今寝てたところなの


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退役の理由

チッーーーー。
電光石火の剛腕が僕の頭を掠めた。
しかしその瞬間、マンティスが苦悶の表情を見せる。
マンティスの突進の力を利用し、その腹に短剣を突き刺したのだ。
敗北を悟ったか、マンティスはあさっての方向に走り出す。
背を向けたな...!
相手の劣勢を理解した僕は足腰に集中し、跳躍スキルを解放した。
そして力強く大地を蹴った。
すると先に走り出したマンティスが一瞬で僕の間合いに収まる。
僕は空中で回転しながら、腰から引き抜いた剣でマンティスを両断した。
よし、ノルマ達成ーーー。
「さすがです!」
少し遠くから妨害用の魔法を唱えていたアキちゃん(アキト)が走りよってきた。
「ありがとう、アキちゃんの魔法のおかげやね」
「いえ、コウさんの熟練の技のおかげですよ」
無事に首級を上げた2人は、討伐隊キャンプへの帰路についた。
「自分はマンティスのタックルを避けられる気がしないです」
「僕にできるんやからアキちゃんも慣れたらできるよ」
「ええ...」
アキちゃんは先ほどのマンティスの突進を思い出し、恐怖に怯えた。
魔法でマンティスのスピードは遅くなっていたものの、人が命を落とすには十分な速さだったからだ。
それを避けながらマンティスに深手を負わせるには、相応の経験が必要である。
アキトには、コウが討伐隊のような民兵でいるよりも、王国の兵士として人事を受ける方が良いように思われた。
「軍を退役されたのには何か理由があるのでしょうか?」
「うーむ。国を守るために働きたいって理想を持って入ったんやけどね。軍にいた頃、日常会話の大半がしょうもないギャンブルの話と好きでもない水商売の女の話だったんや。そんな上司に顎で使われてると思うと悲しくてな...当時は王国に敵らしい敵もおらんかったし。そういう理想と現実のギャップが、本当に嫌やった」
「そうでしたか...思い描いていたことと全然違っていたのですね...」
凱旋中だというのに暗い話をしてしまった。
王国軍の一員として各地を巡衛できたのは、それはそれで良かった。
仕事でもなければ行くはずのなかった地域に行くことができたからだ。
それに、軍隊で一心不乱に汗を流したことはこの副業に繋がっている。
「アキちゃんの地元ってクレやろ?クレにも駐屯してたよ」
「えっ!どうして分かりました!?」
「他の子と方言で喋ってるの、見てしまった」
「お恥ずかしいです」
話題が変わったことに僕は安堵した。
アキちゃんの穏やかな顔つきは、クレの静かな海を思い出させる。
荒波を眺めるのも楽しいが、静寂をたたえたクレの海でぼーっと立つのが僕は好きだった。
人に褒められるような地位も、街で遊ぶだけのお金も、僕の話をうんうんと聞いてくれるような友達も...若い頃の僕にはなかった。
自分に何もないことが分かると人が離れてしまうのではないか...そう思うと怖くて背伸びばかりしていた。
クレの海はそんな僕をただ静かに見守ってくれていた。
安心感。
あの頃、きっと僕は安心感に飢えていたんだと思う。

