少し懐かしい夢を見た、あれは日光さんが来てしばらくした頃だった。
***
「大将、どうしたんだ?」
「仕事が無いのも問題だな、と」
ぼり、と煎餅を齧る。審神者としての仕事がなく厚とぼんやりしていた。
「遠征組もしばらく掛かるし、内番もやってるしなあ。会議はこないだやってたもんな」
「そー、次は今月末かな。資料もまだだし」
「鍛刀も回してるしな、でももうすぐで終わりそうなのあるみたいだぞ?」
「大丈夫、鍛刀は博多が見てくれてるよん」
「……まぁ、大将は居るだけでいいもんな!」
「前向きに捉えたね、いいよ」
お茶を飲みながらパソコンを弄る、今日は出陣無しの日だしたまにはのんびりする時もあっていいだろう。
「主ーー!!!」
「博多?」
「何があったんだ?」
バスン!といったような効果音を立てて襖を開けた博多に目をぱちくりさせる。何が起きたと言うのか。
「やばか!早う着替えんば!」
「え、ええ?」
「何があったんだよ博多!」
「山鳥毛が顕現したったい……」
「ヒッ」
山鳥毛、その名称を聞いた時人は息を飲み込むんだな。とぼんやり考えた。
顕現したということはおそらく今席を外している日光さんの耳にも入るだろう、つまり案内を買って出るだろう。
こんなぐうたらの姿を晒したら、怒られる。
「ちょ、ちょ!和服!どこだっけ!」
「あんま着ねえから押し入れだ!」
「ええ!厚出しといて!苦し紛れに顔整えてくる!」
あとで怒られても知るかの精神で走って洗面台へと行く、悪あがきでも良いとりあえずこのぼさぼさの髪と顔を晒すわけには行かない。
「ヮ!」
小さな声にした私を褒めて欲しい、苦し紛れに化粧をして髪も落ち着かせ部屋に戻ろうとした所でかなり先に日光さんと山鳥毛さんの姿を見て声が出た。迂回するぞ。
「只今!日光さん案内してた、多分ここ最後でしょ」
「化粧したんやなあ、似合うとるよ!」
「ありがと博多、チューしてあげようか」
「いらん」
「遊んでないで着替えるぞ大将!」
ぽいぽい、と服を脱げば博多と厚が着付けに回る。私が自分でやるよりも早いだろう。もう博多と厚は私の身なりの世話をしすぎて何も感じなくなってるじゃん……。
「よし!よかとじゃなか?」
「まぁさっきよりはいいだろ!審神者っぽいぞ大将!」
「審神者だよ!」
「主、いいだろうか」
ギ、と床が鳴る。襖の向こう側には大男2振の姿が見える。
ふう、と息を吐いて「どうぞ」と答える。
「……厚、博多も一緒だったか」
「あはは、まぁ」
「お頭、ここの主だ」
「私は山鳥毛、ふむ。そうか、どうやらこの小鳥はずいぶんやんちゃな様だな」
「えっ?そんなそんな、まだ皆さんにお力を借りてますよ」
ふふふ、と上品に笑ったつもりなのだが何故かバチ、と日光さんと目が合った、粗相してないぞ。
「というか小鳥、って私の事でしょうか」
「ん?不愉快だったか?」
「いえ、珍しい呼び方だなと。お好きな様にどうぞ!なんなら名前でも……」
「……名前で良いのか?」
「え?まぁはい、別に隠してないですし。というか名乗って無いですね、私の名前は梨沙と言います」
「お頭……その、名前は」
「……ふ、我が翼がその様に表情を変えるのは珍しい。私は小鳥、と呼ばせてもらおう」
何故か日光さんが山鳥毛さんにひとこと。よく分からず頭にハテナを浮かべていたが厚や博多が深いため息を吐いていた。
「大将、挨拶回り付き合ってくるよ」
「俺も!」
「え、あ、うん」
「ではまたな、小鳥」
パスン、と静かに閉められた襖と取り残された私と日光さん。え、日光さんも残ったの。なんで。
「主」
「は、はい」
するり、と襟に手を伸ばされる。急に近づいた日光さんにドッと心拍数が上がるのが分かる。
「少し緩んでいる、急いで着替えたのだろう」
「……バレましたか」
「薄く化粧も施しているな」
「どうせバレるけど、初対面くらいは……ね」
「……名前は、気安く呼ばせない方がいい」
「……今更じゃない?でも、抗えるよ」
「俺が、……あまり好ましく無い」
キュ、と整えた襟元。同時に私の顔に掛かった日光さんの髪の毛に気づき顔を上げるとあまりの近さと顔の良さに聴こえるんじゃ無いかというくらいの心拍数が。あの、その。
「ッ」
「……すまない、戯言だ」
「わか、わかった。……でも、日光さんは呼んでよ」
「……ああ、了解した。それを許してくれるのであれば俺は好んで呼ぼう」
「あと待って顔と声が良すぎて心臓出そうなので離れていいですか」
「駄目だが」
「は?」
パチリ、と思わず属性が漏れ出た。
緩く楽しそうに笑んでいるような日光さんと目が合い私はかなり唸り声を上げた。
***
「小鳥よ起きているか」
「……え?!今日の起床担当山鳥毛さんなの!?」
「ああ、それと我が翼が呼んでいてな、行ってくれるか」
「了解です!ああ、あとおはようございます!」
「……おはよう、小鳥は今日も元気だな」