◎企画 room 様に提出
◎名前変換なし



珍しく修也の練習がオフになった。久々にどこか出かけるか?朝起きてすぐにそう訊かれたけれど私はそれを丁寧に断った。彼だって日頃ハードな練習をこなしているのだ、たまにはゆっくりしたいだろう。出かけるのはまた次の機会にすればいい。こうして一緒に暮らしているのだからわざわざ遠出しなくても近場ならいつでも散歩することは出来るのだし。結局、私達は何をする訳でもなく家でのんびりまったり過ごすことにした。うん、こんな休日も十分素敵じゃないか。


「修也、コーヒーいる?」
「ああ頼む」
「砂糖は?」
「いや、入れないでくれ」
「オッケー」


夏未お薦めのコーヒー豆を専用の機械で挽き、80度くらいになるまでお湯を沸かした。フィルターまでセットして数回に分けてゆっくりとお湯を注いでいけば辺りに独特の匂いがふわりと広がっていく。さすがは夏未、このコーヒーいい香りだなあ。あ、そういえばこの間彼女の家に遊びに行った時美味しいクッキーもらったんだっけ。確かまだ残ってたよね。お茶菓子にちょうどいいんじゃないかな。そんなことを考えながら私はのんびりお茶の準備をした。
一緒に暮らすようになって気づいたんだけど、修也はコーヒーを飲む時必ずミルクを入れる。彼曰く、ミルクを入れた方が味がマイルドになるから好きなんだって。このことを知った時はちょっと意外だったな、だって私それまでずっと修也はブラック派なイメージがあったんだもん。所謂ギャップってやつかな、なんだか可愛いよね。ちなみに私はミルクと砂糖多め。何にも入れないのは苦すぎるもん。(うーん、まだまだ子供舌なのかなあ…。)
……よし、こんなもんかな。私はトレイに2人分のコーヒーとクッキーを乗せ、彼の座るソファーの前のセンターテーブルまで運んでいく。


「出来たよ」
「ん、サンキュ」
「あれ、何読んでたの?」
「ん?これ」


お前がどんなもの読んでるのか気になってな。そういう彼の手の内にはこの間私が買った女性誌があった。内容はファッションのことだったり最近テレビに引っ張りだこな俳優のインタビューだったり。特に見られて困るものでもない。


「…すまない、勝手に開いちゃまずかったか?」
「ううん、全然いいよ。それよりさ、楽しい?」
「ああ…、正直よくわからない」
「そういうと思った。修也、今ここにしわ寄ってる」


彼の眉間を突っつきながら私は苦笑した。それもそうだろう。何せ性別が異なるのだ、好みや感覚が違ってくるのは当然の話。修也の場合、サッカー雑誌を読んだ方がずっと楽しいだろう。彼の前にコーヒーを差し出しながらそんなことを思った。「はい、どうぞ」「すまないな。…ん、うまい。さすがだな」「ありがとう。クッキーも美味しいよ」そう言いつつもたった今淹れたばかりのコーヒーを片手に、何故か未だペラペラと雑誌をめくり続ける彼。ふふっ、なんだか可愛い。こういうところは全然変わらないなあ。彼に気付かれないようそっと笑みを溢し、特にする事もなくなった私は大人しく1人でテレビを見ることにした。







「……なあ、」
「んー?」


再放送のドラマが終わりに差し掛かる頃、それまでずっと雑誌を読んでいた修也が突然口を開いた。呼ばれた本人はクライマックスに夢中で画面を食い入るように見ているので彼には一切目を向けないのだが。
すでに温くなってしまったコーヒーを飲む為、私は自分のコーヒーカップに口を付けた。今思えば、この瞬間を彼は狙っていたのかもしれない。


「そろそろ結婚するか?」
「……っ!ごほ、ごほっ」


一口飲んだところで彼がいきなりそんなことを言うもんだから、吃驚してコーヒーが変なところに入ってしまった。私は思わず噎せてしまう。大丈夫か?って背中を撫でてくれる修也の手は優しいけれど、こんなことになったのもそもそもは彼が変なことを言い始めたからである。
漸く落ち着いた呼吸に安心しながら、私は若干いたずらっ子のように笑っている修也に目を向けた。


「えっとさ、修也くん。いきなりどうしたのかな?」
「俺、もうお前のこと養えるくらいの選手にはなれたぜ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「だって、こういうの着たいんだろ?」


そこには修也の見ていた雑誌があって、開かれたページには真っ白なウェディングドレスが映っていて。よく見てみると左上の角っこがぴらっと折れていた。…ああ、今思い出した。そのドレスがあまりにも綺麗でついいつもの癖、注目したものがある時には雑誌の角を折る癖でそのページを折っていたような気がする。「付き合って10年、長いこと同棲もしたし、俺もそろそろと思っていたんだ。にしても、お前は本当に分かりやすいな」視線をずっと折り目に向けていたら修也に笑われてしまった。だからって不意討ちすぎるでしょ。私はなんだか恥ずかしくて顔が真っ赤になるのを感じた。


「やっぱりドレスは白がいいのか?」
「…うん。だけどお色直しでいろいろ着てみたいな」
「ははっ、欲張りだな」
「…ねぇ、修也」
「ん?」
「私ね、ハワイで結婚式挙げるの憧れだったの」
「じゃあ新婚旅行はどうするんだ?」
「うーん、ヨーロッパ巡りでもしちゃう?」


冗談混じりにそう言えば、バーカと頭を小突かれた。だけど私が本気で言っちゃえば彼なら何でもやってのけてしまうんだろうなあ、なんて。
「なあ、」落ち着いた低い声で、だけどいつもより優しい声で名前を呼ばれた。ゆっくりと顔を上げ彼と視線を合わせれば、


「長い間、待たせたな」


得意のドヤ顔を向けられて、直後額にそっとキスを落とされた。幸せ過ぎて自然と目から涙が溢れた。
嗚呼、昔からこの人の狡いところは変わらない。そんなことを思ったとある日の昼下がり。

次のオフからは式の準備の関係でお出掛けすることが多くなりそうだ。



大事なとのために着る

ンピースがあればの子は生きていける




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企画様に提出。テーマは「だいすきなひとと暮らそう」でした。
アニメ45話の修也復活とGO初クレジットも記念して、修也大好きな気持ちをたくさん込めて書きました(時間軸的には選手時代の修也を想像して書きましたが…)。イケメンな彼に言わせたい台詞をバンバン言わせることが出来てとても楽しかったです◎誰得かは全くわかりません 笑

素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!