およそ8年毎に、新規の違法薬物ドラッグが頂点に君臨する。コカインはヘロインへと移り変わった。ヘロイン以降もメタンフィタミン等、次から次へと新たな違法薬物ドラッグが出回っている。麻薬取締部のデータベースから、次に蔓延するのは、シャーキヤだと算出された。
 シャーキヤは、日本最大の犯罪組織どある梵天が取り扱い始めた違法薬物ドラッグで、流通量は少なく、ディーラーも灰谷兄弟の2人と少ない。麻薬取締部は、蔓延前に止められる条件が整っていると判断した。

 経済モデリング理論を用いて、少数の買い手を配置することで、市場を撹乱するのだ。撹乱により、需要を抑制するのである。マーケティングでは、ブランド汚しと呼ばれる手法だ。
 例えば、毎日行くたい焼き屋があるとして、店に行く度に、値段が上がるのに、サイズは小さくなる。皮はどんどんペラペラに、餡子はスカスカになるのだ。それが我慢の限界に達すると、店に行かなくなる。其処に、悪評が口コミで広がり、店が潰れるのである。
 要するに、買い占めにより、末端価格が上がり、次の材料が届く頃には、客の殆どが既に離れているのだ。

 わたしは、そのブランド汚しの為、この3年違法薬物ドラッグの世界に潜入してる脇役モブの手を借り、梵天へと対峙することになった。女性だから、と言う理由での抜擢は不服だけれど、実力で選ばれる程、勤続していないもの。仕方ないよね。

 脇役モブが、灰谷兄弟の弟である灰谷竜胆に椿を買い手として紹介する約束を取り付けた。
 竜胆の指定場所は、駐車場であった。ボディコンシャスなリトルブラックドレスを見に纏うわたしには、些か肌寒いと感じる。
「竜胆さん、こちら椿」
「本題に入りましょう。100kg欲しい。純度は」
「ストップ。此処じゃあ、駄目だ」
脇役わきえきに対して、「どういう事」と詰め寄る椿を、竜胆が宥める。
「カッカすんなよ、じっくり話がしてェだけだ」
「身体に触りたい、と言うならお断り」
「此処はヤバい。シャーキヤはほぼ兄貴が仕切ってるからいねェ所で話進めると、機嫌悪く何だよ。察してくれ」

脇役わきえきは「こんな事で物別れなんて勿体無い。寒いだろ、竜胆さんとドライブしようぜ」と乗車する。
椿は、考えるフリをしながら、見守る上司ボスがいる方角に視線を合わせる。「乗るな」と動いたことを読み取る。「どうする?」と問いかける竜胆がドアを開けた後部座席に、叱責を受ける覚悟を決めて、渋々乗り込んだ。

六本木にあるクラブの裏口に到着した。降車した途端、竜胆を出迎えた下っ端に、椿は肋骨から腰骨にかけてボディチェックをされる。
「ちょっと、身体に触るなって言ったでしょう」
「椿は大丈夫だ、安心しろ」
「いや、ちゃんと自分で調べないとなァ?初対面だ。コイツ脇役の紹介がなかったら、会うこともない」
脇役わきえきが擁護するが、竜胆は椿に対する警戒を解かない。
「そろそろ私の話をよく聞いてくれる?仕事の話をしましょう。地方にいる私の仲間が出来るだけ多くのシャーキヤを手に入れたがってる」
「今は品薄なんだ」
脇役わきえきから聞いたわ。だから、今の相場に5割上乗せで買い取る」
「5割か…、わかった。オレが所持する30kgは売ってやるよ。後は、兄貴と交渉しろ」

裏口から入店すると、腕を組んだ蘭が壁に凭れて待っていた。
「兄貴、紹介する。椿だ」
「イイ女じゃねーか、お高く止まってて」
「オイ、兄ちゃん。失礼だろ」
お前脇役は、此処までだ。店の外で待ってろ。来い」

蘭と会話をしながら廊下を進み、部屋に通される。
「地方から出て来たんだって?」
「そう」
「田舎は嫌だわ、美味いモンブランねェだろ」
「なら、ご招待しません。安心なさって」
スラックスから取り出した銃を利き手に持ち、ソファへ腰掛ける蘭を見ながら、椿も向かいのソファに腰を落ち着ける。
「シャーキヤ、今手に入るだけ全部売って欲しい」
「何で売る義理がある」
「お金になるだけじゃ不満?いつもの値段よりずっと高く買い取るわよ」
椿は、ハンドバッグから取り出した煙草に火を点けながら、話を進める。
「だから、其方も私と取引するつもりが有るのか無いのか、明確にして頂戴。で、どうする?」

「服を脱げ」
「ふふっ、そこまで必死じゃないわ」
徐に銃の安全装置を外す蘭に、椿は笑顔で宣う。
「取引の為じゃない。オレが脱げって言ってるからだ。それに、銃もあるぜ。ホラ脱げよ」
銃を振って見せる蘭に、椿は立ち上がり服を脱ぎ、下着姿になった。
「回れ」と、その場でゆっくり一周すると、立ち上がった蘭が、銃をスラックスに戻しながら、椿に近寄る。正面まで来ると、肩を撫でるので、思わず後退りした。
蘭は、ゆるりと脱ぎ捨てたドレスを拾い、入念に確認をする。
「マイクは付けていないようだな。近頃オレを嗅ぎ回るネズミが居るんだわ。用心しねェとな?」
蘭は椿に、確認を終えたドレスを差し出した。
「椿、150kgだ。1kg80万な。引渡しは外で待たせた男に知らせる」

ハイカラ乙女の恋綺譚