「兄上!梨沙さん!……あっ、姉上……!」
「千寿郎くんが可愛い……心がしんどい……死ぬかもしれない……」
「死ぬな梨沙!」
「こんな事じゃ死にませんよ!……お帰りなさい、兄上」
「ああ、ただいま。千寿郎」
煉獄家に近づけば千寿郎くんがお迎えに出ていた。姉上と言われた瞬間ときめきで死ぬかと思った、しかも照れながら言う物だから死んでた。
杏寿郎が草履を脱ぐ際には私は杏寿郎の腰に手を当て支え、私の肩に手を乗せて安定していた杏寿郎。そのまま槇寿郎さんの部屋へと足を運んだ。
「父上、戻りました。杏寿郎です」
「……入れ、梨沙もだ」
「エッ!私も!?」
「名前、空気感が台無しだ」
杏寿郎が先に部屋に入る、外で待っていようと縁側に正座した瞬間に槇寿郎さんに言葉を投げかけられてどてっ、と転んでしまった。
「……よく戻った、杏寿郎」
「はっ」
「…………………すまなかった」
「…………父、上」
「ウッ……」
「お前の声で台無しだ」
頭を下げたままの杏寿郎へと投げかけられる槇寿郎さんの謝罪の言葉。その光景に涙腺がぶるっとし、口元を抑えたが漏れてしまった様だ。
「杏寿郎、好きに生きろ」
「……父上……ありがとうございます。しかし、俺は鬼殺隊の炎柱になれて良かったです。そしてこれからも、元柱として生きて、鬼殺隊へと貢献していく所存です」
「えっ、尊……」
「……少し静かにしてくれないか、梨沙」
絶対私の言葉でこの空気を台無しにしている気がする、杏寿郎にもぺちんと膝に置かれた手を叩かれ咎められた。
「そうか……。して、婚姻はどうするんだ。梨沙」
「それなんですけど!とりあえず、杏寿郎さえ良ければ婚約状態にして、入籍は後にしようかと!」
「急に早口で話すな」
「婚約なんて初めて聞いたぞ、梨沙」
「初めて言ったんで!正直杏寿郎は休養明けの元柱としての業務があるだろうし、私はこれからというかもう既に任務まみれなので当分落ち着かないと思っておりまして」
「梨沙の割にはまともだな」
「前々から思ってましたが槇寿郎さん私の事クソガキだと思ってるでしょう!!!!!!!」
「杏寿郎を娶ると言ったときの丁寧さはどこにやったんだ」
「あの場限りです、私はこれが素ですから!というか槇寿郎さんだって分かってるでしょう!」
「まぁ、そうだな」
ぐびり、と酒を一口。ふ、と微かに微笑んだ槇寿郎さんを見たのは久方ぶりだった。
「……杏寿郎?どうしたの?黙ってるけど」
「放っておけ、梨沙。茶をもってこい」
「私ですかァー?いいですけどォー、高く付きますよ」
「何がだ、さっさと行け」
ぷすぷすと口を鳴らしながら台所へと向かった。お茶と茶菓子の準備をしてくれていた千寿郎くんが洗い物をしていた。
「千寿郎くん、今日の予定は?」
「今日ですか?特に……兄上と梨沙さんが戻られるとのことなので何も入れてないですよ」
「よし!みんなでお昼寝しよ!洗濯物も、ご飯も、私もやるからさ!」
「ええっ、でも父上が許すでしょうか……」
「いいの!私が許す!よし!いこうか!」
ひょい、とお盆を片手に空いた片手は千寿郎くんと手を繋ぐ。ぱたぱたと付いて来る足音に心が躍る。
「はいお茶!……って杏寿郎どうしたの」
「父上なにかしたのですか?」
「杏寿郎が勝手に自爆しただけだ」
「……不甲斐ない!穴があったら!入りたい!」
「顔赤いけどどうしたの」
「気にするな!特に梨沙は!な!」
「こわ……そうだ、槇寿郎さん部屋開けて良いですか?今日晴天ですよ、換気しましょ!はい開けまーす!」
「承諾という言葉を調べてから動け……」
入ると杏寿郎が顔を抑えながら足を崩していた、それを見ながら愉快だと言わんばかりに酒を呷る槇寿郎さん。
部屋にどたどたと入り込み、襖を開けて行く。酷く澄んだ空気が部屋を通過する。酒臭いけど。
「千寿郎くん!ここおいで!」
「名前さんもお酒を飲まれましたか?」
「飲んでないです!はやく!ここ!」
「……しかし……」
「力技で抱き上げるよ」
「行きます!」
縁側に座り込んで自分の隣を叩く、いや、あの……と言わんばかりに戸惑って槇寿郎さん、杏寿郎を見る千寿郎くんに脅しの一手。
「えい」
「ッ、わあ!なにするんですか!」
恐る恐る隣に座る千寿郎くんの肩を抱いて自分の膝へと倒れさせた。ぱちくり、とする顔から一変して真っ赤に染め上げてしまった。
「千寿郎くんはもっと甘えていいんだよ」
「……えっ」
「私は、任務で忙しくなってしまうけど。杏寿郎も、槇寿郎さんも居るからね」
ぽそり、と千寿郎くんへ言葉を投げかける。杏寿郎と同じ髪質の髪を撫でる。
知っていたのだ、挨拶に行ったあの日。千寿郎くんの目は腫れていた。それもそのはずだ、兄は任務に行き五体不満足になってしまったのだから。
「……梨沙さん……いえ、姉上……ありがとう、ございます……。もう少し、横になっても、いいでしょうか」
「いいよ、大丈夫。家事は槇寿郎さんがやるから」
「あ?」
「ふふ、父上がですか……それは面白いですね」
「千寿郎、名前の性格になっているぞ」
ふわりと千寿郎くんの体に羽織がかかる。これは杏寿郎のだ。杏寿郎は私の横へと座りお茶を啜った。その横に酒瓶を持った槇寿郎さん。少し昇った太陽の温度が心地よかった。