―――――――――――――――――――――――――

勝利を祝う

「ひーちゃん格好良かった〜!」
「せやろ?ってかあいつの動き直線的すぎんねん」
異国の可愛い女性がコップを片手に姐さん(ヒロ)と盛り上がっている。
小柄で目鼻がくっきりとしていて、金色の髪もサラサラで美しい。
一方姐さんは西部第七討伐隊の隊長をやっている女傑で、筋肉質でスレンダーな体、切れ長の目で眼光が鋭い。
僕もよくお世話になっている。
姐さんが調理師として働いている宿屋に泊まったとき、僕が元兵士であったことを見抜かれた。
それを機会に討伐隊に誘われるようになり、仲良くなった。
「お?これコウさんの幽霊?」
姐さんがこちらを見るなり声を掛けてきた。
「僕は死んでない!ちゃんとマンティス1匹倒したよ」
「うそやん、アキトが倒したんやろ」
「いや僕がやった!!」
僕をイジると気が済んだのか、姐さんはアッハッハと笑っている。
「それより隣の女の子は誰なん?べっぴんさんやね」
「あ、こんばんはチコです...コウさんですよね...伺っております。それにアキトさん」
声が少し小さい。
「えっ僕のこと知ってるん?」
「はい、ひーちゃんがいつもコウさ...
「オイ!!!」
チコちゃんの声は姐さんの大声でかき消されてしまった。
「わ!ご、ごめん...」
「姐さん、そんな怒鳴ることないやろ」
「うるさいボケ知らん」
ふん、と鼻をならして姐さんがその場から去る。
「ひーちゃんごめんってば...!待って...!」
チコちゃんがこちらに会釈しながら姐さんを追いかけていく。
姐さんの怒りのポイントはよく分からんなあ...
それにしてもあんな子いなかったような...?
「チコさんは共和国から逃げてきたみたいで...ヒロさんに懐いているのか、最近よく一緒にいるみたいですよ」
後ろで見守っていたアキちゃんが僕に声をかける。
「そうなんや...それは不憫やったなあ」
「ええ...9.4は本当に...チコさんはいかにも戦闘とは無縁という感じなのに...」
「うん。無理してないか心配やね...僕に何かできることあるやろか」
「討伐は明日で終わりですし、ヒロさんについていきます?」
「分かった、そうしよか」
「では、探すのが大変になりますけど、4人で2匹やりますか?」
「うん、それやったら姐さんも頷いてくれるかも」

―――――――――――――――――――――――――

「なぁ、今日姐さんのチームに混ぜてくれない?」
「はあ?コウさんノルマはどうすんの」
「4人で2匹倒すのはどう?」
「私らも2倍動かなあかんやん。コウさんの担当区域、私らのとこから遠いやんか」
「頼む、みんな疲れたら後は僕1人でなんとかするから」
はぁ...と姐さんが軽くため息をつく。
「まあ私はいいぜ。ちーちゃん、どうする?」
「えっ...。不束者ですがよろしくお願いします!」
チコちゃんの元気な返事が返ってきた。
「まあアキトもおったら安心やな。行くぞ」
僕とアキちゃんは顔を見合わせ、姐さんに頭を下げた。

