かれたままだ。
「……フ、ボロボロだな」
「お見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ありません」
「梨沙、お前が改まって来たということは、何かあるんだろう」
布団の上でばちり、と視線が合う。生唾をごくり、と飲む。心臓が早鐘を打つ。
「……槇寿郎様、この度の任務での杏寿郎の怪我の程度、お聞きになられましたか」
「………左目と、左腕を失くしたそうだな」
「はい、まだ意識は戻られていません。それに比べ私は五体満足です、申し訳ありません」
「……あいつが不甲斐ないだけだろう」
「私は、この度の任務で気づかされました。私は、杏寿郎を失ったら、生きてはゆけない」
「……」
「槇寿郎様、どうか、……私めに、杏寿郎と結婚させて頂く許可を頂けないでしょうか!」
「ブッ」
あれ、堅苦しい話の筈なのに槇寿郎さんがお茶を噴いてしまった。真正面に居た私は顔を咄嗟に伏せて直撃は免れたがちょっとかかってしまった。
「すまん」
「大丈夫です」
「……もう一度いいか、聞き間違えない様にする」
「杏寿郎と結婚する許可を下さい」
「…………」
「杏寿郎を娶ります」
「……逆じゃないのか?」
「娶ります」
「そうか………」
口元を拭って額を抑える槇寿郎さん。あれ、さっき千寿郎くんもこんなのしてたよな。
「……好きにしろ」
「……よろしいのですか」
「……ここからは俺の独り言だ。お前らは勝手にするもんだと思っていたが、よもや……お前が……名前が……杏寿郎を……娶ると言うとは……よもや……」
「槇寿郎さん実をいうとこの任務のとき迄自覚してませんでした」
「…………」
再び頭を抱えてしまった。薄く開かれた目からはお前まじか、という感情が読み取れた。
「父上、梨沙さん。お茶です」
「ありがとう千寿郎くん」
「ちなみに父上」
「……なんだ」
「梨沙さんは蝶屋敷を1日で抜け出しています」
「お前……」
「シッ!」
ゴッ、とグーの拳骨を頂いてしまった。めっちゃくちゃ痛い、軽く泣いた。
「いった……」
「ところで何故梨沙さんは濡れてるんですか?」
「………………」
「槇寿郎さんが吹き出したお茶です」
「お風呂に入りましょう!!!!!!!」
千寿郎くんにお風呂にぶち込まれた。この怪我なので湯浴みは出来ないから手伝って欲しいなーーーーー頭流すだけでもーーーーーっておねだりしたら仕方ないですね、と頭流すのを手伝ってもらった。勿論服は着たままですが。
「梨沙」
頭を流してほくほくしていると槇寿郎さんが玄関で待ち構えていた。
「はい」
「悪かった」
「……何がですか?」
「俺は、杏寿郎にも千寿郎にも、梨沙にも何もしてやれなかった」
「……」
「すまなかった」
「槇寿郎さんは、いいんですよそれで!……あっ、お父様のほうがいいですか?」
「急にぶっ込むな……好きにしろ」
「僕は……えっと、姉上と言った方がいいのでしょうか?」
「は?可愛い……毎回言われると心が耐えきれないのでたまにでお願いします」
朝一に来たのに帰る頃には日がてっぺんを過ぎていた。帰る頃には夕方かなぁ、とずきずきと痛む肋を抑えた。
……めちゃめちゃ怒られるかな、と思っていたのに槇寿郎さんからは拍子抜けの快諾だったし、千寿郎くんも快く受け入れてくれたし……でも、こんだけいって、杏寿郎に振られたらどうしよう……。
そんなことを考えながら重い足で蝶屋敷へと帰った。
門前に仁王立ちの、しのぶが居たときは、泣き喚いた。怖かった。