誰の一声がきっかけだっただろうか、気づけば懐かしいメンツに囲まれて昔話を肴に酒を煽った。3件もハシゴすれば、各々が頬を染めて楽しそうに笑いあっている。いい感じに仕上がって、昔の流れでこのままオールと行きたいところだったが、それぞれに家庭や明日の仕事の予定があって、ああいつのまにかすっかり社会人だなとガラにもなく物思いに更ける。
今日はここで解散だな。その空気を悟ってか、少しずつ点で散らばっていく。オレも終電でのんびり帰るか。駅に足を向けた。…そのはずだった。


「ふど〜」
「はいはい」
「ふど〜ってば〜」


いつの間にこんなに飲んでいたのだろう。肩に担いだなまえを見て、思わず呆れる。真っ赤な顔でふわふわと笑っている彼女の足取りはままならない。そのくせ、駅まで歩こうとするもんだから、見兼ねて彼女を拾ってしまった。こんな状態で終電なんか乗れるわけねぇだろ、バカ。ホント、手のかかるお姫様だ。


「ふふっ」
「んだよ」
「んーん。ふどう、やさしいなあって」
「へー。酔うと素直になんの?」
「どうだろう?ね、つぎいこ!オールオール!」
「バーカ。誰がふらふらの酔っ払い、連れて歩くか」


他愛もない話をしながら大通りに出る。気づけばミッドナイトを超えていた。車通りはだいぶ減っていたが、運良く一台のタクシーが通った。片手を上げて呼び止める。ぐにゃぐにゃな彼女を放り込み、運転手に多めの金額を渡した。これだけあればさすがに足りるだろう。迷惑料込みで、と伝えるとオヤジは微かに苦笑した。


「なまえ、住所言え」
「………」
「おい、寝んな!」


さっきまでの饒舌さはどこへやら。電池が切れたように静かになったなまえを思わず窘めた。オレ、お前の家しらねぇよ。知ってるわけねぇだろ。会ったの何年振りだと思ってんだよ。わずかな苛立ちを含みながら彼女の身体を揺する。


「…やだ……」
「やだじゃねぇ。起きろ、家教えろ」
「………やなの…」


起き上がったなまえは今にも泣き出しそうな顔をしている。全く、なんつー顔してんだ。へにゃっと笑ったり、寂しそうに震えたり、ころころと感情が変わる彼女はまるで小さな子供のようだ。そんな忙しない彼女の頭を撫でながら、あやすように、先ほどよりやさしいトーンで訊ねる。


「なあなまえ、家どのへん?」
「いわない…」
「帰れねぇだろ?」
「…かえらないの……」


ねえふどう、いっしょにいよ…?
きゅっと握られた指とたどたどしい声、潤んだ瞳が俺を射止めた。その瞬間、オレの中で何かがバチン、と弾ける音がする。なんなんだよ、こいつ。酔うと甘えるタチかよ。
ほんと、一人で電車に乗せなくてよかったと心の底から思う。こんなのちゃんと帰れるわけがない。頬が熱を持ったのはアルコールが回ったからだと思いたい。ザルのくせにって、今は言うな。ザルだってたまには酔うんだよ。


「…バカ野郎」


もう知らねーからな。
なまえの身体を奥へと押し込み、勢いよくタクシーに乗り込んだ。言い慣れた行き先を伝えると、車はゆるやかにネオンの街に飲み込まれていった。



刳テ過ぎる二酸化炭素
不動明王 / inzm (go)
190208 / title by 誰そ彼

happy birthday A.Fudo!
( to be continue...? )