―――――――――――――――――――――――――

風の歌

討伐隊は1〜10人ほどからなるチームに分かれ、それぞれのチームは指定された区域で討伐対象リストにあるモンスターを探索する。
姐さんのチームに割り当てられたのは山の中腹にある草原地帯の一画だ。
討伐リストにあるモンスターを探すため草原を4人で歩く。
最初は朗らかな風が吹いていたが、歩いているうちに段々と風が強くなってきた。
「今日は荒れますかね?」
「うーん、どうやろ...晴れてるけどなぁ」
「アキトは晴れ男やけどな、コウさんは...」
おい、姐さん何が言いたいんや...
そう言おうと口を開いた瞬間、一段と強い風が僕達の間を駆け抜けた。
「お、風のエレメントか?ちーちゃん頼んだ」
「ほんとだ!すごいね!了解!」
僕には見えないが、どうやら近くにエレメントがいるようだ。
姐さんはエレメント見えたっけ?
チコちゃんは少し下ったところにある大きな岩に向かって駆けていった。
ん?何か不思議な音が聞こえる?
3人がチコちゃんの近くに寄ると、チコちゃんは草花を微かに揺らすほどの暖かく心地良い声で歌い始めた。
「何してはるの」
僕は小声で姐さんに話しかけた。
「ナンパ中だぞ、お静かに」
ナ、ナンパって...エレメントを...?
チコちゃんは歌うのを辞めて、耳を傾けている。
ふわり、と葉っぱが上空を回った。
「prdwiejさんが上空からモンスターを探して下さるそうです」
「「え!?!?」」
今何て??パーリージ?ジョウークウーカラー??
先ほどの歌の余韻か、普通の言葉まで歌の旋律に聞こえてしまう。
僕の耳はおかしくなってしまったんだろうか。
姐さんが戸惑う僕とアキちゃんを見てニヤニヤと笑っている。
今度はささーと風が山を駆け、かたかたと地面に落ちている葉っぱが鳴った。
「この山を登ったところの草むらに大きな鳥獣型モンスターが1匹、近くの谷に多分、マンティスが1匹います」
「エレメント様様だな、ありがたい。」
平然とする姐さんはこういう光景を何度も見てきたのだろうか。
「お礼は一緒に風の歌を歌ってくれたらそれでいいって!」
「??分かりました」
僕は戸惑いを隠せない。
エレメントとは一体...というかチコちゃんはなんでエレメントと会話できるんだ!?
色々と疑問はつきないが、今は歌おう。
しかしだ、風の歌って何だよ。
少し間を置いて、チコちゃんが明るく軽快に歌い始めた。
姐さんはそれを器用に拾って調子を合わせている。
僕とアキちゃんは風の歌というものがよく分からないままチコちゃんの歌声を追ったが、変にならないように必死で...僕の歌はもはや棒読みだ。
ごおお、さらさらさらさら...
草が擦れる音もいつもより大きく感じる...もしや僕もエレメントと話せているのかな、と神妙な気持ちになった。
エレメントは一体どんな話が好きなんだろう。
「何してる、行くぞ」
姐さんの声で僕は我に返った。
「スマン、余韻に浸ってた」
「コウさんの担当区域に近い谷の方に行く、ちーちゃん案内よろしく」
「はーい!」
チコちゃんはエレメントに大体の場所を教えてもらったようだ。
ついて行こう。
「チコちゃんは風のエレメントとどういう関係なん?」
誰もが思ったであろうことを聞いてみた。
「分かりません...物心がつく前からエレメントと会話していたみたいなんです。風はお喋りな子が多いかな...闇は静かな子が多いやも...」
姐さんの耳がぴこ、と動いた。
どうやら今のは初耳らしい。
「闇なんているんや。僕はエレメント見えんから...」
アキちゃんは自分も、と言わんばかりにこくこくと頷いた。
「わたしも目を凝らすとうっすらと見える気がするくらいなので...」
「見えてるわけじゃないんや」
「はい...」
「じゃあエレメントは何を食べて生きてはるの?」
「あ、さっきの子は歌を食べていましたよ」
「え!?歌を!?」
「歌...というより信仰なのかなあ」
「信仰???」
全然理解できない。
信仰を食べるモンスター?
歌は信仰?
エレメントは神様か何かなのか?
「もしいなかったら恐ろしいと思うことはない?」
しまった、ついタブーかもしれないことを聞いてしまった。
「ないかなあ...ってかいるのー!マンティスの場所教えてもらったでしょー!」
たんたん、とチコちゃんは地団駄を踏んだ。
ふと姐さんを見ると、どうでもいいとばかりにあくびをしていた。
「姐さんはいる派よな、1番先に気付いたし」
「知らんよ。いるかなと思っただけ」

