01

自分の体に流れ込む、優しくて暖かい力。
その力に心地良さを感じて、「彼」は人の形を得て顕現した。
ゆっくりと目を開ける。
視界に入ったのは自分が顕現した直後に、舞った桜の花びら。

自分を顕現したのは審神者だろう。
刀剣男士を顕現できるのは、人の形を与える事ができるのは審神者だけである。
そして彼は顕現した際に必ず口にする台詞を、自身を顕現した審神者に向けて告げる。


「僕は歌仙兼定。風流を愛する─────」


自身を顕現した審神者はどんな人物だろうか。男だろうか女だろうか。歌仙としてはどちらでもいい。歴史を守る事さえ出来れば、刀剣男士としての使命を果たす事が出来れば何だっていい。

だが今後共に過ごす主なのだから、仲良くはしたい。歌仙はそう思って審神者に視線を向けた。そして文字通り言葉を失った。


「……はじめまして、歌仙兼定様。貴方を顕現した審神者のなまえと申します。今後とも宜しくお願い致します」


ぺこりと頭を下げるのは自身を顕現した審神者。さらりと肩から彼女の、毛先までしっかりと手入れされている長くて美しい髪が落ちる。
目の前にいたのは、自分よりも一回り以上も小さい少女であった。その腕には政府から支給される管狐が優しく抱かれている。


「あ、ああ!宜しくね主」


歌仙は歓喜した。
まるで精巧に造られたお人形のような、この世のものとは思えぬ程に美しい少女。
そんな美しい少女が自身の主。
恐らく自分は顕現された分霊の中で最も恵まれているだろう。何せこんなにも美しい少女が自分の主になったのだから。



「 無事に顕現できましたね主様! では次は出陣を─── 」
「 出陣? 」


少女の腕の中にいる管狐は、無事に刀剣男士を顕現できたことに嬉しくなり、次に出陣してみたらどうかと提案しようとする。
しかし、それに待ったを掛けたのは歌仙兼定であった。
管狐はどうしたのかと首を傾げながら、待ったを掛けた歌仙の方に視線を向ける。


「 ? どうしましたか歌仙様 」
「 今、君は出陣と言ったか? 」
「 ええ、初期刀を顕現したら次は出陣と決まっていますので… 」
「 彼女を1人置いて、僕が出陣? 彼女を1人に置いておくなんて出来る訳がないだろう! 女中は居ないのかい? 」
「 ………………はい? 」


思わず管狐…こんのすけの思考は停止した。
女中?え?何言っているの?
しかし目の前にいる歌仙の目は本気だった。
ま、マジで言ってやがる……。
慌ただしく周囲を見渡して、他に誰か居ないのかと探し出す歌仙に、こんのすけは唖然とする。


「 え、えっと…歌仙様、今この本丸には我々しかおりません。そもそもここは始動したばかりですし… 」
「 この約立たず! 」
「 約立たず!? 」


会って間もない刀剣男士から約立たず呼ばわりされた、こんのすけは 毛を逆立ちさせた。
何故人の形を得たばかりの分霊にそのようなことを言われなくてはならないのだ。


「 その身なりからして彼女はそれなりの地位にいる姫君なのだろう。だというのに女中が1人も居ないとは! 僕の主に対して失礼過ぎる! 」
「 そ、そんなことを言われましても…… 」


姫君とは何ぞや。
そりゃあ、とんでもなく綺麗な少女ではあるけれど、戦国時代の姫君ではない。
まぁ父親や兄上が政府でもそれなりの高い地位についているけれど。過保護な家族に囲まれて、少女自体は少し世間知らずな女の子である。

あれ?歌仙兼定とは、こんな刀剣男士だったか? 他の本丸にいる歌仙兼定は何かと「風流」を好み、戦だろうと何だろうと「雅」という、よく分からん美学を求める刀剣男士。
まさか彼女の容姿に「雅」を感じてしまったのか?そんな事ってある?亜種にも程がある。



「 女中が居ないとは…! 姫、とりあえず新たな仲間を呼ぼう。君が1人で、この広い場所にいるなんて、僕は胸が張り裂けて居ても経っても居られない 」
「 …歌仙様が仰るなら 」
「 様付けなんてとんでもない! 僕のことは兼定と呼んでくれ、君はここの姫なのだからね 」
「 うん 」

「 ……………。 」


ついに主ではなく姫と呼ぶようになった。
本来ならば出陣して、初期刀が真剣必殺を繰り出して、手入れのことを学んで〜からの、鍛刀という順番になるというのに。
鍛刀に至るまでの順序を、この文系打刀は容赦なくすっ飛ばした。
しかも、こんのすけの事を普通に無視して、そのままなまえに寄り添いながら部屋から出ていった。

その際、彼女の腕の中にいる こんのすけの事を睨み付けてきた。
めっちゃ怖かったので、こんのすけは 体を震わせた。


鍛刀場に向かうと、鍛刀の妖精が待っていた。
小柄で可愛らしい妖精。
妖精達は本丸の主である少女と初期刀を見るなり、パタパタと足元にやって来る。
何やら疲れた様子の管狐が見えたが、妖精達の優先すべきことは主からの命令である。


「 ふむ。まず最初は短刀辺りに狙いを定めてみようか。短刀は守り刀という意識が強い、きっと姫を守ってくれるだろう 」
「 では各素材を50に設定して…… 」
「 ( もう何も言うまい ) 」


鍛刀する為に素材をセットしていく少女と初期刀。こんのすけの目は白目になっていく。
まず初めに目に入ったのが素材である。明らかにあの量はおかしい。鍛刀場が覆われる程の量である。初心者に与えられる量を普通に凌駕している。
資材は政府がそれぞれ与えている筈。そして成績によって与えられる量は審神者ごとに異なる。まだ就任してから初日だというのにこの量はおかしい。明らかに上からの圧があるぞ、これ。

資材がセットされて妖精達はパタパタと動き出す。そんな愛らしい姿に、なまえは可愛い…と小さな姿で呟いた。可愛いのは君だよっ!と歌仙は叫びたい衝動に駆られた。


「 乱藤四郎だよ。」