―――――――――――――――――――――――――

空を走る短剣

この辺のはずだけど、とチコは立ち止まって谷底を見下ろした。
深さは30mくらいだろうか。
4人の位置から谷底が一望できた。
谷を徘徊するマンティスの緑色の背中が見える。
「私がやる。アキト、1つめの短剣を投げ終わったら、もう1つを磁石にしてくれ」
「分かりました」
ヒロは短剣を左右の手に持ち、少し腰を落としてゆっくりと投擲のモーションに入る。
重心を少し左に寄せ、そして静かに息を吐いた。
その体から発せられる気が、周囲に強い圧迫感を与える。
モーションを緩やかに止めたヒロは大きく息を吸って専心スキルを解放した。
ヒロの体が一瞬赤く光った。
刹那、ヒロはステップを踏みながら腰をわずかに回転させーーしなる左腕から短剣を投げ下ろした。
すると短剣は美しい曲線を描き、マンティスの首元に吸い込まれるように突き刺さった。
投擲の瞬間を目に焼き付けたアキトは、ヒロの指示通りスペルを唱える。
光魔法ーー磁力強化(オプティックマジックーーエンハンスマグネティク)!
アキトの詠唱に呼応するように短剣の剣先が光を帯びた。
スペルを聞き終えたヒロは先程よりやや雑に、しかし力強く短剣を放り投げる。
短剣は鈍い光を放ちながら、マンティスの首元へ向かう。
それを察知したマンティスが少し首を低くしたが、短剣は急激に軌道を修正しマンティスの首を落とした。
それと同時にアキトは急激な疲労に襲われふらついた。
...が、ふらついた時には既にコウが肩を貸していた。
「すごいー!!」
チコちゃんは眼をキラキラ輝かせながら姐さんとアキちゃんを見ている。
「さすが、一瞬やったね」
「私格好いい?」
ヒロは嬉しさを抑えきれない様子だ。
「すみません、体力がなくて...」
「いや、アキちゃんはようやった!!残りは僕がやる!」
アキちゃんが次戦で戦えないのは痛いが、何とかなるだろう。
「私の非常食やるよ、これで精をつけろ」
姐さんがポーチからドライフルーツを幾つか取り出した。
「ありがとうございます...」
アキトは自分の好きなラズベリーのドライフルーツを手に取り、おもむろに口に入れた。
「甘酸っぱいですね...」
食べていない僕の口にも酸味が広がってくる気がする。
姐さんはニヤリと笑って言った。
「これが青春だ」
えっ、姐さん...?
「青春って」
チコちゃんはケラケラと笑っている。
「じゃ、頭をとってくる」
ヒロはそう言い残し、絶命したマンティスの傍らに歩み寄った。

―――――――――――――――――――――――――

エセリアル

谷から徒歩で2時間。
一行は僕の担当だった区域に到着した。
正午を過ぎ、日没まであと4時間ほどしかない。
索敵を速く済ませるために一行が高所に登ろうとすると、姐さんが何かを察知したようだ。
「じめじめするな、リストでは…まさかエセリアルか?」
「湿気出てきたねえー...」
エセリアルか...触手に強力な毒をもち、カウンター系のスキルを使用する、と討伐リストに書いてあった。
「もしかするとマンティスより大変やけど、これでノルマ達成しよか」
僕は少しびびっているが、王国を脅かすモンスターを放置するわけにはいかない。
「いいよ」
ヒロが頷く。
アキちゃんとチコちゃんは姐さんが頷くのを見て「はい」と答えた。
「湿気の方向はこっちかな」
姐さんが先導してゆっくりと歩き始めた。
僕達はそれについて行く。
「ん?おるね」
前方80mほど先の木陰でふわふわと漂っているエセリアルを発見した。
「やはりか...近くならコウさん、遠くなら私が投げてコウさんでガード...」
僕でガード!?
驚いて姐さんの顔を見ると、姐さんはやれやれといった感じで続けた。
「いやあいつな、短剣投げたら投げ返してくんねん。近接戦闘やと猛毒の触手にぶつかるしな。めんどい」
エセリアルは華奢な体をしているが...触手で短剣を投げ返してくるというのだろうか。
「コウさんは何mなら私が投げた短剣防げる?」
「えっ...うーん...20は欲しい」
「了解、じゃあ私とコウさんはそこまで近付こうか。ちーちゃんとアキトは私たちの20m後方で待機。そこならもう短剣は当たらんはず」
「はーい!」
「分かりました」
4人はヒロが指示した配置についた。
エセリアルは休息しているのか、漂っているだけで動かない。
「コウさんは私が短剣投げたら防御スキル準備して私を守ってね」
「了解!」
「クソ速いの返ってくるから、投げた瞬間に私の前に立つくらいで頼む」
「あい」
「行くぞ」
ヒロは左手で大きく弧を描きながら短剣を思い切り投げた。
ビッ。
指と短剣の持ち手の擦れる音が鳴り響く。
僕は姐さんを守るため、地面を思い切り蹴って前に出た。
...短剣は鋭い音を残しながら、エセリアルの傘を切り裂ーー?
カァン!
な、何に当たった!?
乾いた音が響くと、エセリアルの傘は一瞬青く光り、短剣をこちらに向かって弾き出す!
触手で投げるわけじゃないんか!
コウは一気に集中力を高め、背中に付けていた木製の盾を前に構えながら吸収のスキルを解放した。
コウの体はエセリアルと同じ青に光る。
短剣はしゅるると回転しながら、凄い勢いで盾に刺さろうとしている!
ドッ...
コウは衝撃の瞬間にすい、と後退し緩衝の動きを取った。
すると短剣は盾に刺さりもせずポトッと地に落ちる。
ドン...
「あっゴメン」
「おい...寄るな変態...」
どうやら僕は下がり過ぎたようだ、姐さんが僕を抱える格好になった。
僕は慌てて姐さんから離れた。
その瞬間、後ろの2人の歓声が届いた。
エセリアルの傘は真っ二つに裂かれていた。

―――――――――――――――――――――――――

討伐隊のキャンプでは慰労会が行われていた。
「3日間にわたるモンスター討伐お疲れ様でした。
無事に終えられたことが何より幸いです。
討伐が円滑に進むようご協力くださった皆様に感謝します。
では、王国の平和を願ってかんぱーい!」
コップの音があたりにこつこつと鳴り響いた。
松明がゆらゆらと燃え、木々を染める闇が僕達を覗き込んでいた。
目の前に座ったユキヒロという中年男性は初めて討伐隊に参加したらしい。
「コウさんはもう討伐隊に参加されてから長いのですか?」
「そうですね。王国に新型のモンスターが現れてすぐに討伐隊に参加しましたよ。でもこの第七討伐隊ではなくて、他の討伐隊を転々としておりました。」
「おお、それはご立派で...。私は運送業をしておりまして...1日家を空けるのも難しかったので。討伐隊は高給ですから気にはなっていたんですけどね」
「なるほど。僕は農業してます。そちらの収入よりもこちらの方がずっといいので家族も喜んで送り出してくれるんですよ」
ユキヒロさんが大きくうんうんと頷く。
「まあ、王国のために働けますし...討伐隊でしか会えない素敵な人もいてそれが何よりも良いですかね」
今の僕があるのは討伐隊で出会った人々のおかげだ。
「ふむふむ。私は討伐隊って、みんなでわーっと行ってガッと倒す、みたいなものを想像していたんですけれども」
「僕が参加したての頃はそうでした。今は強い人も沢山参加していて、安全を確保しながら合理的にやるって感じに切り替わりましたね」
「無理難題...みたいなものはないんですか?」
ユキヒロさんは明らかに声のトーンを落とした。
「ありますよ。功績が王国に認められれば個人宛に依頼が来ることもあります。まだ誰も達成していない依頼もあると聞いてます」
僕もユキヒロさんのトーンに合わせた。
「挑戦されたことはありますか?」
「いえ、死者が多数出ておりますので割に合わないと思っています」
「やはり...最近も高名な剣士様が亡くなったというニュースがありましたけど...」
「十中八九、高難度の依頼を受けられたのでしょうね」
「では閉鎖中の共和国に赴く依頼も...」
「絶対にあると思ってます。僕のところに来たことはありませんが」
「私は...。」
僕は何かを察した。
「...もしやユキヒロさんは共和国に行きたいのですか?」
「はい、共和国に仕事の取引先があったのですが...そこに私の友人もいて...安否を確認したいんです」
「諸国に出回っている難民のリストには...?」
「...。」
ユキヒロさんは顔を軽く横に振って俯いた。
「何か情報を得ましたらお伝えします、ご友人のお名前を教えて頂けますか?」
その日は情報交換のため、僕は多くの人と話した。

―――――――――――――――――――――――――

9.4

共和国沿いの山岳地帯に野営地を張っていた僕達は、監視役の軍人に別れを告げ、行きと同じ馬車で王都へ帰還することになった。
マンティスのような陸地のモンスターがここに現れたということは、既に共和国中に陸地のモンスターが広がっていることを意味する。
9.4について僕が知っていることはこうだ。
これまで派遣された調査隊はほぼ全滅、1年前に満を持して送られた多国籍軍は激しい戦闘を繰り返し2週間ほど耐えるも戦死者多数により撤退。
多国籍軍は成果として震央の位置、新型モンスターの出現、残存共和国民の救出、9.4前後における地形や集落の変化などを報告した。
その中で諸国を震え上がらせたのは、ラーヴァナと呼ばれる体長5mを超える新型モンスターとその手勢である。
手勢の数は最低でも1000を超えており、その構成員はラークシャサと呼ばれている。
ラークシャサは強力なスキルと魔法を使用し、チャクラムと呼ばれる円形の刃物を使い、近距離も遠距離も隙がない戦いをするらしい。
多国籍軍との交戦内容から各個体が世界級であると評価を受けている。
ラーヴァナについてはスキルや魔法、武器の使用を確認されていないが、明らかにラークシャサを指揮していたという。
そしてラーヴァナもラークシャサも他種族を捕食するようだ。
また、ラークシャサは神域と呼ばれる特定のエリアからは出ないとされ、神域は9.4の震央を中心として半径約200kmのほぼ円状に拡がっていると推測されている。
多国籍軍により、ラークシャサを神域から無理矢理出すと10秒ほどで消滅することが確認されている。
そこで多国籍軍は神域の外部まで後退し遠距離からラーヴァナ軍を狙う作戦に出たが、神域外部に存在する強力なモンスターとも交戦することになり壊滅した。
神域外部には神域から避難したと思われる新型モンスターが大勢いて、神域内よりも多様性に富んでいる。
9.4により異界とこの世界を結ぶ扉が開いたと見られているが、新型モンスターはこの扉からの来訪だと考えられている。
また、9.4の発生については自然発生説が主流だ。
陰謀説もあったが、現時点では誰も利益を得ていないため否定の論調が強い。
震央は建物の崩壊度が他の地域よりも高く、地形が半球状に大きく凹んでいて、そこで何かが起こったことを示唆していた。
そして共和国はほぼ無人になり、共和国民の大半は難民として周辺国に散らばっている。
震央が人口の集中している首都から離れた場所だったため、国民の大部分は犠牲にならずに済んだが。
しかし、対応にあたった共和国軍は...未知の脅威にあえなく殲滅されてしまった。
ここまで凄惨で悲しい話ばかりだが、それでも僕にとって心踊るニュースが1つある。
連邦のロボット開発の権威であるブライトマン博士が、対新型モンスターのロボットを開発し現在試運転中だというのだ。
連邦の出資企業により公表され、試運転中の姿をお披露目した。
機体名はL-03らしいが、とても可愛らしい女性の姿をしているのに名前があまりにも無機質で無遠慮、という連邦国民の批判を浴び、名前を募集することにしたらしい。
L-03は高出力で物理系のスキルを再現でき、なんと魔法も使えるというのだ。
なんてカッコイイんだ!!
さらに噂では、剣の達人と斧の達人の動きを再現できるらしい。
おお、現代のサムライ!!
さらにさらに噂では、戦闘補助役もこなし治癒魔法を備えているらしい。
絶対に見たい。
...そして僕は先行して開発されたであろう二代目が凄く気になる。
初代は、非常に危険な作業を人間に代わって行うロボットとして開発され、建設業界で現役だ。
二代目は初代をベースにラークシャサとの戦闘用に開発されたが、発表時に巷を賑わせただけでその後実戦に耐えられないのではないか、というニュースと共に人々の関心から消えてしまった。
もし仮にそうだとしても二代目だって活躍の場はあるはずだ。
後継機より劣る部分があるのは、開発だから仕方がない。
しかし本当に好きなら劣った部分も愛しいと思えるものだ。
いずれ二代目も三代目も、この目に焼き付けてやるからな。
...僕は心でそう固く誓っていた。

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